9.一緒に朝食を
レイモン様との話し合いが終わり部屋を出ると、そこには晩餐を共にはできなかったシルヴァン兄様が立っていました。
「シルヴァン兄様、どうしてここに?」
「うん。今日は一緒に食事ができなかったから、明日の朝食を誘いに来たんだよ」
「わ、嬉しいです!」
「よかった。──まさか、朝食まで家族しか同席できないなんて仰いませんよね?」
ニッコリと、絶対にNOとは言わせないというような笑みでレイモン様に問いかけています。
「……悪かったよ、シルヴァン」
「おや、何のことでしょう」
シルヴァン兄様はお祖父様に対してもそうだけど、公爵家の方々にまったく遠慮なくお話しているのはなぜなのかしら。お年も近くはありませんから不思議です。
「次からは賓客として招かせていただこう」
「ブランシュの兄枠でいいですよ」
「……先生は生徒を平等に扱うべきでは?」
「先生として授業をする時はそうしますから大丈夫です。あ、リシャール君はいい子ですね」
なぜそこでリシャール様のお名前が?
「…………もしかして怒っていたかい」
「私に告げ口をしてくれるくらいにはね。ちゃんとフォローしないと嫌われますよ?」
「…あの子は怒り方が君に似ているんだ。ニコニコと笑顔で論破してくるから……、分かった。行ってこよう」
??何だか分からないけれど、リシャール様が何かをシルヴァン兄様に告げ口なさったのね。ちょっと意外です。
私達の遣り取りを見ていたマイルズ達は、先に戻ると言ってミュリエルと一緒に行ってしまいました。
ミュリエルとの今後を考えると気が重いわ。
私は案外と勢いで物を言う人間なのだと知ってしまいました。ちょっと反省しています。
「どうやら今日の一番の出来事は変わったみたいだね」
……どうしてバレてしまうのかしら。
「…成り行きで、ミュリエルの壁になることに致しました」
さすがに意味が分からなかったのか、キョトンとした顔になっています。
そのまま部屋まで送ってくださることになり、道すがら先程の出来事を話しました。
「それはなんとも……君は本当にお人好しだなぁ」
「馬鹿だと笑ってくださってもいいですよ」
「笑いはしないけど、少し心配だね」
心配?それはミュリエルがこれ以上拗れてしまうということ?
「ミュリエルは魔力過多症だったね。ということはすでに魔力が発現しているということなんだ」
……そうか。あれ以降何も症状が出ていないようなので、完治したということしか気にしていませんでした。
「感情的な子のほうが魔力を暴走しやすいんだ。君という目標に正しく向かって行くのならいいけれど……今の様子だと無理そうだし。
そうなると、感情のコントロールを教えるべきだけど、思いっきり彼女を拒絶しちゃってるからなぁ」
……お兄様と呼ぶなと言ったやつですね。
「あの子は誰かに依存しがちだから、私達に寄り掛かって来られるよりはマシだと思っておこう。
うん、私のほうでも対策を考えておくよ」
「……迷惑掛けてごめんなさい」
「迷惑ではないし、これは私の仕事でもあるから大丈夫。怪しくなってきたら制御装置を使うことも考慮するけど、これは最終手段かな」
「どうして?」
副作用でもあるのかしら?
「ブレスレット型だからね」
「ん?」
「自分もブレスレットをプレゼントしてもらえたと勘違いされたら嫌だからです」
あ。もしかして、私が貰ったお守りのこと?
左腕にすっかりと馴染んだバングルに触れる。
あの時、ミュリエルがもの欲しそうに見つめていたのを思い出しました。
「……そんなに嫌なの?」
「嫌だねぇ。依存されたくないし、自慢もされたくない。君へのプレゼントの価値が下がりそうなのも嫌かな」
困ったわ。まるで私が特別みたいに聞こえてしまうではありませんか。
でも、少しは自惚れてもいいのかな。
シルヴァン兄様は、ミュリエルよりも私を大切にしてくれているのだと。
「兄様、また一番が変わってしまいました」
「おや、何かあったかな?」
「兄様が私を大切にしてくれたこと、です」
「それは光栄だな」
「ふふっ」
だって嬉しかったもの。私にしかあげたくないって、そんなことを喜ぶ私はやっぱり悪い女なのだわ。
「それに、道具があるから大丈夫だと安心するのもよくないしね。それではいつまで経っても内面が変わらないだろう?」
あ、確かに。結局は物への依存ということか。
「そうだ。リシャール君達は伯爵家のことは何も知らないから安心していいからね」
「……本当に?」
ずっとそのことが心配でした。私達のことがどう伝わっているのか。
でも、そう。何も知らなかったのね。
「仲良くなって、いつか話してもいいと思えば伝えたらいいし、仲良くなったからといって、すべてをさらけ出す必要もない。
でも、リシャール君達はいい子だから。
ゆっくりでいいから仲良くなれるようにしていこうね」
「はい」
よかった。シルヴァン兄様と話していたら、色々と不安だったことが消えてしまいました。
「じゃあ、また明日ね」
「はい。一緒にご飯を食べましょう」




