92 レオピンの箱舟ふたたび
92 レオピンの箱舟ふたたび
レオピンは、山のような岩と真正面から激突。
……ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!
その激音は、遥か遠方にある居住区の特設ステージにまで響いていた。
瞬間、大歓声が沸き起こる。
「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
「ゴミ野郎がついに死んじまった! 死んじまった!」
「ざまあみろっ! 悪はやっぱり最後には滅びるんだ!」
「俺にはわかってたぜ! 最初にリタイヤする生徒は、あの落ちこぼれだって!」
「ゴミが片付けられて、この学園はやっとマトモになるぞ!」
一部の調教師の生徒たちは、がっくりと肩を落とす。
「レオピンくんが、死んじゃったよ……」
「あんなに動物に慕われてたのに……」
「ああ、レオピンくんのすごさに、やっと気付いたばかりなのに……」
校長と教頭は抱き合って喜んでいた。
「ばはははははは! やったやった! やったのである! ついに我輩は勝ったのである!
すべてを投げ打った甲斐があったのである! 正義はやっぱり勝つのであるっ!」
「むほほほほほほ! わたくしめだからこそなしえた、サヨナラ満塁逆転ホームランざます!
支援者の方々にほめてもらえるざます! これで教頭の座にも復帰できるざますぅ!」
モナカとコトネは泣き崩れていた。
彼女の付き人たちも、哀しみにくれている。
「うわああああっ! レオくんがっ! レオくんがぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!」
「ああああああっ! なんとおいたわしい! お師匠様ぁぁぁぁーーーーーーっ!」
ステージ上の水晶板は、ノイズと土煙に覆われている。
もはやそこは、生きる者が立つことすら許されない、不毛の地と化していた。
かに、思われたのだが……。
もうもうとあがる粉塵が薄れていくと、ぼんやりとしたシルエットが浮かび上がる。
生徒のひとりがそれに気づき、水晶板を指さした。
「み……見ろっ! 誰かいるぞ!?」
ハッ……!? とふたたび水晶板に注目が集まる。
いよいよハッキリとした輪郭をうかび上がらせたそれは、まるで金剛神を模したかのように、身じろぎひとつせずに立ってた。
かに、思われたのだが……。
不意に前屈みになって、身体をうち震わせはじめる。
そしてすべての者たちは、空耳のような声を聞く。
『……げほっ! ごほっ! がはっ! ああっ、死ぬかと思った……!』
「え……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
咳き込む俺の目の前に、見慣れぬウインドウが出現した。
『隠しスキルが覚醒しました!』
やっぱり、やっぱりそうだったのか。
いちかばちかの賭けだったが、俺の予想が当たったようだ。
俺はステータスウインドウを開くと、まだ震えている指先で、『器用貧乏』のスキルツリーに触れる。
--------------------------------------------------
器用貧乏
器用な成長
器用な肉体
器用な転職
???????? ⇒ 絶対防御『不動』
--------------------------------------------------
『?』マークだらけだったこのスキルは、レベルが8になったときに得た『隠しスキル』だ。
この『隠しスキル』というのは、複数回効果を発動させることができたら、名前や効果が明らかになるらしい。
その最初の効果は、体育の授業のときに、偶然発動した。
ニックバッカに殴られる瞬間、俺は慌てて『器用な肉体』スキルで『強靱』パラメーターを高めた。
そしたらニックバッカのパンチを受けても、俺は蚊に刺されたほどになにも感じなかった。
それどころか、ほんの一瞬ではあるものの、俺の身体は鋼鉄みたいに硬化。
まるで地中に根を張った大樹のように、その場から1ミリたりとも動かなかった。
岩に飲み込まれる寸前、俺はヤジの空耳によって、そのことを思いだし、その可能性に賭けてみたんだ。
そう、俺が命を賭けたパラメーターは、『俊敏』でも『筋力』でもない……。
大穴中の大穴の『強靱』……!
俺は発覚した隠しスキルの名前をタッチしてみる。
--------------------------------------------------
絶対防御『不動』
攻撃を受ける0.033秒以内に、『強靱』パラメーターを2000以上増加させると発動
その攻撃が終わるまでの間、すべての物理ダメージをゼロにし、ノックバックを無効化する『不動』状態となれる
--------------------------------------------------
俺はもう精魂尽き果てていたので、説明を読んでもまったく頭に入ってこなかった。
……ドドドドドドド……。
またしても地鳴りを感じ、俺は山のほうを見上げる。
すると今度は、水が押し寄せてきているのが見えた。
「い……いくら待望の水でも、ちょっと量が多すぎるっ!」
一難去ってまた一難。
俺は新たなる焦りとともに振り返る。
動物たちはみな地面に伏せて、耳を前足で覆って亀のように縮こまっていた。
「みんな、に、逃げ……!」
俺は叫びかけた途中、動物たちのそばに横たわっている、巨大な流木に気付いた。
「うっ……うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
俺は最後の力を振り絞り、巨木に向かってガムシャラに走る。
転職するわずかな間も惜しみ、石斧とナイフの二刀流で襲いかかった。
「そりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
……ドガガガガガガガガガガーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!
こんなに無我夢中で、死に物狂いでクラフトをしたのは初めてだった。
--------------------------------------------------
謎の木の箱舟
個数1
品質レベル?|(素材レベル?)
正体不明の流木を削って作った箱舟。
--------------------------------------------------
「でっ、できたっ! み、みんな、急いでこの舟に乗るんだっ!」
動物たちが、わっ! と集まってきて舟にしがみついたのと、俺たちが濁流に呑み込まれたのはほぼ同時だった。
……どごわっ、しゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!
『や……やったざます! 今度こそ本当の本当に、勝ったざます!』
『う、うむ! さっきのは、目の錯覚だったのである! この神の洪水作戦こそ、我輩の本命で……!』
しかしこの空耳は、すぐに奇声に変わる。
俺たちの箱舟は飛翔するかのように急速浮上。
厚い雲を破るかのような水しぶきとともに、水面に浮かび上がった。
『『にぎゃぎぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?』』
それはまるで、神がもたらした奇跡のような光景。
そして悪魔がトドメを刺されたかのような、破邪の悲鳴であった。
「面白かった!」「続きが気になる!」と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への評価お願いいたします!
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つでも大変ありがたいです!
ブックマークもいただけると、さらなる執筆の励みとなりますので、どうかよろしくお願いいたします!














