小話その2 男の子の宝物
「あっ、ナタリー見て」
「まあ、ずいふんと大きいですね」
「本当ですね。とても立派だ」
思いもかけない見付物です。
「……パスカルにあげたら喜ぶかな」
「うちの弟は大好きでしたよ」
よし、これで少しは仲良くなれるかしら。
「お嬢様、危ないです。私がとりますよ」
「でも」
「そうですよ。こんなに艶々ですけど、気を付けないと指が切れることもあるんですよ!」
「まあ、そうなの?じゃあ、マルクにお願いしてもいいかしら」
「お任せください」
とりあえずハンカチに包んでおけばいいかな?
早く渡さなきゃっ。
コンコンコン
パスカルの部屋のドアをノックする。
「ブランシュ?」
「あら、マイルズも一緒だったの?」
「ちゃんと謝りました」
「良くできました。私も、お詫びと言ってはなんだけど、素敵なものを手に入れたからパスカルに渡したくて」
「………ぼくに?」
「うん!これ、もらってくれる?」
ソッとハンカチを開くと、
「ぎゃ─────っっつ!!!」
「え?」
何故かマイルズが叫び声を上げました。
「うわっ、すっごいカッコイイじゃん!」
「でしょ?窓枠にくっついていたの」
よかった!パスカルは気に入ってくれたようです。
「お気を付けください。節の隙間に指が挟まると切れますからね」
「へえっ、お前物知りだな」
「子供の頃よく遊びましたから」
今までで一番嬉しそうな顔をしています。
さすが男の子の宝物、カブトムシ!
「ちょっ、早く捨てて来てよ!」
「どうして?」
「虫なんか気持ち悪い!ぎゃーっ、こっちに向けるなっ!!」
「正確には甲虫です」
「知るかっ!もおっ、お願いだから捨ててよぉっ!」
おかしいわ。カブトムシは男の子の宝物だと聞いていたのに。
「あ、女の子は虫が嫌いな子が多いんでした。もしかして貴族は男の子もあんまり触らないんですかね?」
「私は田舎貴族なので、普通に捕まえていましたけど」
「僕はカッコイイと思ってたけど、お母様はあんな感じで毛嫌いしてたよ。だから初めて触れて嬉しい!」
なるほど。平民と貴族。もしくは育った環境の違いでしょうか。
「双子でも好きなモノは違うのね」
「当たり前だろ?」
「いいから捨ててってば!」
でも、これでひとつ彼らの好き嫌いを知ることができました。




