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90 水を作ろう

90 水を作ろう


 俺は校長と教頭の看板で作った焚火の前で、動物たちを眺め回す。


「水が干上がっているとはいえ、ついに川を見つけた!

 ここから川上に向かって移動すれば、きっと源流にたどり着ける!

 そこで、川をせき止められている原因を取り除けば、水にありつけるぞ!

 あと少し、あと少しだっ!」


 俺の宣言に耳を傾けていた動物たち。

 言葉の意味はともかく、言わんとしていることは伝わったのか、ウォーギャーピャーと一斉に鳴き返してくれる。


「よーし、それじゃそろそろメシにするか! 前祝いとして、パーッといこう!

 川では魚が獲り放題だぞ!」


 肉食の獣たちが、わーっ! とぬかるみの川底に降り、びちびちと跳ねている魚に食らいつく。

 俺はポケットから、道中に集めて置いた果実や木の実を取りだし、景気よくばらまいた。


「そーら! こっちも食べ放題だ! あはははははは!」


 いままで節制してきたので、草食の獣たちも大喜び。

 空から紙幣が降ってきた人みたいに、口で果実や木の実をキャッチしている。


 マークが大きな魚を抱えて持ってきてくれた。


--------------------------------------------------


 モーサン

  個数1

  品質レベル12|(素材レベル12)


  川で生まれ、海に出て、繁殖のために生まれた川に戻る習性のある魚。

  川に戻り、繁殖直前のものが最も脂がのっており、旬とされている。

  焼き物、汁物にすると調理ボーナスが得られる。


--------------------------------------------------


「おお、モーサンか! 俺の大好物じゃないか! ありがとうな!」


 俺は受け取ったモーサンを『オオイノシシの大ナイフ』で捌く。


 輪切りにして、木の枝作った串に刺して焼く。

 皮が焦げ、じゅうじゅうと脂がしたたり落ちる。


--------------------------------------------------


 モーサン焼き

  個数5

  品質レベル20|(素材レベル12+器用ボーナス1+調理ボーナス2+旬ボーナス5)


  モーサンを焼いただけのものだが、素材本来の味がふんだんに引き出されている。

  たいへん脂がのっており、非常に美味。


--------------------------------------------------


 俺はまるで厚切りにしたハムにかぶりつくように、アツアツの『モーサン焼き』にかぶりついた。

 皮のパリッとした食感のあと、ギュッとした噛み応えが生まれる。


 モーサンが生まれたこの川の恵みと、育ってきた海の豊かな味わいが詰まった脂が、ジュワッと広がって……。

 俺はふたつの自然の恵みを、口いっぱいに頬張っていた。


「うっ……うんまぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 ただ焼いただけの魚なのに、やめられない止まらないうまさ。

 これも空耳だと思うが、どこからともなく、


 ……ごくりっ!


 と喉を鳴らすような音が聞こえた気がした。


『うっ……うまそぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!』


『いいなあいいなあ! 俺、モーサン大好きなのにーっ!』


『私も! でもこの学園に来てからは食べられなくて、ずっとガマンしてたの!』


『俺たちなんて非常事態宣言があってからは、ずっと学園に備蓄の非常食だってのに……』


『パッサパサで、ぜんぜんうまくないものを、食わせられてるってのに……』


『なんであのゴミだけ、あんなにうまそうなものを……!』


『チクショウ! うらやましぃぃぃぃぃーーーーーーっ!!』


 実をいうと、俺は少しだけ不満だった。

 しかし口には出さずに、心の中だけでつぶやく。


 これに塩をかけたら、きっともっとうまくなるんだろうな……。


 塩なら、アケミにもらったやつがコートのポケットにある。

 しかし、振りかけるわけにはいかなかった。


 なぜならば、喉が渇いてしまうから。

 俺はこの1週間、水と呼べるものを1滴も口にしていない。


 ステータスのおかげでなんとか活動はできているが、喉はヒリつくほどにカラカラだ。

 でも、その弱みを見せるわけにはいかない。


 なぜならば、校長と教頭の『ざんねんでした』看板を見たときに、察したからだ。

 きっと校長と教頭は、どこかで俺の様子を見ているのだ、と……!


 でなければ看板に、『空に向かって泣き叫べ』なんて書くはずがない。

 だからこそ俺はいま、最高の食事を満喫している。


 お前らの企みなんかで、この俺の幸せはびくともしない。

 それを、見せつけてやるために……!


 いつもよりだいぶ豪華な食事を終えたところで、子鹿やウリボウたちが俺のところにやってきて、俺の顔をペロペロ舐めはじめた。


「喉が渇いたんだな。ちょっと待ってろ」


 俺はポケットから水筒を取り出し、道中で溜めて置いた水を……。

 と思ったのだが、もう1滴も残っていなかった。


『ムホホホホ! みんな、見るざます! ついに水筒の中がカラッポになったざます!

 いよいよあのゴミが泣き叫ぶところが見られるざますよぉ!』


 俺はそんな空耳を無視し、子供たちを撫でる。


「ちょっと待ってろ、すぐに水を作ってやるからな」


『ムホホホホ! とうとう頭がおかしくなったざます! 水を作るだなんて、神様にしかできっこないことを言いだしたざます!

 無職にそんなことができるのなら、教頭であるわたくしめは、水をワインに変えてみせるざます!』


 俺はそんな空耳を無視し、コートのポケットから木のコップを取り出す。

 ナイフの先っちょで、コップの底に小さな穴を開けた。


 そしてコップをひっくり返し、石や砂利、そして砂などを入れる。

 地層のように、底のほうにいくほど目が粗くなるように詰め込んだ。


 仕上げに、俺はコートを脱ぎ、ワイシャツの袖を片方ビリッと破った。

 バランスが悪いので、もう片方も破って半袖にする。


 その切り離した袖を、コップの一番上に詰め込めば……。


--------------------------------------------------


 ギスの木のコップの濾過(ろか)装置

  個数10

  品質レベル31|(素材レベル12+器用ボーナス1+職業ボーナス18)


  ギスの木のコップを使った、汚れた水を浄化する装置。

  各種ボーナスにより、濾過速度が非常に高速。

  また有害物質を除去、中度の毒までもを完全に消し去ることができる。


--------------------------------------------------


 できあがった濾過装置の下に、さらに木のコップを置く。


「あとは、ぬかるみの泥を、濾過装置の上に入れれば……」


『ムホホホホ! とうとう泥んこ遊びを始めたざます!

 絶望のあまり、幼児退行してしまったざます! なんと哀れな姿ざましょ!

 ゴミが落ちぶれていく姿は愉快! 実に愉快ざますっ! ムホホホ……ホッ?』


 濾過装置の下から、ポタポタと透明な液体が垂れ落ちてきた瞬間、木々のざわめきのような空耳がした。。


『なっ……なんでだ!?

 汚いはずの泥を、汚い土の入ったコップの中に入れるだけで、なんで水になるんだ!?』


『しかもあの水、すっごく奇麗……! まるで、宝石みたいにキラキラしてる……!』


『本当……! まるで、魔法みたい……!』


『きっ……!? きえっ!? きえっ!? きえっ!?

 きえええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?』

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― 新着の感想 ―
[良い点] マークとモーサン……かってこれほど相性がいい組み合わせがあったであろうか
[一言] 泥水を濾過して飲み水を作る方法を知っているとはさすがレオピンですね。
[一言] 読んでて楽しいですなぁw
感想一覧
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