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悪女のレシピ〜略奪愛を添えて〜  作者: ましろ
第一章 

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23.お守り

 

 馬車の中で、お祖父様が公爵家のご家族のことを教えてくれました。


「息子のレイモンは私には似ず、真面目な文官というような雰囲気の男だ。妻のコンスタンスはしっかりものだな。

 孫達は皆元気だぞ。上のリシャールはブランシュより2歳年上だ。落ち着いていてちょっと爺臭いところはあるが、真面目でいい子だ。

 次男のロランは私に似て剣が大好きでな。セルジュ殿下のご学友としても頑張っている」


 ちょっと待って。殿下のご学友って何?


「ブランシュ。セルジュ殿下は第二王子で君とロランと同い年だよ」

「……まさか殿下は公爵家に遊びに来たりはしないですよね?」

「王子殿下は気軽に外出はできないからね。友人だからといって、いきなり訪問はしないかな」


 信じていいの?だって殿下ということは、たぶんその昔、お母様が悪さをした方の息子よね?


「親の因果が子に報い……」


 思わず呟いた私はあまり悪くないと思う。


「ブランシュ、これをあげるよ」


 エルフェ様が左手首につけていたバングルを外して渡してきました。それは綺麗な紫の石が装飾された繊細な銀細工で。


「これは……魔石ですか?」

「おい、シルヴァン。私の目の前で孫を誘惑するとはいい度胸だ」

「違いますって。これは私の魔力が込めてある魔石で、まあ、お守りのような物です」

「そんな、頂けません」

「私も君の魔石を貰っただろう?そのお返しだよ」


 あれはただで作れちゃうけど、この魔石は購入した石に力を込めたものでしょう?それにこれはエルフェ様がご自分のために作られたはず。


「妹になったかもしれない君が少しでも幸せになれるようにプレゼントさせて欲しいんだ」

「いもうと?」

「養子の話があったと言っただろう?」


 すっかり忘れていました。あの双子より、エルフェ様と兄妹の方がよっぽど嬉しいわ。


「じゃあ、シルヴァン兄様?」

「……公爵。持って帰ってもいいですか」

「駄目に決まってるだろう!」


 冗談だったのにお持ち帰りされそうになりました。


「でもいいな。これからもそう呼んでくれると嬉しい」


 そう言って、バングルを私の手に嵌めてくれました。

 でも、エルフェ様が身につけていた物だからブカブカです。


「ありがとうございます、シルヴァン兄様。大切にしますわ」

「お守りだからちゃんと身につけてね」

「はい。絶対に外しません」


 ちょっと大きいけど、ナタリーに頼んだら落ちないように工夫してくれるかな。


「では、『身に纏いし者を守れ』」


 エルフェ様の言葉に反応するように、バングルはぴったりの大きさに変わりました。


「……縮んだ」


 これは……もしかして、銀ではなく聖銀?

 お守り何かではなく、本気の魔導具じゃない!


「これ」

「もう君専用になったから」

「よかったな、ブランシュ。こやつの作ったものなら安心だ」


 駄目だわ。返品不可みたい。それってかなり高性能ということですね?つい、お値段を考えてしまうのは失礼なことでしょうか。


「……いつか私も魔導具を作れるようになったら受け取っていただけますか?」

「もちろん。楽しみにしているよ」

「シルヴァンだけなのか……」

「お祖父様にも贈らせていただけるように勉強に励みますね」

「それは楽しみだ!」


 まずは今から予習をしよう。10歳になったらすぐに取り掛かるんだから。




 ちなみにドレス選びは混迷を極めました。


「……お祖父様、大量のフリルやリボンはご遠慮いたします」

「何?!こんなにも似合っているのにか!」

「あらあら、公爵様はお目が高い!ではこちらなどいかがでしょう!」


 なぜか店員とタッグを組んで、フリフリでひらひらでキラキラの衣装を選びまくるのです。


「公爵。着るのはブランシュです。彼女の好みをもう少し尊重してあげてください。ドン引きしてますよ?」


 だってあんなのは着たことがないもの。私はもう少し落ち着いたデザインの方が好きなのです。


「ああ、これはどうです?ピンクと言っても落ち着いたローズピンクですし」


 それは、薄いオーガンジーを重ねた、まるでピンクの薔薇のようなドレスです。生地がふわっとしていますが、華美な装飾は無く、お祖父様と私の好みにも合っています。


「おお、可愛らしいな!」


 お祖父様は本当に可愛いのが好きなのね?


「私も好きです、このドレス」


 こんなにも華やかな装いは初めてなのでちょっと照れ臭い。何だか物語のお姫様になった気分です。

 ドレスに合わせて靴なども一揃い。外出着もないからとアレコレと言われるがまま試着をし、気が付けば結構な量を買って頂いてしまいました。


「お祖父様、こんなにもたくさん買ってくださって本当に大丈夫ですか?」


 お祖母様に怒られたりしないのか少し心配です。


「なに、この程度の買い物なぞ何ということもないから気にするでない。本当なら既製品でなくピッタリのものを誂えてやりたいが今は時間が無いからな。

 あちらについたらゆっくりと準備しよう」


 まだ買うの?こんなにも買ってくださったのに!?


「私もまだ背が伸びる予定ですので」


 だからもうこれ以上はいらないかな。


「ははっ、そうかそうか」


 伝わったのか伝わっていないのか。怖いから聞くのは止めました。





 屋敷に戻ると、双子達が何とも恨めしそうな顔で待っていました。


「おかえりなさいませ」

「おお、少しは疲れが取れたか?」

「……はい。あの、お買い物に行かれていたのですか?」

「ああ、ブランシュが外出着などを持っていなかったからな。それで?言いたいことがあるならハッキリと言いなさい」

「……その、ミュリエルだって最近はずっと外出できていなかったから」


 あら。ようするに、どうしてミュリエルを誘ってくれなかったのかと不満を言いに来たのね?


「私達は物見遊山に出掛けたわけではない。

 必要があったから外出しただけだ。意味が分からなかったか?」

「……いえ」

「よろしい。明日には出発する予定だから、しっかりと準備をしなさい。使用人に任せきりにせず、自分でやるように。自分で何でもできるように訓練が必要だと言われたのを覚えているだろう?」

「……承知しました。失礼します」


 いや、チラリと悲しげにこっちを見ないで。本当に普段着と寝間着しか持ってないんだから!


「先が思いやられるなあ。やはり道中もう一度話をしようと思うがどうかな」

「……お祖父様にお任せいたします」





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― 新着の感想 ―
発展途上というか、困難な状況に設置された双子の葛藤と良心と未熟さが 滅茶苦茶解像度高く描写されてて、すげーなぁと感心しきり すごい
爺様が考え無しだなぁ。なんで熱で苦しんで外出がままならなかったミュリエルに他の子供と外出するところを見せつけたうえでキツく当たってるんだよ。今まで両親にお兄さん達でなんどもやられて参ってるだろうに。ブ…
これは早々にシルヴァン兄様に再度、お世話になりそうですね ブランシュがまた嫌な思いをするのかと思うと悲しいです
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