第77話 帝国
元カルリング王国の領土を飲み込み、カルリング帝国の最大版図を塗り替えたのでこれからはディール王国改めディール帝国を名乗る。エストアニ王国の方はエストアニ公爵領を支配された結果、王都がエストアニ公爵領の南にあるメルヴィル公爵領へと遷都されており、エストアニ王国の他の地域から農民が集う動きこそあったものの、反撃はしてこない。
諜報員達によると、徹底抗戦派と降伏派で国が二分しているとのこと。包囲する直前に、エストアニ公爵領からエストアニ王は脱出していたわけだけど、ほぼ半年間砲撃を受け続けてはいたので、敵わないことは理解しているはず。
そして3ヵ月ほどの睨み合いが続いた後、向こうは軍の再編成を行う。徹底抗戦するのか。その間にこちらは魔法技術の方で進捗があり、魔力を構成する魔素を特定条件下で固めたものに魔素を強いスピードでぶつけると、エネルギーと魔素をより速いスピードで放出することが分かった。
……簡単に言うと、核分裂の魔力バージョンが出来たということだな。残念なことに、使った後に原子爆弾のような有害物質はまき散らさないため、使い勝手は非常に良い。小型の魔素爆弾で実験したところ、直径500メートルほどの巨大なクレーターが出来たため、大型にしたときの威力なんて自国で測定したくねえ。
というわけで、通信用の魔導具をエストアニ王へプレゼント。こちらは離れた感圧版が踏まれた時に光る機構の魔導具を利用しており、文字を相手に直接届けることが出来る。慣れたらタッチパネルでのチャット感覚で使える優れもの。特定の相手としか使えない上に、嵩張るけど、一瞬で離れた土地と意思疎通できるメリットは言うまでもない。
『降伏しろ。さもないと全員死ぬことになる』
『絶対に降伏などしない。全員が、戦いを継続する覚悟があるぞ』
向こうにその魔導具が届いたことを確認して、降伏しろと伝えると拒否される。仕方がないので雇ったワイバーン兵にこのことを伝え、大型の魔素爆弾を近隣の砦に落下させるよう通達。このワイバーン兵には魔素爆弾を「ちょっと強い爆弾だよ」程度でしか伝えてないけど、万が一を考えて高高度より落とすよう指示をしている。後ろに乗る、爆弾を落とす方の奴隷は威力を知ってるから十分な高さから落とすと思うけど。
指示は、同じように通信用の魔導具で出した。すると十数分後。支配下に入ったエストアニ公爵領の一番南、エストアニ伯爵領の砦に入っていた俺の元にまで衝撃波が襲う。まるで地震だな。これはやべーわ。
もしかしたら、メルヴィル公爵領を全て更地にしたんじゃないかと不安になったが、エストアニ王へ送った通信用の魔道具からメッセージが届いたので生きているようだ。しかしまあ、爆弾を受けた砦は全壊を免れないだろうし、近隣に住む村の住人とかも全滅してそう。
『き、貴様には良心の呵責が一切ないのか!』
『俺は降伏を促した。そちらはそれを拒否した。だから砦が地図から消えた。出来事は至極シンプルだろう。付近の村々も吹き飛んだだろうがな。
どうした?降伏すると言うなら寛大な俺はそれを受け入れるが?』
『このようなことをしておいて、今更何をほざく。最悪の魔王め』
『そうか。まあ気が変わったらいつでも降伏を受け付けるぞ?』
向こうはそれでも継戦を希望したため、今度は小型の魔素爆弾をワイバーン兵達に投下させていく。城の周辺地域は、全部焼野原になるだろうな。ちなみにワイバーンには2人まで乗れるようで、高高度まで飛ぶことも出来る。何でマシア王国軍のワイバーンは、爆撃をしなかったんだろう?
一応、雇ったワイバーン兵の操縦係には命令違反をした瞬間にキュッとなる首輪を付けているし、後方で実際に爆弾を投下するのは俺の奴隷なので裏切られる可能性は少ない。あと、小型の方なら食らっても俺は死なないので大丈夫です。しかしまあ、僅か半日で城塞内部の9割方を破壊しつくしたとかヤバイな。敵方に渡ったら、今の段階だと対処できない。
『……いつまで続けるつもりだ』
『降伏しない限り、他の公爵領でも同じことをしていくけど、降伏しなくて良いの?文字通り全滅するよ?』
『本当に、何食わぬ顔で貴様は、全滅させるのだろうな。
……降伏する』
翌日になって、エストアニ王は降伏を選択。この判断が一日遅れたせいで50万人を超える死者が出た模様。農民兵が集っていたし、あの大型魔素爆弾のせいで砦と周囲の村々は壊滅状態だろう。この責任はエストアニ王自身にとって貰うとして、問題は国民の方だけど、エストアニ公爵領の時とは違い、メルヴィル公爵領に居るエストアニ王国民は一切抵抗をしなかった。
城塞内部で虐殺に近い大規模爆撃を繰り返していたから、メルヴィル公爵領全体に恐怖が伝播していた模様。とりあえず悪者はエストアニ王にすり替えて、情報操作と刷り込みをしよう。悪かったのは、すぐに降伏しなかった元エストアニ王国の上層部。これを真実にして、支配層を切り崩していこうか。




