第69話 師団
公爵領が一気に増え、それと同時にボルグハルト王国とも隣接することになったので軍の編成を見直す。この世界、常備軍なら常備軍だけで固めるし、農民兵は農民兵だけで運用する。俺も、今まで奴隷兵は練度毎に分けて戦場に送り込んでいた。まあそっちの方が分かり易いし、まとめて戦わせるだけならこれで良い。
しかしこれからは恐らく複数の敵国と同時に戦争状態に突入すると思われるので、師団という単位を作り、複数の軍隊を同時に運用出来るようにする。大砲の故障率が低くなってきたので、砲兵の概念も導入するべきだろう。今までは奴隷兵がその身を削って敵陣に撃ち込んでくれていたけど、これからは奴隷兵に拘らず大砲を運用することが出来る。
で、師団の存在は大体知っているけど細かな定義とかを俺は知らない。別に防衛大学校でガチの戦史や戦術論を学んだわけでもないし、俺自身の頭が良いとは思えない。なのでまあ師団は、消耗していない限りそれ単体でいかなる状況でも戦闘行動を継続出来る対応力の高い軍、みたいな説明を封臣達にする。
そして不死身奴隷とか精鋭奴隷とか普通の奴隷とか適当に割り振っていた概念を撤廃し、上級奴隷、中級奴隷、下級奴隷の3つの階級に分けた。下級奴隷は一般人に毛が生えた程度の耐久力。中級奴隷は大怪我をしても数日で治癒される回復力の高い奴隷。上級奴隷は大怪我を負っても数時間で治癒されるレベルの超人的な奴隷というイメージ。後で細かい基準は作るけど、今いる奴隷達はこの3つに割り振って行く感じかな。
ディール王国第一師団から第三師団までの編成内容は、全く同じにする。精鋭を固めた方がこの世界だと強いのかもしれないけど、精鋭以外の成長を促したいことを考えるとバランス良く配置した方が良い。変に戦力を偏らせると、強い軍に頼りがちになりそうだし。
師団の編成内容については、色々と考えた結果以下のようになった。
ディール王国 第一師団
師団長:ハンス
騎兵(元常備軍):500人
上級奴隷:200人
中級奴隷:300人
下級奴隷:1000人
歩兵(元農民兵):1500人
砲兵(元精鋭奴隷の砲手):150人
大砲:16門
輜重兵:150人
衛生兵(強制徴兵):500人
工兵(強制徴兵):500人
通信兵(強制徴兵):150人
合計6300人
これを3つで、合計18900人の軍人を雇用することになる。なお師団の中核を担う奴隷兵(歩兵)1500人は無賃だし、衛生兵、工兵、通信兵はほぼ全員が強制的に軍に入れられた者達で構成されてます。人が足りてないから仕方ない。一応、ヴァーグナーの軍に所属していた人は大方回収しているからこそこの規模の軍になったけど、これでもまだカルリング帝国全盛期の2万人には届いていないんだよなあ。
ヴァーグナーの元常備軍を各兵科に割り振って、強引に師団としての形を作る。一応、歩兵師団にはなるのかな。この中で、本当に戦闘をする部隊は歩兵4500人と騎兵500人と砲兵の150人で計5150人。要するに残りの1150人は、支援部隊ということだ。割合的にこれで良いのかは知らん。
これだけいると、働いていない兵もかなり出て来るけど各々役割を果たさなければ毎回の食事の方にダメージが行くような軍隊の規則を作ったし、奴隷兵以外は賃金が出るからちゃんと働いてくれることを祈る。まあ戦地にいて働かない奴は少ないだろ。
第一師団の師団長にはコルネリアの兄で元傭兵団長のハンスを据える。まあ普通に指揮出来るタイプの人間だし、大軍を預けても大丈夫だろ。第二師団長はライト、第三師団長はハルティングなので師団長は一応全員が伯爵だな。
……地味に俺の封臣の中では唯一の最古参封臣となったハルティングは軍事面で優れているし、宰相を任せた時も不穏なことはしなかったから結構優秀な人材です。こういう人材が最初からいたのは幸運だった。最初に得た領土のフェンツ伯爵にいた11人の男爵のうち、こいつ以外まともな人材がいなかったのは不運ともいえるけど。
残りの10人は全員元奴隷と入れ替わりで追い出しているので、本当に最古参なんだよな。まだ働き盛りの年齢だし、昨年に2人の子供が出来たので嫁さん達との付き合いも上手そう。今では元から持っていたフェンツ伯爵領内の男爵領と、ミラー公爵領の伯爵領を1つ保有している状態。他の元奴隷達を押し退けて、師団長に据えられるだけの信用はある。
後は参謀本部も設置。臆病で自分本位な計算高いグラミリアンをトップに据え、頭の良さそうな領民や元奴隷をかき集める。これでようやく、俺が直接戦争であれこれ言う必要はなくなるかな。地味に結構な負担だった。特に兵糧問題は常につき纏うから、それを専門に考える部署が出来たのは素晴らしいことだと思うよ。
もうすぐエストアニ王国でマシア王国派の第二王子による軍事クーデターが起こるだろうし、そうなればマシア王国とセットでこちらに攻めて来ることは大体予想出来る。ボルグハルト王国からは相変わらず敵意しか飛んでこないし、飢饉から徐々に回復し始めているカルリング王国は親の仇を見るような目でこちらを睨んで来ている。いや実際に前皇帝殺したのたぶん俺だけど。
「シュルト公国がレナート帝国に宣戦布告いたしましたわ。
なので、援軍が欲しいという話が来ていますね」
「え、勝てる公算あるの?完全にうち頼み?」
「シュルト公国の総兵力は3500人ですが、地震の被害も少なかったですし、毎年恒例の略奪を今回は領土付きでやるだけですわ」
「ああ……そう言えば毎年のように略奪をしていたな。
とりあえず、第二師団を送ろうかな。周辺国の中ではレナート帝国が一番元気だろうし、軍の力を削ぐに越したことはない」
カルリング王国から独立を果たしたシュルト公国も領土拡張に乗り出したので、それと協調するようには動く。リンデさんの実家相手なら、多少の援助は惜しまない。将来的に上手く行けば、シュルト公国をそのまま吸収できるだろうし、軍編成を変えたことによる効果の確認もしたかったから援軍を拒否する理由があまりない。
恐らくレナート帝国軍は8000人規模にはなるだろうから大きな戦争になるし、テスト相手には持って来いだ。なお戦費は今までの倍ぐらいかかっている模様。大砲とかいう高価な玩具をこれから増やすかは、この戦争での結果次第だな。今回は後で戦費をシュルト公国に払って貰うことになったから、完全にテスト感覚。相手のお金で実験するのは楽しい。




