スキルの使い方と食事
今いる場所が空だと判明してから数時間。
お腹が空いた。
スキルの練習をし続けていたら、雛鳥と『声』があることをしつこく言ってくる。
「きゅきゅ!!」
《喰らえ!》
確かに僕もお腹空いたけど、食べられそうな物が無いのだ。
しいて言うなら、雛鳥だ。
「きゅ!?」
「冗談だよ」
《喰らえ》
『声』の所為で冗談になって無い気もするが、食事をどうするか考える。
草でも食べるか、それとも城の中で食べられそうな物を探すか。
勝てる気がしないんだよね。
毎回毎回『声』がどうにかしてくれるとは限らないんだから、出来るだけのことは自分でやらないと。
ちょっとだけ練習した魔力の具現化スキルを発動する。
無駄な魔力を消費しない様に操作するのも忘れない。
魔力具現化の簡単な説明をすると、魔力を消費して身体に付ける防具を創ることができる。
何を作っても消費魔力は100固定。
呼び名を魔装とした。
そして、創った魔装へ魔力を過剰に供給することで、特殊な効果を付加することができる。
具現化したのは小さい羽の付いた青い靴に、魔力を500追加して空気を五回蹴る効果を付加した。
空を飛ぶ効果を付加したかったが、消費魔力が50000になってしまうので不可能だ。
まあ、欠点として効果を付加した魔装は一時間ほどで壊れる。
効果無しだと一日ぐらいなら具現化できそう。
その場でジャンプし、さらに空気を蹴って上に跳んでく。
出来る限り高く跳んだら、周辺に食べ物が無いか見渡す。
前は城、右は何もないどころか足場すらない、左は砂漠。
「……あれ?」
魔装を解除し、着地する。
何やら変なモノを見た気がする。
空に砂漠があるって、意味が分からない。
とりあえず、行ってみようかな?
雛鳥を頭に乗せて、先ほど見た砂漠の方へと向かってみた。
ちなみに、雛鳥の名前は【グリンカムピ】のグリンだ。
最初は色的にもフェニックスや朱雀と名付けたかったが、安直過ぎたようで拒否された。
なので、中二な病に侵された時憶えた名前を羅列したら選ばれた。
でもグリンカムピより、フィアラルの方が似合ってると思うんだ。
グリンカムピは金の鶏冠って呼ばれて、ラグナロクを感知して神に警告してくれる北欧神話の鶏だ。
フィアラルは「鳥の森」にいる赤い雄鶏で、ラグナロクの時にヨトゥンヘイムの巨人達に警告してくれる。
まあそんなどうでも良い知識は置いといて、この雛鳥たぶん雌だからフィアラルは嫌なんだろうな。
そんなことを考えて移動すること十分、砂漠に着いた。
それほど広くない。
パッと見、世界一小さい国ぐらいだ。
砂漠の砂が、ゆっくりと渦を巻いている。
明らかに何かいる。
肉を食えると考えた方がいいのか、それとも危険だから近づかない方がいいのか、迷うところだ。
無駄だと思うけど、あえて『声』に聞いてみた。
「どうすべきかな?」
《喰らえ》
「ですよね~」
「きゅ?きゅきゅ~」
というわけで、砂漠に侵入してみた。
渦が止まり、中心と思われる場所から馬鹿デカく、めちゃくちゃ強そうな、リアルグロワームが出てきた。
『■■■■■■■■■■!!!』
耳障りな超音波な叫びが響く。
うん、あれは無理だね。
「よし逃げよう」
「きゅ」
《喰らえ》
耳を塞ぎながら回れ右をしようとして気が付いた。
立ってる位置が動いてると。
サラサラと砂がワームの方へと動いていて、僕のことをジワジワと近づけていた。
魔装で逃げようと思ったが、魔力切れである。
練習のし過ぎで、さっきジャンプしたので魔力不足である。
残ってる魔力は、回復した分も合わせて273だ。
魔装二つ創って、おしまいだ。
もうおしまいだ。
もう少し、生きたかったな……
《喰らえ》
……そっか、やられる前にやればいいんだ。
デカいからって強いとは限らない。
まあ、デカい時点で大分有利なんだけど。
とりあえず、靴と鎧の魔装を創って装備。
何の効果もないので、シンプルな灰色の鎧とブーツ。
魔装は効果によってデザインが変わるオシャレ仕様だ。
闘気で槍と剣を創る。
闘気で創る武器のことは、戦器と呼んでる。
こちらも魔力具現化と同じで、効果が付けられる。
もっとも、戦器の方は大雑把な効果しか付けられない。
例えば切れ味アップや防御無効といったのだ。
今回は槍に増殖を、剣に自然治癒不可を付けている。
それぞれ300と1500消費だ。
もし剣を回復不可にしたら、消費が150000になっていた。
槍を力いっぱい上空に投げ、数十に増えた槍がワームと僕に降り注ぐ。
「きゅ!きゅきゅ!きゅ!きゅ!」
落ちてくる槍をグリンの指示で避け、ワームへと近寄る。
ワームは槍の雨を鬱陶しそうに弾き、僕を食おうと口から涎を撒き散らしながら物凄い勢いで迫ってくる。
その威圧感と恐ろしさに一瞬体が固まってしまった。
《喰らえ》
いつもの『声』を聴いて、冷静になる。
そうだ……今僕が、僕達がしているのは、戦闘じゃない。
僕達にとっても、ワームにとっても、今は食事の時間なのだ。
向かってくるワームに、大上段に剣を構える。
あと僅かで僕が食われるというタイミングで、剣に残っていた闘気3000を全て込め、振り下ろした。
闘気とは、己が力を高める不可思議な力。
自身の限界を超える力。
ワームが二つに裂け、僕の左右を滑って緑色の体液と臓器をばら撒いて止まる。
「……やったか?」
言ってから思った。
やっちまったと。
裂けたワームが動きだした。
『■■■■■!!』
先ほどよりも近い位置で聞いてしまった超音波。
剣を手放して耳を塞いでしまった。
落した剣が砂の中にズズズと呑まれていった。
今の僕の状態は最悪だ。
魔力、あと少し待てば一回だけ魔装作成可能。
闘気、完璧なゼロ。
装備、魔装の鎧とブーツだけ。
詰んだ。
僕のことを殺そうと裂けたワームが左右から襲い掛かってくる。
「ダメだ……やっぱり、僕は……」
《喰らえ》
「無理だよ……ごめん」
《……喰らい尽くせ》
「え?」
『声』が、いつもと違った。
まるで、生き延びろと言われた気がした。
全ての時が止まったかのような錯覚。
『声』が頭の中で反響し、何度も繰り返し聴こえる。
《喰らい尽くせ》
そうだ、僕は何を考えていた?
《喰らい尽くせ》
何の為にここに立ってる?
《喰らい尽くせ》
どうして今生きてる?
《喰らい尽くせ》
生きることを諦めるな!
《喰らい尽くせ》
死を享受するな!
《喰らい尽くせ》
生も、死も、何もかも!喰ラッテミセロ!!
《「喰らい尽くせ」》
瞬間、自分の中で何かが変わった。
◆◆◆
彼は左右から迫るワームを両手で受け止める。
爆発したかのような轟音。
ワームの体がブチブチと千切れていく。
千切れた部分から緑色の血が撒き散らされ、砂漠の砂を泥へと変える。
《「喰らえ」》
両手のワームを持ち上げ、真上でぶつける。
炸裂音が聞こえ、ぶつかった左右のワームの体が破裂した。
肉片が、血飛沫が、臓物が、砂漠に降り注ぐ。
彼は降り注ぐ肉片を、血飛沫を、臓物を喰らっていく。
笑いながら、嬉しそうに、全身を緑の液体で染めながら、喰らい続ける。
「きゅ……」
グリンはそんな彼を心配そうに見つめる。
彼は落ちた肉片を喰らう。
彼は落ちた臓器を喰らう。
彼は落ちた牙を喰らう。
砂が付いていようが、どれだけ硬かろうが、すべて噛み砕いて飲み込んでいく。
★★★
名前・ERROR
職業・ERROR
LV・133
筋力・141:1410
耐久・80:800
魔力・93/5000
闘気・30000/35000
速力・229:2290
幸運・482:4820
飢餓:0/100
所持スキル一覧
【魔力操作】52/100
【闘気操作】27/100
【魔力具現化】16/1000
【闘気武器化】9/1000
【運命の種子】MASTER
【悪食】MASTER
どんなモノでも食べられる。
食欲度の減少速度上昇。
【暴食】MASTER
飢餓時、全ステータス10倍、敵味方無差別攻撃。
詳細不明。
【■■■■】1/10
詳細不明。
所持称号一覧
【???の主】
【喰らうモノ】
どんなモノも喰らうモノの証。
★★★
彼は喰らい続ける。
自身の空腹を満たすために喰らう。
自分が何を喰らっているのかわからずに、喰らい続ける。
緑色の血が滴る肉塊を食い千切り、彼は止まる。
糸が切れた人形のようにパタリとその場に倒れた。
そんな彼の傍にグリンが近寄る。
「きゅ」
そしてグリンは気が付く。
彼の身体が砂の中に呑まれていっていると。
彼が食べなかった肉片なども沈んでいく。
「きゅ!?きゅきゅ!きゅい!!」
彼を必死に砂から引き上げようと引っ張るグリン。
その過程でテニスボールサイズだったグリンは、サッカーボールサイズになった。
しかし、それでも彼を引き上げることはできず、自身すら砂に呑まれていく。
「きゅ!きゅ!きゅい!?きゅきゅきゅ―――」
そして、空の上の砂漠には何もいなくなった。
満たされた『声』は、何も言わないのだった。




