第36.5話 虐
拷問描写だけなので今話は読み飛ばしていただいても特に問題はないです。残酷な描写そのものが苦手な方は読み飛ばし推奨です。
時は少し遡り、ボルグハルト王国からパルマー率いる軍がフェンツ伯爵領へ帰った時のこと。捕縛された女の奴隷112人の内、62人が売られ、残った50人はとある館へ移動させられる。
その中には僅か5歳の双子、姉のアンヌと妹のエヴァもいた。
(なにこれ……奴隷の館?)
文字が読めたアンヌは、標識を見て身構える。大きな館の前には、2人の奴隷の男がいた。そのどちらも、足元は地面についていない。何故なら首元に縄がかかっており、吊り下げられているからだ。
「ヒッ」
アンヌとは違い、特に口枷をつけられなかった奴隷の中には、絞首刑にかけられた罪人のような2人を見て悲鳴を上げる者もいた。しかし誘導する者は、特に驚くこともなく吊り下げられている2人に声をかける。
すると、死人のようだった男が返答をした。
「お勤めご苦労さん。後ろにいるのは今回の戦争で新たにパルマー様の奴隷となった者共だ。
基本的には、男と同様の手順で良いって言ってたぜ」
「そうか、了承した」
古参奴隷の2人は何事もなかったかのように会話を続けるが、やがて会話が終わると女の奴隷50人をそれぞれ別の部屋へと入れていく。アンヌももはや抵抗することなく、天井から吊り下げられている拘束具で全身を固定される。その時に服は脱がされ、裸となった。
一旦はアンヌ1人だけという状態になり、今後どうなるのか不安に思うアンヌ。その不安は的中し、鞭を持った男と剣を持った男の2人がアンヌの部屋に入る。
「よーし、口枷はついてるな。
それじゃあ、始めるか」
「先輩奴隷として言っておいてやる。
早めに意識を飛ばした方が楽だぞ」
その2人は、一言二言アンヌに声をかけた後、アンヌの身体を切り刻み始めた。鞭が振るわれ、剣で切られ、赤い鮮血が地面に滴り落ちる。あまりの痛みに絶叫しようとするが、口枷があるため出るのは呻き声だけだ。
(アハハ……ここで私は死ぬのね。妹は、もう死んでる、かな)
もはや腕がくっついているのが不思議なぐらい切り刻まれ、肉をえぐり取られたアンヌは、死の一歩手前まで来ていた。意識が飛んでは、叩き起こされてを繰り返し、憔悴しきって来たアンヌの口に、片方の男が緑色の液体を流し込む。
(回復薬?いや、これ……ああああああああぁぁあぁああああああ!)
一瞬、回復薬の類かと思ったアンヌは、口の中が、食道が、胃が、身体の中全体が焼けるような感覚を味わう。液体を飲んだ後、外側の傷は少しずつ治り始めていくが、その速度は遅く、傷口が強烈な痛みを発する。
アンヌは意識を失い、再度目を覚ました時は、また鞭で打たれていた。全身が痛みを発し、ピクリとも動かせない。
「何でまだ生きているのかって顔ですわね」
ぼやけていた視界が段々晴れて来ると、アンヌは鞭を持った女性の姿を確認する。アルビノで、白い髪が綺麗な女性だ。一瞬天からのお迎えが来たのかと勘違いをしたが、鞭打ちの痛みで強制的に現実へ引き戻される。
「しかしうちの奴隷共は軟弱ですわね……ああ、あなたのことではありませんわよ。
女性に塗るのは抵抗があるって……まあ、分からなくもないですが」
もはや口を動かすことも出来ないアンヌに対して、女性は何かを塗り始める。粘性のある液体で、その液体が身体に触れた瞬間、皮膚が溶けたような、凄まじい痛みを発する。
「あら、まだジタバタする体力があるとは元気ですわね。心配しなくても死にはしませんわ」
思わず身じろぎをするアンヌだったが、その女性にしっかりと抑え込まれ、全身にその液体を塗られる。全身から針で刺されているような痛みを感じたアンヌは、また緑色の液体を流し込まれて、完全に意識を失った。
それから1週間、アンヌは毎日同じようなサイクルで痛みを感じない時間帯はないぐらいに痛めつけられていた。しかし痛みの感じ方は、徐々に変わっていった。4日目辺りから、流し込まれる緑色の液体による痛みはかなり薄れ始め、剣で切られる痛みも減っていった。唯一、皮膚に塗り込まれる液体による痛みだけは継続したものの、それが回復薬と知った時からは身じろぎをしなくなった。
既に部屋は血が至る所にこびりついており、固まった血の池が何層にも重なっている。これだけ痛めつけられても、アンヌは発狂しなかった。正確に言えば、発狂出来なかった。
「何が、目的?」
「頑丈なサンドバッグ作りですわ。
今日からは、奴隷達のサンドバックになって貰いますわ。ほら」
ようやく口枷を外されたアンヌは、毎日皮膚に液体を塗る女性に目的を問いかける。その問いに女性が答えた時には、背の高い筋肉質な男性が部屋の中に入って来る。
その男性は、挨拶代わりにローキックを放った。強靭な下半身から繰り出されるローキックは、身構えたアンヌの横っ腹へと突き刺さり、アンヌは自身の肋骨が折れるという、嫌な感覚を覚えることになった。事情を全く呑み込めないアンヌは、ただひたすらに男性に殴る蹴るの暴行を受け、あっという間に意識を飛ばす。
意識を飛ばす直前、アンヌはこれまで散々流した涙をまた目に浮かべる。その涙を見て、男性と女性が笑みを浮かべたことが、アンヌにとって何よりも怖かった。




