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悪女のレシピ〜略奪愛を添えて〜  作者: ましろ
第三章

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2.コルトー伯爵家(1)


 公爵家を出てしばらくすると、だんだん、のどかな景色になってきました。  


「姉様。馬車も魔法で動いたらいいのにね」

「そうね。でも、そうしたらお馬さんや御者の仕事がなくなってしまうわよ?」


 最近のミュリエルは魔法に興味津々です。


「じゃあね、行きたいところにピュンッ!て飛んで行けるのは?」

「あんまり早いと怖くないかしら?」

「う〜ん、むずかしいね」

「ふふっ、そうね」


 前に馬車に乗ったのは公爵家に向かうときでした。


「でも、コルトー伯爵家はそんなにも遠くないよ」

「そうなんですか?……どんな人かな。先生は会ったことがありますか?」

「コルトー伯爵にはお会いしたことがあるよ。おおらかで優しいかただったから、弟君も似ているといいね」

「そうですね」

「…うん」


 ジュール・コルトー様は52歳。奥様も同い年だと聞いています。

 お祖母様達と近い年齢だから、親代わりというよりも新しい祖父母という感じみたい。


「でも、かなり早くに手を挙げてくれていたらしいから、間違っても押し付けられて嫌々引き受けたわけじゃないんだ」

「そうなんですか?」

「もちろん。それに、もしもどうしても合わないとか問題がありそうなら、私のほうからも意見を言わせてもらうから安心してほしい。

 君たちが安心して暮らしていけるようにするからね」

「シルヴァン兄様、ありがとうございます」

「先生、ありがとうございます!」


 ちょっとギクシャクしてしまったけれど、やっぱり兄様といると落ち着く。少しずつ落ち着いてきたみたい。


「まずは笑顔で御挨拶できるようにがんばろう」

「大丈夫です!パーティーでできるようになったもん」

「そうね、ミュリエルなら大丈夫。今回も一緒にがんばりましょう」


 今まではナタリー達やシルヴァン兄様に守られてばかりいたけれど、ミュリエルは私が守る側なのだ。これが双子達が感じていた気持ちなのかしら。

 でもそれなら、ミュリエルだって私と同じで守る側にもなりたいのかも。 


「ミュリエルのこと、頼りにしてるね」

「うん!任せて!」


 あ、やっぱり嬉しそうだわ。

 ふと視線を感じて兄様のほうを見ると、すっごく優しいお顔で微笑まれてしまいました。

 ……ミュリエルの気持ちを考えたのは正解だったみたいだけど、何だか恥ずかしいです。


「姉様、何だかかわいいです」

「先生は仲良しな二人が可愛いかな」


 やめて。そういうのは慣れていないんです!


 それでも3時間くらいは馬車に乗っていたかしら。ミュリエルは飽きてしまったのか眠ってしまいました。


「綺麗な空色のドレスだね」

「…良いお天気だったから」

「鈴蘭が似合ってる」

「青と白は相性がいいんです」


 兄様の意地悪。私がどうしてこのドレスを選んだのか分かっているくせに。


「シルヴァン兄様と仲直りしたかったの」


 兄様とギクシャクしちゃうのが嫌だった。だって兄様は何も悪くないのに。


「君が傷付くのを分かっていたのに」

「でも、知りたがったのは私よ。知りたかったのに、思っていたことと違うって勝手に傷付いたの。兄様は私に怒っていいのよ。お前の覚悟が足りないんだって」

「怒るわけないよ。それでも嘘は吐きたくなかった」

「……うん」


 魔法で過去に戻れたらいいのに。そうしたら……でも、どこから?それに、変えた先に今の私はきっといない。


「魔法に禁忌がある理由がよく分かるわ」


 時間と空間、そして寿命。これらは絶対に人が手を加えてはいけないと言われています。


「どれだけ魔力があっても人は人だ。神様には決してなれないし、なってしまったら人の世界では生きられない」

「でも、人は……」


 ガタンッ、と馬車がなりました。どうやらいつの間にか到着したみたいです。


「帰ってからゆっくり話をしよう」

「……うん、わかった」


 そうね。今はまず、目の前のことに集中しなくちゃ。


「ミュリエル、起きて。もう着いたわ」

「…ん……あ、髪!くちゃくちゃ?」

「大丈夫よ。ちゃんと可愛いわ」


 6歳でも立派に女の子よね。私よりおしゃれな気がします。


「お嬢様、開けてもよろしいですか?」

「ええ。マルク、お願い」






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