01 新校長と新教頭
01 新校長と新教頭
俺が『王立開拓学園』に入学してから、1ヶ月が経過。
いろいろ事件があったおかげで、俺の拠点は相変わらず『普通の一軒家』のままだった。
しかし、やたらとチョッカイをかけてくる校長と教頭がいなくなってくれたので、これで開拓に専念できる……。
と、俺は思い込んでいた。
次の、校長と教頭がやって来るまでは。
新校長は月明けの朝礼、そのステージで、さっそく強烈な挨拶をカマしてくれたんだ。
「僕がこの『王立開拓学園』の初代校長に任命された、カケルクンだよ! よろしくね! ねっ!
こっちは、教頭のディライラだよ!」
坊ちゃん刈りに黄金の派手なタキシード、父っちゃん坊や感が満載の新校長『カケルクン』。
そしてバニーガールの格好に、銀色のジャケットを羽織った中年女性『ディライラ』。
奇妙なのは彼らだけでなく、校庭にもかなりの異変があった。
朝礼台がわりのステージは校庭の端のほうにあるのだが、観客席にあたる俺たちのいるまわりは書き割りの壁で覆われていて、周囲が見えないようになっている。
ステージ上のカケルクンは子供のような甲高い声で、天真爛漫に言った。
「僕の職業はねぇ、『ギャンブラー』なんだ!」
それまで静寂を守っていた生徒たちが、ざわざわと騒ぎ出す。
「マジかよ!? ギャンブラーだって!?」
「それって、呪われた職業っていわれている、あの……!?」
「ギャンブラーの職業を与えられた人は、20歳まで生きられないっていわれてるのに……!?」
「それなのに、校長まで成り上がるだなんて……!」
「あの校長、相当すごい人なんじゃないか……!?」
「キミたちも知ってのとおり、ギャンブラーは『呪われた職業』って言われてるね!
でも同時に『最強の職業』とも呼ばれてるんだよ!
その力は、勇者をも越えると言われてるんだ!
僕はその勇者に、もっとも近い存在とされるギャンブラーなんだよね! ねっ!」
カケルクンは「エッヘン」と胸を張る。
「なんたって僕は、『100億の男』と呼ばれるほどの、スーパーギャンブラー……!
その力で、みんなを正しく導いてあげるからね! ねっ!」
「おおーっ!」と拍手喝采が巻き起こる。
ギャンブラーという不遇の職を与えられながら20歳を超えても生き、そして校長になったというのが生徒たちの心をわし掴みにしたようだ。
「おっと、そうそう! ディライラ教頭が僕の右腕なんだけど、左腕も紹介しておくね! ねっ!
生徒会長のヴァイスくんだ!」
新校長の紹介とともに、ステージ脇からヴァイスが現れる。
前校長と前教頭の悪事を暴いたとかで、ヴァイスはいちやく学園のヒーローになっていた。
「賢者であるこの僕が生徒会長になったからには、いままでとは一線を画す、あっと驚く開拓法をご覧に入れましょう!
みんなもこの僕を信じて、ついてきてくれたまえ!」
生徒たちは「わーっ!」とさらに盛り上がる。
俺はその一団から外れた場所で、ひとり突っ立っていた。
それから新校長の進行で、現在のクラスランクの上位が発表される。
1位 1年11組 Sランク
2位 1年02組 Aランク
3位 1年19組 Bランク
4位 1年06組 Cランク
4位 1年16組 Cランク
1年11組はこの学園にはまだいないので、ランクとしてはトップを維持したまま。
そして入学式のときに5位だった、かつての俺のクラスの1年20組は圏外に落ちている。
かわりにアケミのクラスである1年6組と、クルミのクラスである1年16組がランクイン。
俺はぼそりとつぶやく。
「1位以外は、俺と絡んだクラスだな……」
それから資産ランキングの発表となったのだが、校長がこんなことを言いだした。
「僕はねぇ、クラスランクなんてどうでもいいと思ってるんだ!
だって、お金をたくさん持ってるほうが偉いんだしね! ねっ!」
ギャンブラーらしい価値観だと、俺は思う。
「それじゃあ資産発表の前に、簡単なゲームをしたいと思いまーっす!
ゲームは『乾杯ゲーム』だよ! ルールは簡単!
これから各クラスが順番にこのステージにあがってきて、このグラスで乾杯するんだ!
乾杯のあと、中のぶどうジュースを全員で飲めばクリアだよ!
僕のポケットマネーから、1億¥をプレゼントしちゃうね! ねっ!」
「えっ……えええっ!?」
それは聞き間違いかと思うような、破格のプレゼントだった。
クラス全員でジュースを飲むだけで、1億もの金がもらえるだなんて……!
「ただしルールがいくつかありまーっす!
まず、ゲームが始まったら、参加者は途中で抜けることはできませーんっ!
ゲームは勝っても負けても最後までやる! これはマナーとして当然のことだよね! ねっ!」
いちおうマトモなことも言うんだな、と一瞬でも思った俺がバカだった。
「といってもぉ、誰でもこのゲームができるわけじゃないよぉ!
このゲームに参加できるのはぁ、2人以上いるクラスだけでぇーっす!
ひとりぼっちのクラスは、指を咥えてみててね! ねっ!」
まあ、こんなことだろうとは思っていたよ。
「そしてみっつめのルールはぁ、ぶどうジュースの中には『忘却のポーション』が混ぜてあるんだよね!
乾杯の音頭のときに、これまで1ヶ月のうちにあったことを、ぜーんぶ忘れるって誓ってから飲んでね!」
『忘却のポーション』とは、飲んだ者から特定の記憶を消し去る効果のある魔法薬だ。
「僕こそが『王立開拓学園』の初代校長だからぁ、生徒のみんなにもそういう気持ちで再スタートを切ってほしいんだよね! ねっ!」
なるほど、それで大盤振る舞いってわけか。
俺はこの妙なゲームについて、合点がいった。
『忘却のポーション』は本人の同意なしで飲ませることが禁止させている。
いくらでも記憶の改ざんができてしまうから、当然といえば当然だ。
よほど辛いことがあった後ならともかく、進んで飲もうと思うヤツなんていない。
でも1億¥もの金がもらえるなら、誰だって喜んで飲むだろう。
校長はチラリと俺を見て、ペロリと舌を出した。
「それに僕、知ってるんだぁ! 薬を使ってみんなに幻覚を見せている、悪い子がこの中にいるって!
でも、残念でしたぁ! そんな悪い幻覚も、このゲームで奇麗さっぱり忘れちゃうからね! ねっ!」
「うおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
新校長は、生徒たちのハートをすっかり虜にしてしまったようだ。
生徒たちは、新校長を尊敬のまなざしで見上げている。
その多くの生徒の頭上から、ハートマークが……と思ったら、ひとりも出していない。
かわりに、紙幣のようなエフェクトが出ていた。
しかしその中で、ハートマークを出している女生徒もちらほら。
でもよく見たら、それはモナカやコトネなどのいつものメンツ。
彼女たちは校長の演説よりも、俺のほうが気になるようだった。
まるで授業参観で、自分の親が来ているか確認する子供のように、チラチラと後ろを見ている。
俺と目が合うとハートマークを浮かべ、はにかみ笑顔で小さく手を振ってくれた。
新章開始です!
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