Sweet Valentine 前編
衛に手作りのバレンタインを作った優衣。バレンタイン当日衛に優衣は…
「お母さん、ここからどうするの?」
湯煎をして溶かし終えたチョコレートを混ぜながら隣に立っているお母さんに声をかけるけどお母さんはボウルを覗き込んでまだまだという風に首を振る。
まだ混ぜ具合が足りないのだろうか…。
「もう少し溶かしたほうがいいわね」
「まだ溶かすの?」
「もう少しね。その後は、卵黄を加えるの」
「らんおう?」
「卵の黄身よ。白身も使うから分けておくのよ」
「え、どうやってわけるの?」
「こうして…」
手慣れた様子で卵の黄身と白身をわけるお母さんの手を見てつい感心してしまう。
一つだけ分け終えたお母さんは笑顔で私に続きをするように促してきた。とりあえずさっきお母さんがしたのを思い出してやってみよう。
「そう。ゆっくりでいいから」
「う、うん…」
私の手つきを見ながらあせらないでいいようにとお母さんが声をかけてきてくれた。
普段しない作業だからつい緊張してしまったけど、その声で少し楽になった。
「ふぅ~…」
「ちょっと休憩しましょうか。そろそろお父さんも帰ってくるから」
「うん。これってこのままでいいの?」
「このまま弱火で湯煎しておけばいいわよ」
とか言ってると家の玄関があく音が聞こえる。
お父さんが帰ってきたみたい。
「ただいま。…なんか甘い匂いがするけど何かしてる?」
お父さんってどれだけ鼻がいいんだろう…。
いや、台所にずっといるから私の鼻がマヒしてるんだろうか…。
「優衣、なにしてるの?」
台所に入ってきたお父さんはネクタイを緩めながら私に聞いてきた。
けど、先にお母さんが答えてくれた。
「お父さん、一週間後に何かあるでしょ?」
「一週間後?」
お母さんがお父さんの質問に答えてくれたから今のうちにテーブルの上の器具を片づける。
このままだとお父さんの料理が出せない。
「あ~…もうすぐバレンタインか。別に手作りじゃなくてもいいよ」
「お父さん、何言ってるの。優衣はお父さんのために作ってるわけじゃないのよ」
「え!?優衣、そうなのか!?」
なんかお父さんがショックを受けてるけど…手作りにしようと思ったのはお父さんのためではない。
かといってそのまま伝えるのは、さすがにお父さんが可哀想に見えてきた。既にショックを受けて今にも泣きそうだ。
「ちゃんとお父さんにあげるよ」
「優衣~…。本当にいい子に育ったな」
「感動してないで早くスーツを脱いできたら?」
「…あ、あぁ。そうだな」
私の言葉に感動してるお父さんを横目にお母さんは冷静だ…。
お父さんもその声でまだ自分がスーツだっていうことに気付いて台所から出て行った。
それを見てお母さんは私に諭すように声をかけて来た。
「なんであんなことを言ったの?」
「だって…お父さんが泣きそうだったし…」
「そろそろ娘離れしてもらわないと困るわねぇ。…衛君に喜んでもらえるといいわね?」
「…うん」
今回チョコを手作りしようとおもったのは衛先輩にあげたいからだ。
お母さんが入院していたときに約一ヵ月間衛先輩の家に住ませてもらった。その時に衛先輩がとても甘党だということを知った。
コーヒーに砂糖を二杯は絶対に入れる、時には三杯のときもあった。一週間に一回はケーキなど甘いものを食べる。チョコレートが大好きなどあの外見からはまったく予想できない。
だったらと、手作りで甘めにしたチョコレートを作って渡したい。そう思ったから、お母さんに頼んで作り方を教えてもらった。
後、一週間…。できれば自分一人で作ったものを衛先輩に食べてもらいたい。
鍋の中のチョコレートを見ながら私はよしっと気を引き締めた。




