小話その2【ドレス】
「ブランシュ、こちらにいらっしゃい」
お祖母様の声はお母様とよく似ていて、優しく呼ばれるとなんとも言えない気持ちになります。
お祖母様に付いていくと、そこは衣装部屋でした。でも、
「……子ども用?」
そこに掛けられていたのは、可愛らしい子ども向けのドレスばかりです。
「ここにあるのはオレリーが子どもの頃に着たドレスなの」
「……お母様の……」
「10日でドレスを誂えるのはさすがに難しいですから。あなた達さえよければ、ここにあるものを仕立て直したらどうかしら」
あなた達ということはミュリエルも?
「流行は繰り返すものです。こういった古いものが逆に目新しかったりするわ」
そういうものなのでしょうか。私はドレスの流行はさっぱり分かりません。
でもどうしてお母様のドレスを着させようとするの?
「ここにあるものはあの子のお気に入りだったドレスばかりなの。
私が一度だけ自分の子どもの頃のドレスを譲ったことがあったのです。そうしたら、それを真似するようになってしまって。いつか、自分に娘が生まれたら着せるのだと言っていたわ」
……それはやはり私の知らないお母様の姿で。
私がお母様と同じ金の髪であったなら、そんな未来もありえたのでしょうか。
「お母様は私に譲る気はなかったと思います」
「あら、悪女たるもの奪ってしまえばよいのではなくて?」
「え?」
「略奪は得意なのでしょう?」
……やられたわ。やはりお祖母様には勝てそうにありません。
「……そうですね。シルヴァン兄様を取り戻すための武器としてありがたく使わせていただきますわ」
「ふふっ、良い覚悟です。では、ミュリエルも招きましょうか」
あ。お母様に似ているお祖母様にお会いしても大丈夫かしら?
「たぶん泣きますよ」
「…そんなにも怖いかしら」
「いえ、お祖母様はお母様とよく似ているので」
「……そう。似ているかしらね?…ああ、あの子ももういい年になっているのですね」
お祖母様はもしかしてずっとお母様と会っていなかったのかしら。
「まあ、パーティー当日に泣かれるよりも、今済ませてしまったほうがいいでしょう」
お祖母様は少しだけショックを受けていましたが、サラサラと手紙を書くと魔法鳥に持たせて飛ばしてしまいました。確かに、早めに会っておいたほうがいいでしょうが、悩む時間の短さに少し笑ってしまいました。
でも、お母様のドレスを着られると聞いたら喜ぶような気がします。だって、あの子はお母様を愛しているから。
私はどうかな。今はまだ、シルヴァン兄様を取り戻すための武器だとしか思いたくありません。
「ブランシュ、このドレスはどうかしら」
「……まあ、きれいですね」
それは淡く青みがかった紫色のドレスで、銀糸で繊細な小花の刺繍が施されていて、光が当たるとキラキラと輝いています。
「あなたのその宝物と合うのではなくて?やるなら徹底的にいきましょう」
さすがはお祖母様です。お強いわ。
「そうですね、そのドレスにします」
兄様の瞳の色のドレスを纏って王女殿下に挑む。
可愛らしく、あどけなく、兄を奪われた可哀想な少女を演じてみせよう。




