第81話 次代
山岳を超えた先にあった帝国を滅ぼし、ついに大陸に残る勢力はディール帝国と教皇領のみとなって数ヶ月後。リンデさんが無事に男の子を出産した。出産前から魔力の質というので男の子か女の子か分かるのだが、時々間違えることもあるので産まれるまで性別の確定はしない。
しかし周囲が「きっと男子ですよ」と言っていたし、リンデさんも男子が生まれることを信じて疑ってなかったので色々と男子が生まれた時用の準備は進めていた。パルパル教は一応男女同権ではあるけど、男子優先の思考自体は中々変わらないな。
しかし出産が終わって思うことは、母子共に無事で良かったということ。ぶっちゃけ性別は二の次だわ。重要なことに変わりはないんだけど、出産で命を落とすのは珍しいことじゃないし、母子共に健康であることが一番だ。
生まれてきた男の子の名前は、ピエールにする。別にこの世界ではピエールという文字列に意味なんてないし、何となくで名前を付けたとリンデさんや周囲の人には説明したけど、由来は元の世界のピエロ(道化師)から。名は体を表すって言うし、この子には大人になったら演技を強要されることになると思うから、それに相応しい名前にしておいた。
強大で、でも恨みも多い皇帝。結構な人数の国民が、地獄に落ちろと願っている皇帝。もしもそんな皇帝が死んだ時、皇帝の子供に大した名声や実績がないなら、その子供に皇位が受け継がれた瞬間に蜂起や独立が相次ぐ。それを防ぐためには、子供が実績を積み上げないといけない。
……将来的に俺は、ピエールに殺されるつもりだ。あと十数年間、皇帝としての生を楽しんだ後、次代の皇帝の最大の功績となるために殺される。俺の悪行は決して消えるものではないというか、十数年後もくすぶり続けるのが当たり前の悪行を積み重ねている。
罪のない人を、八桁ほど殺しているわけだし仕方ない。反抗的な人や宗教戦争で死んだ人も含めると、俺一人でどれだけの死人が出たのか、数えるのが馬鹿らしくなるぐらいの数だしな。カルマ値はヤベー事になってそうだ。大量破壊兵器の開発前でさえ世界一の悪人だったことを考えると、上限を突破してオーバーフローしてそう。
そんな俺を殺すこの子は、きっと大陸中から望まれる皇帝となる。英雄的行動を行い、しっかりした基盤の帝国を受け継ぎ、ちゃんとした統治を続ければ、その後数代は安泰だろう。俺の死の価値は、それほどまでに高い。
ピエールの特性の方を確認すると、水属性魔法レベルⅠと剣術レベルⅠ、鞭術レベルⅡに加えてリンデさんの『怪力』の下位互換的な特性である『剛力』を保有している。保有魔力量は、俺に似たのかとても少ないです。これはもうどうしようもないな。まだ身体的特性があるだけ俺よりも良いか。何か鞭術を受け継いでいるし、剛力がある分一般人よりかは確実に強い。
地味にヴァーグナーと同じ水属性魔法持ちだけど、これはクラウス家が代々氷の魔法を使える者が多いからだ。何なら父親のバイヤーも使えました。俺が持つ火属性魔法の特性は、母親からの遺伝っぽい。まあ確実に、俺の子です。というか出産日から逆算したらちょうど初夜の子という。ちゃんとこのことも視野に入れて、結婚式の日取りを決めておいて良かったな。
……耐久力を得るための特訓は、3歳ぐらいから行う予定。俺が後天的に獲得した耐性とかまでは、流石に受け継がなかった。まあ特訓は既に何人かの幼子で実験はしているので、苦痛は伴うだろうけど死にかけるようなことはない。あとあと俺を殺す予定だし、恨みは持っておいてくれた方が良いな。
そしてピエール誕生の日に、教皇からの降伏を受け入れる。今までずっと降伏するから大砲での砲撃をやめてくれと言い続けていたけど、偉大なる2代目の誕生日と大陸制覇記念日は被らせたかったからずっと攻撃し続けていたという。とにかくこれで、この子の誕生日に大陸が統一されたという逸話を作ることが出来た。伝説は作るもの。とくに英雄を作るなら、誕生日ぐらいこだわらないと。
あ、そう言えばこの子はアルビノじゃないな。リンデさんが真っ白な髪なのに対し、ピエールは俺に似た茶黒い髪の毛だ。確かアルビノは劣性遺伝子だから、そちらは受け継がなかったということか。まあ皇帝がアルビノだと悪い噂が立つのは避けられなかったし、これはこれで良かったのかな。
まあピエールの子供がアルビノになる可能性はあるけど、そこまでは関知出来ないし介入出来ないだろうからピエール自身が頑張れ。病気や猛毒などで早死にしないよう見守りつつ特訓を重ねて、次代の皇帝として育てていかないとな。




