第58話　整理

今回の地震で、奴隷の死者は出なかった。ついでに言うと、奴隷上がりの男爵達に死者はいなかったので、ヨアヒム伯爵以外に重要な人物は死ななかったということだな。これは幸運なことだし、指示を出す人間がいるということは復興が早く進むということ。

次の目標をディール公爵領の南にある、エストアニ王国のミラー公爵領にするけど、今はまだ瓦礫の山なので占領する旨味はない。というか今は、領内の発展に目を向けるべきか。王都にある家の多くも倒壊したけど、これにより区画整理をしやすくなった。分かり易いよう、王都は完全に碁盤の目状にしてやる。

あと、本格的にボルグハルト王国から情報が入って来ないから西は壊滅的な被害を受けているのかスパイが入れないかの二択。どちらもあり得そうなのが判断に困るところだな。個人的には後者だと思っているけど、それにしても今までに送っているスパイ8人の内、1人すら帰って来ないのは色々とおかしい。

一先ず俺自身も、王都の復興作業を手伝う。実際に建築用の資材を運び、区画毎に全く同じ家を建てて行く。ぶっちゃけ割と辛い状態なので、強引に家の規格を決めて簡易的な住居を大量に作っていくしかないです。避難場所なんてあるわけないので、現時点で多くの臣民は野ざらしの状態です。辛そう。

後は貧困層向けの、長屋を建設していく。たぶん6畳一間ぐらいの大きさの部屋が、1つの階に12部屋ある2階建ての建物。その長屋を並べて貧困層に場所を与えると共に、管理をしやすくする。基本的に革命というものは、貧困層から起こる。そこをしっかり監視し、反乱の芽は摘んで行こう。

特にこういう天災の後だと、神の怒りとか領主への天罰とか言い出すアホがいるのが面倒だ。宗教ってウザいね。実際、クヌート教がこの世界、少なくともカルリング王国やレナート帝国で信仰されているのは、女神が実在したからだし、街中を歩いていると神罰とかそう言う人がわりといたので、ひっ捕らえて街の中央に吊るす。

「このようなことを……必ず貴様に天罰が下るぞ！」

「女神が天罰を下せるのなら、とっくの昔に天罰が下っているんだよなあ。

……クヌート教から改宗するなら生かしてやる。改宗しないならここで朽ちて死ね」

そして捕らえられた人物には、改宗を迫った。改宗先は、俺が3秒で作ったパルパル教です。脳内で3秒ほど邪な俺と悪の俺が相談した結果、男女同権、複数婚の許可、近親相姦の許容、同性愛の許容などを教義にぶち込みました。元々のクヌート教の側室3人までとは違い、この複数婚の許容では側室の数が無制限です。どこぞの性王も喜ぶだろう。

あと教皇や司祭の任命権は俺や封臣達にあります。政教分離の原則とは真逆のスタイルだ。しかしこの教義のお蔭で、少数派だった同性愛者や近親相姦を是とする者達からの支持は得られた。重要なのは、幾つもの少数派を取り込むこと。クヌート教から破門された以上、宗教は自分で作り出すべきだし、どうせならクヌート教に敵意を持つ者を取り込みたい。

もちろん、こんな邪教に改宗してくれる人は少ない。新しくパルパル教を作った当初、クヌート教から改宗してくれた人は、奴隷上がりの男爵や伯爵の封臣達。あとはその家族と奴隷ぐらいだった。

しかし今は、このパルパル教に改宗してくれる領民が少なくない。こんな宗教を信仰してくれるようになったのは、俺がクヌート教の悪事、悪評をばら撒いたからだ。

こういう宗教を浸透させる時、最も簡単なのは他の宗教の評価や価値を下げることになる。あとついでに、無宗教の人も存在価値を下げる。相対的にマシ、という状態にすれば勝手に人は集まるもの。中には本格的な対立をしてくる人もいるけど、そいつらを見せしめに殺せば残りの大多数は改宗してくれます。恐怖政治万歳。

今回のクヌート教のネガキャンは、育て上げたうちの諜報員達が頑張りました。教皇や司祭がどれほど裕福な生活をしていたのかを明らかにし、孤児院とは名ばかりの売春宿を経営していた人を利用する。

この孤児院(売春宿)を経営していた司祭は、累計で90人ほどの少年、少女を富裕層に売っていた。しかしながら、このようなことをしていた孤児院の経営者は1人しかいない。他は真っ当に孤児院を経営していたし、中々に聖職者の悪人というのはいなかった。

なのでこの情報を公開した時は、ディール公爵領内にいる孤児院を経営している司祭は平均で1.3人の子供を売っている、という情報に置き換える。ディール公爵領にある孤児院の数は、合計で69ヵ所。つまりは1ヵ所辺り1.3人の少年少女が売りに出されているな。

母数をディール王国領内ではなく、ディール公爵領内にしたのもポイント。王国全体だと平均値が下がるし、公爵領から更に母数を少なくすると流石に怪しむ人が出て来る。だからこの辺が、一番評価に響くだろう。

他にもこの平均値の持つ負のパワーを活かして、クヌート教の上層部がどれほど豊かな生活をしていたかを明らかにし、ついでとばかりにクヌート教の司祭の言葉を都合よく切り抜く。マスゴミ全盛期の21世紀日本を生きていたから、こういう類の情報操作は苦じゃないな。

嘘だと光るアーティファクトがある以上、嘘は言えないけど、真実を曲解、婉曲して伝えるなら問題はない。あ、そうだ。ついでに分かり易い図も書こう。62%よりも38%の方が面積の大きい円グラフや、横の目盛りがおかしい棒グラフとかの知識、活かすならここしかないな。