第79話 結婚
リンデさんが15歳となり、成人を迎えたので挙式を行う。今まで散々こき使って、それでもほとんど文句を言わずについて来たリンデさんはある意味聖人だと思う。なお最近は魔素爆弾でも壊れなかった正体不明の金属を軽々と折り曲げ、剣に加工しやすくした模様。もし俺とリンデさんで喧嘩になったら、凄惨な夫婦喧嘩が繰り広げられそうだな。
別に結婚式を盛大な式にする必要もないんだけど、皇帝の力を内外に示すために金はふんだんに使う。その金の出所は、国民への課税です。結婚祝い金を領国内の全国民から徴収する屑。
まあカルリング王国もエストアニ王国も王や王子の結婚式のための追加課税は行っていたし、参列者全員に酒を振る舞うだけでも莫大な金がかかるのに、その費用を誰が払うんだということになる。
そして結婚式のパレード当日。城から出た直後に爆弾が降って来て俺とリンデさんの乗る馬車を先導する馬車に直撃する。ついでにすぐ後ろの馬車にも直撃する。刺客のやる気を感じられないな。上空を見ると、どうやらマシア王国のワイバーン兵が爆弾を投下しているようだ。
別にあの程度の爆弾なら、俺の頭に何十発当たっても死にはしないし、リンデさんに直撃してたら怪我はしていただろうけど……奴隷を調教する傍ら、最低限の毒耐性や回復力は得ているから大丈夫だったんじゃないかな。というか防空網がザル過ぎて笑う。王都周辺には対空砲も配備しないと。
城壁の上とかにいる見張りはたぶん、高高度を飛んで雲の上に居たワイバーンの捕捉は出来なかったのだろう。……なんで目出度い日まで、こんなことを考えないといけないんだ。とりあえず前後の馬車に居た人の見舞いを行い、予備の人員と入れ替え、パレードは続行。
ぐるっと王都を一周して、最後に締め挨拶をしようと思っていたけど、気が変わった。マシア王国の現王とその側近は、親族も含めて全員皆殺しにする宣言でもしよう。あとマシア王国の中核的な公爵領であるマシア公爵領は、更地にしますと宣言。前の聖戦で前王が死んで、3人の兄弟で後継者争いが始まったから静観していたら、一番ディール帝国に強硬な姿勢を見せた長男が勝っていた。
それ以降、内乱と腐敗で荒廃した王都を復興しているとは聞いていたが、まさか直接的に殺しに来るとは思わなかったな。別に今までも、暗殺されそうになったことなら幾らでもある。ここまでやらかしておいて、恨みを買っていない方がおかしいし、背中を刺されたことも何度かあるけど……。
ここまで見事に水を差されたのは初めてだ。というかこれだけのことがありながら、馬車が頑丈だったからか誰も死んでないし、逆に爆弾を投下したワイバーン兵は近衛兵達の魔法で狙撃され墜落させられ、落下死していた。……落下で即死したのは、非常に残念だ。せめて生きた状態で火葬したかった。
もしもこれが魔素爆弾だったら話は違って来ていたし、技術が流出してなくて良かった。レナン公国は十日も持たなかったから、次はマシア王国だ。そのままマシア王国の南にある教皇領まで、上の立場の人間は皆殺しにしていこう。
「今の私は、前までのように盲目的に貴方様が好きだとは言いきれません。何の罪もない人々をただただ殺戮して、反抗する人は消して……征服された側の国々からの恨みは、とても深いです」
「まあ、事実として俺が殺した罪のない人の数は、数百万人になるだろうな。エストアニ公爵領では、伯爵領が丸々一個消えたし、ボルグハルト公爵領でも似たようなことにはなった」
「……ですがもう、元に戻る道というのはありません。ここまで覇道を突き進んでしまった以上、今引き返す道を選ぶのは滅亡を選ぶのと同じことです」
式が無事に終わり、初夜の前に真面目なトーク。この後にヤるというのが信じられないぐらいにムードは重いです。そう言えばリンデさんからの呼び方がパルマー様から貴方様に変わっているけど、確か魔素爆弾を開発した辺りで変わりました。たぶんリンデさんからの好感度がここら辺で閾値を下回っている。基本好感度を上げようとはしていないから仕方ない。
「残っている国民の大多数は、貴方様の統治下が絶対だと心酔し切っています。しかしそれは、100%ではありません。そして100%でない限り、今日のようなことはずっと起こります。
……国民に恐怖を与える貴方様が、もしもそのことに対して恐怖を感じるのであれば、その半分を請け負いましょう。どんなことがあろうとも皇妃として、己を殺し、その役目を果たします」
言い切ってからリンデさんは「正式に夫婦になったことですし、ちょっとぐらい格好つけさせて欲しいですわ」と笑う。今の言葉は簡潔に言うと「どうなっても俺を支えていく」ということだし、俺以上に覚悟は決まっているかもしれない。本当に、良い嫁さんを持ったと思う。
なおその後、抱きしめられた時に心臓が飛び出しそうになった模様。物理的に。まあでもリンデさんがギュッと本気で抱きしめても大きなダメージが無い当たり、俺の身体の成長を感じる。前までより痛みも少なかったし、たぶん今なら土砂に埋もれても気絶とかしないだろうな。




