第57話 保護
どうやら「カルリング帝国は死に体」という情報は誤りだったようで、正確な情報によるとカルリング帝国は既に死んでいた。もっと言うとカルリング帝国からカルリング王国に格下げされた、だけど。まあ、カルリング帝国は死んだと言っても良いでしょ。帝国級の領土じゃなくなったし、軍事力も大幅な弱体化をした。
そしてそのカルリング王国と独立戦争状態に入ったヴァーグナーだけど、3日でカルリング王国側が降伏。ヴァーグナーの独立が認められる。あれ?かなり許されざることをしているヴァーグナー相手に、戦闘すら起こさずに独立を許すのか?
そう思っていたら、ヴァーグナーと元第六皇女が再婚。ふぁー。こいつどこまで根回ししてやがった。封臣から君主に切り替わったことで、カルリング王国の王に納めていた税は無くなり、それでいてカルリング王国の王族と結婚していることは変わってないからカルリング王国と新たに建国されたクラウス王国は同盟関係になる。
ついでとばかりに教皇からの破門を解かれ、許されるヴァーグナー。俺は一体何を見せつけられているんだ。状況はただただヴァーグナーにとって都合の良いように推移していっただけじゃないか。
……俺の認識が甘かったし、ヴァーグナーは既にカルリング王国内で相当高い地位に居た。これぐらいの騒動を引き起こせるだけの、力はあったということだ。これはかなり、厄介な状況になったな。封臣のままのヴァーグナーは、王と比べると限られた権限しか持ってなかった。
しかし王になった以上、制約はないに等しい。流石にカルリング王国の領地を削っていくことはないと思いたいが、今のこの状況、カルリング王国から離脱しクラウス王国に臣従し直すカルリング王国の封臣が居てもおかしくない。
この隣国を、どう弱らせていこうか。そんなことを考えていたら、地面が揺れる。ああ、何だ。地震か。
震度2ぐらいかなと思った瞬間、一気に縦揺れが酷くなり棚が倒れ机の上の紙束が床に落ちる。立っていられなかったので、地面に手を突いて机の下まで移動。おおう、震度6ぐらいはあるんじゃないか。前の人生で震度6は2回経験しているけど、このぐらい揺れたぞ。
しばらく経って揺れが収まると、奴隷がすっ飛んで来て無事かどうかを確認しに来たので無事であることを伝達。ついでに妻達の無事を確認した。まあ今日は全員、王都に新築した館にいるし、クラウス公爵領で過ごしていた時に小さい地震を何回か経験したから耐震性は考慮していた。
……そして街からは、火の手が上がる。仕方がないので、大砲部隊を出動させ家を爆破させるよう指示。貯水槽の水の移動も許可し、組織された消防班が消火へ向かう。
あ、別に消防団や消防隊を設立しているわけじゃないです。奴隷は全員、災害時に消防隊や避難指示を行う者になります。強制参加なので自分だけ逃げるのは許しません。災害時とか俺が一番働かないといけない時なんだから、俺の所有物である奴隷に休みなんてあるわけないだろ。
幸い、火の手は全て大きくなる前に鎮火することができ、ディール伯爵領の被害者はギリ4桁に収まりそうな感じ。公爵領の規模と人口を考えると、マシだったんじゃないか?何だかんだ言って、ディール公爵領だけで200万人近くいるし、その中で一番大きなディール伯爵領は60万人以上いる。
いやでも痛いわ。復興にはお金がかかるのに、蓄えはそんなにない状態。ここまでの災害は考慮しとらんよ。幸いなのは、非常時の訓練を一通りしていたために奴隷達がスムーズに行動を起こしてくれて、被災者の救助活動や情報網の整備が素早く為されたことか。俺要らないなこれ。
そして更に情報が入って来るけど、南のエストアニ王国は瓦礫の山になったらしい。西のクラウス王国はうちと同じぐらいの被害規模で、カルリング王国の建物への被害はもっと軽微だったとか。ということは、震源地は南か。
ボルグハルト王国の情報が入って来ないけど、東のレナート帝国の被害がかなり軽微だったことを考えると南西よりの震源地だからうちと被害規模は同じかな。領土が広いと、それだけ復興に労力が必要だ。鉱山が集中しているジェレミアス公爵領とか坑道が埋もれて悲惨らしいけど、とりあえずはジェレミアス公爵本人が生きてて良かった。
なおヨアヒム伯爵はこの地震で館が崩落し、下敷きとなって死亡した模様。お前いつエストアニ王国から解放されたんだ。捕虜になっていたはずだろ。その後の動向を全く認知していなかったけど、お金を出して釈放して貰ったのか?あ、エストアニ王国とは白紙和平だから和平を結んだ時に解放されているのか。
捕虜になった挙句、地震で死ぬとか散々な人生だったヨアヒム伯爵。だけど後を継ぐ一人息子がいるし、そいつに伯爵としての地位は全部受け継がれる。俺に対して、従順な方だから特に問題はないな。だけどディール公爵領を巡って戦った相手があっさり逝くのは、ちょっと寂しい。
というかディール公爵領で一番南にあるハース伯爵領が一番被害の大きい地域になりそう。その伯爵領の伯爵であるヨアヒム伯爵が死んだことで、一番混乱している地域でもある。
新伯爵となったヨアヒム伯爵の息子、カロン・ハースの能力が不安だから助けてやりたいけど、封臣契約でハース伯爵領に俺は干渉出来ないから助けられないわ。まあ向こうが支援を求めて来たら流石に助けるけど、そもそもその支援を求めることすら出来ない可能性があるというね。
これ、南のエストアニ王国は壊滅的な打撃を受けているんじゃないか?それにカルリング王国も飢饉中に地震とか、泣きっ面に蜂ってレベルじゃない。……だとしたら、切り取る最大のチャンスだろうな。保護の名目で軍を派遣して、実効支配をしていこう。




