96 すべてを失った者たち
96 すべてを失った者たち
教育委員会によって拘束されてしまったネコドランとイエスマン。
彼らの裁きはリークエイト王国の、『王立最高裁判所』によって下される。
公判中、裁判長の口からは、レオピンの『レ』の字も発せられることはなかった。
そしてついに、判決の時がやってきた。
「……被告人は教員という聖職、しかも王立学園という世界でも有数の教育機関で、将来を担う子供たちを預かる身でありながら、学園を私物化!
『転移の魔法陣』を封印し、外部からの干渉を断ったということは、有力者の子供たちを人質に取ったことにも等しい!
よって、厳刑を申し渡す!
王都引き回しのうえ、『ザマミサラセ鉱山』での強制労働とする!」
……ドガァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!
裁判長の判決の木槌が振り下ろされ、場内に無情の音が鳴り渡る。
それは判決の内容と相まって、斬首台の刃が落ちた音にも似ていた。
『ザマミサラセ鉱山』に送られる罪人には、収容期間は申し渡されない。
そこに一度入ってしまったものは、二度と出ることができないからだ。
そう、たとえ死んだとしても……!
退廷させられる被告、ネコドランとイエスマンは、狂ったように暴れた。
「ぎにゃっ! ぎにゃっ! ぎにゃぁぁぁぁぁぁ~~~~っ!
我輩は悪くないのである! 悪いのは我輩たちをそそのかした、賢者ヴァイスなのである!
あの少年は末恐ろしいのである! まさに悪魔なのであるっ!」
「きえっ! きえっ! きえぇぇぇぇぇぇ~~~~っ!
そうざます! それにわたくしどもは、支援者の方々の言うとおりにしただけざます!
それなのにこんな仕打ちとは! ひどいざますっ! ひどいざますぅぅぅ~~~~っ!」
傍聴席からは失笑が漏れる。
「やれやれ、あの者たち、大賢者のご子息であるヴァイス様に罪を着せようとしている……」
「それに支援者の方々まで、巻き込もうとするとは……」
「頭がおかしくなったというのは、本当だったんだな……」
その日の夕方には、王都内を号外新聞が賑わせた。
「号外! 号外! 『王立開拓学園』の校長と教頭がご乱心だ!
権力者たちの子供を人質に取り、王国転覆を謀ったんだそうだ!」
モナカやコトネをはじめとして、学園の生徒たちは幼いながらに有名だったので、市民の反感は一気に高まる。
次の日に行なわれた『王都引き回しの刑』のルートには、多くの人たちが詰めかけていた。
ネコドランとイエスマンは横縞の囚人服を着せられ、檻のついた馬車で動物のように晒し者にされる。
留置所を出た途端、彼らには罵声が浴びせられた。
「ふざけやがって! 子供たちを人質に取るだなんて、とんでもねぇ野郎だっ!」
「許せない! 私が敬愛しているモナカ様を悲しませるだなんて!」
「このっ! お前らなんか死んじまえーーーーっ!」
とうとうゴミを投げる者まで出始める。
ゴミが次々と降り注ぎ、ネコドランとイエスマンは全身ゴミまみれになる。
剥き出しの悪意に、ふたりは抱き合い、身を縮こませていた。
「ぎにゃ!? ぎにゃっ!? ぎにゃっ!? やめるのである! やめるのであるぅぅぅぅーーーーーっ!」
「きえっ!? きえっ!? きええええっ!? ばっちいざます! ばっちいざますぅぅぅぅぅーーーーーっ!」
もはやこれ以上の責苦は、この世には存在しないかに思われた。
しかし、馬車が裕福層の住む高級住宅街さしかかった途端、彼らはこの世の地獄を見る。
馬車には見向きもしない身なりのいい親子が、幸せいっぱいに通り過ぎていく。
「今日から新しいお家に引っ越すんだぞ!」
「パパのお家だよね! やったぁ!」
「この子ったらすっかり、あなたのことをパパだと思ってるわ!」
「なに言ってるのさ、ママ! 僕のパパはずっとこの人だよ!
前にいたのは居候でしょ!? いや、家畜かな! まるでブタみたいだったし!」
ネコドランは鉄格子の間に顔を挟み、ブタのように顔を歪めながら、親子に向かって手を伸ばしていた。
「おっ、お前っ!? その男は誰だっ!? 我輩がいない間に、浮気をしておったのであるか!?」
「んまあ、見て! あの囚人!」
「うわぁ、きったねぇ! ゴミまみれだ!」
「新聞に書いてあったけど、頭がおかしいってのは本当だったのね!
私はパパ一筋なのに!」
「ふたりとも、相手にしちゃいけないよ。
あの囚人たちはこれから死ぬまで、生き地獄のような所で暮らすんだ
下手に関わったりすると、こっちまで不幸が伝染ってしまうよ」
「ぎにゃっ!? ぎにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
家族からも捨てられてしまったネコドランは泣き叫ぶ。
その様を見て、イエスマンはケタケタ笑った。
「ムホホホホホ! いい気味ざます! 他人を自分の駒としか思っていないから、最後は捨てられてしまうざます!
その点、わたくしめの一家は強い絆で結ばれているざます!
今頃はきっと、釈放を求めて有力者に掛け合ってくれている頃ざます!」
しかしその笑いは、飛んできた石によってガツンと遮られた。
「なっ、なにするざますかっ!? ゴミならまだしも、石だなんて、あぶないざますっ!?」
格子の向こうには、強い絆で結ばれているはずの、イエスマン一家が……!
「やった! 当たった!」
「よくやったわ! みんな、その調子よ!
あのゴミのせいで、私たちは引っ越さなきゃならなくなったんだから!」
「っていうことはママ、悪いヤツだね!」
「そうだ! アイツは一族の恥さらしでもある! ここで殺してしまってもかまわん! やれーっ!」
よく見ると家族だけではなく、イエスマンの一族が総出で道端を占拠。
あらかじめ用意したのであろう、たっぷりの石を投げつけてきていた。
檻の中はさらなる地獄絵図と化す。
「ぎえっ!? ぎえっ!? ぎえっ!? ぎえええっ!? お前たち、やめるざます! やめるざますぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーっ!!」
「ぎにゃっ!? ぎにゃっ!? ぎにゃあっ!? あれはお前の親族なのである!?
我輩まで巻き込むのではないのである!」
「うるさいざます! さっさとわたくしめの盾になるざます! そのデブりすぎの身体が、ようやく役に立つ日がきたざます!」
「なんだとっ、このっ! もうガマンできないのであるっ!
にぎゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
「きぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
「「ギャフベロハギャベバブジョハバ!!」」
もはや彼らに味方はいないし、明日もない。
すべてを失い、ただ自暴自棄になって、お互いの心と身体の傷を深めあうばかりであった。
これにて第1章の完結です!
このあとは少しお休みを頂いて、第2章に入りたいと思います!
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