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21 アタシに蟹を食わせろッッッッッ!

なんか書けちゃったから投稿します。

 コンクリートの建物の前にちくわを進める。ちくわは自然に減速しやがて停止した。コースにあるピットインと同じ挙動だ。


 ヘルプも出た。ピットインにはデコトラは入れず、時間無制限で休憩でき、ログアウトが可能だと言う。再ログインはクエスト途中から。クエストをここで終わらせられるが、もちろん菊池にそのつもりは無い。


 乗って来たちくわを廃棄すれば、別のちくわに乗り換えられる。またストレージの素材でちくわを造ったり、調理もできる。


 水道と電気が通っているので、風呂に入ったり水を補充もできると言う。ちくフルは全年齢向けなので、脱いでも水着だ。






 ひとっ風呂浴びようと菊池は風呂場に入る。浴槽の底に光る映像デバイスがあった。【動かぬ証拠 2/3】とフレーバーテキストにある。


「……ううむ」


 風呂に入ることにする。顔が砂まみれなのだ。出て来たメニュー画面で『お湯張り』を選択すると、一瞬で浴槽がお湯で満たされた。


「うーん……アイツのクエストと関係あるのかしら?」


 【イワシを届けろ】の発生条件がわからない。少なくとも個人が引退と引き換えに遺すレガシークエストと、公式が実装したワールドクエストに関連性は無いと菊池は思う。


 お湯に浸かった菊池はオッサン臭い声を出した後、顔を備え付けのタオルで拭いてから、ストレージから取り出した駿馬(しゅんめ)のクエストの方の映像デバイスを再生した。







 ■





「ウェェェェイッッッッッ!皆さんお元気ィィィィイッッッッッ?」


 顔も体型も髪も服装も態度もかけているサングラスも何もかもチャラい青年が、グツグツ煮える土鍋の後ろでカメラ目線を向けている。


「菊池駿馬でぇぇぇぇす!ウェェェェイ!今日は……」


 駿馬は土鍋の蓋を開けた。中の汁が煮たって泡を吹いている。


「おっと失礼。見とれちまったぜ。今日は俺のレガシークエストを受けている皆さんに、1人蟹尽くしパーティーの模様をお知らせしまーすッッッッッ!」


 湯気がサングラスを曇らせた。数字のようなまぶたをパチクリパチクリ動かしながら、駿馬はハンカチでレンズを拭く。


「いや~鍋が熱くってねぇ~」


 サングラスをテーブルに置いてから……毛ガニを豪快に土鍋に入れて蓋を閉じる。


「皆さ~ん、知ってるか~い?メニュー画面で調理を選択しなくても、フツーに調理できちまうんだ。蟹は自分で調理した方が断然旨いね」


 駿馬は右手を指差す。その先には蟹の山。タラバ蟹、ズワイ蟹、花咲蟹、毛ガニ、サワガニ等々。


「失敗してもまだまだあるからよッッッッッ!おっと味噌入れ忘れた」


 再び土鍋を開け、中に味噌をブチ込む。


「入れ過ぎちまったかな~、まあ失敗しても作り直すから良いけどなッッッッッ!」


 土鍋の蓋を閉じてから、駿馬はストレージからさらに乗った揚げ物を出した。


「待ち切れね~わ。ちょっと間食っと」


 手に取った揚げ物がアップになる。


「これはサワガニの唐揚げで~す!旨そ~。ここに白菊がいたら一瞬で無くなっちまうわなッッッッッ!」


 唐揚げが駿馬の口に入る。モゴモゴと閉ざした唇が動き、喉がゴクリと動いて駿馬の目が開く。


「旨ぇぇぇぇぇ……ビーム出ちまう。目からビームが出ちまうぜッッッッッ!」


 もう1つ口に放り込む。


「ぷはああああああああッッッッッ!炭酸水飲みてぇぇぇぇぇ~」


 ストレージからサイダーを取り出し、蓋を開けてラッパ飲みする駿馬。


「げふぅぅぅぅぅ!ちくフルはよ、全年齢向けだから酒が無ぇのはわかる。俺様は飲めねえから構わねーけど」


 空のペットボトルをストレージにしまい、もう1本サイダーを開けた。


「糖分の入って無ぇ炭酸水しか飲めねえってどういうことよ!よっしゃGMコールだッッッッッ!」


 GMコールを送信して、唐揚げを一気食い。


「もしゃりもしゃりもしゃり…………ゴクン。旨ぇ~♪」


 駿馬は土鍋の蓋を開けた。


「もう煮えたか……わかんねーな!毛ガニなんて煮たことねーからわかんねぇぇぇぇぇッッッッッ!」


 ストレージから出されたおたまが、土鍋の汁を掬う。


「わからんけど、旨ぇ!」


 もう良いんじゃね、と毛ガニを鍋から出し、アチチアチチと甲羅を剥がす。


「これが蟹ミソってヤツか?色が違うしな、きっとそうだ」


 スプーンでかき出した蟹ミソを茶碗に入れて匂いを嗅ぐ。


「味噌の匂いしかしねーけど、これ絶対旨いヤツだ」


 茶碗に土鍋の汁を入れてから、揺する。アップになった茶碗の中で蟹ミソは味噌汁の中に溶けた。


 駿馬は茶碗の中に息を吹きかける。湯気がチャラい前髪を濡らす。


「んじゃ……いただきます。ズズズズズ……」


 汁をすすった駿馬は固まる。まるで時間が止まったかのようにビクともしない。


 3分経過。茶碗がテーブルの上に置かれて、駿馬は紅潮した顔を見せた。


「やべっ、鍋が吹きこぼれてる。やべっ、やべっ」


 土鍋の下のカセットコンロのスイッチを切った駿馬は、どうしよどうしよと慌てふためく。映像の外からオッサンのNPCが嫌そうに土鍋をカセットコンロごと片付けた。





 ■





 ここで映像を止めた菊池は、浴槽に張られたお湯に両の手のひらを叩きつけた。


「駿馬えええええええええええええええええええええッッッッッ!」


 お湯が風呂場に飛び散る。


「てめええええええええええええええええええええええッッッッッ!毛ガニには熱燗だっつってんだろおおおおおおおおおおッッッッッ!」


 あくまでも菊池個人の意見です。


「青森産の本醸造の熱燗だっつってんだろおおおおおおおおおおがああああああッッッッッ!」


 あくまでも菊池個人の意見です。


「甲羅に蟹ミソと味噌を乗せて熱燗垂らして食いたいって言ったろうがああああああああああッッッッッ!」


 あくまでも菊池個人の意見です。


 バンバンとお湯を叩くと跳ねて吹き飛び、浴槽の深さが半分を切った。


 菊池は排水した後、体を拭いてライダースーツを装着し、クエストの準備をした時に調理した弁当を食べることにした。

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