89 億万長者の膝
89 億万長者の膝
学園の朝礼にて行なわれた、『ゴミの退学をみんなで見よう! 悲惨! 校長と教頭にさからった者の末路!』。
開始当初は嘲笑に包まれていたが、一瞬にしてそれは消え去ってしまった。
なにせ例のニセ教頭が、いつもの奇声で騒ぎだしてしまったからだ。
「きえっ! きえっ! きええええっ!
やめてやめてっ、やめてざますぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーっ!
今回の企みのために、わたくしめは新築の家を売って、借金までしたざます!
それなのに、その箱を開けられてしまったら、ますます……!
きえええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
それは魂の叫びであったが、遥か遠くにいるレオピンには届くはずもない。
水晶板の向こうにいるレオピンは、据え膳を頂くかのようにスタスタと宝箱に歩いていく。
罠がないか用心深く調べたあと、「ままよ!」とばかりに開いていた。
……パカッ……!
すると、過剰な光と、大袈裟な音楽が洞窟いっぱいに溢れる。
箱を開けると、魔力によって演出が起こる仕組みになっていた。
『イエスマン教頭の宝探しゲームは、ここでゴールざます!
1年11組の皆様、グレートざます! 勇者様、ワンダフルざます!
このお宝はすべて、あなた様のものざます!
それどころか、わたくしめのハートも、あなた様のもの……!
忠誠の証として、ランクアップもさせていただくだざます!
他のクラスはゴミざますから、ポーイしちゃうざます!
ですから今後とも、このイエスマンを可愛がってほしいざますぅ!』
媚び媚びの音声とともに、5つの目録がサッと飛び出す。
水晶板の向こうからは、落胆を露わにしたような溜息が漏れる。
『はぁ……なんだよ……。こんなの、いくらあってもしょうがないのに……』
ガッカリしつつも、レオピンは5つの目録をコートのポケットにねじ込んだ。
どんな物でもムダにしないのが、彼の流儀である。
ステージ上のイエスマンは憤慨した。
「なっ!? 5つもの目録を、『こんなの』呼ばわりするとは……!?
しかも、このわたくしが精魂こめて考えた宝探しゲームで、何のヒントもなしでいきなりゴールするだなんて……!?
きええええっ! なんたる空気の読めないゴミざますか!
許せない! 許せないざますぅぅぅぅぅーーーーっ!!」
生徒たちのざわめきが止まらない。
「い、一気に5つの目録だと!?」
「ってことは、あのゴミの資産はぜんぶでいくらになったんだ!?
その答えを弾き出すかのように、ステージの傍らに置かれていた魔導ボードが、1位の数値をガタンと更新。
1位 特別養成学級 101,200,000¥
レオピン、ついに1億¥の、大台にっ……!
「きっ……きえええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
イエスマンはショックと悔しさのあまり、両手をバタバタと振り乱し、両足をドタドタと踏みしめている。
ステージ下の生徒たちの驚愕の視線は、新記録を打ち立てたレオピンに向けられていた。
しかしそれはすぐに、ある人物への侮蔑に変わる。
「でもあの宝探しゲームって、明らかにインチキだよな?」
「そうよね、1年11組があの宝を探し出すのが前提で、あんな仕掛けをしてたに違いないわ!」
「しかも、ランクアップまでさせようとしてたぞ!」
「それどころか俺たちのことを、ゴミ呼ばわりしやがって……!」
本来はレオピンの堕ち行く様を笑うはずのイベントの風向きが、じょじょに変わりつつあった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
隠された洞窟を出た俺は、再びダウジングで水源を探す。
この頃の俺は、『五感』の力も駆使し、わずかな水音すらも聞き逃さないのようにしていた。
そして俺に耳に、待ち望んでいたものが掠めた。
……ぱしゃっ!
「……水の上で、魚が跳ねた音だっ!」
俺はふたたび脱兎のごとく駆け出す。
ダウジングの示す枝の先すらも追い越すかのように、我を忘れて疾走した。
すると目の前に、湿った土の窪地が出現。
横断するように長く伸びるそれは、間違いなく……!
「ついに、ついに、ついに……川があったぞっ!」
と、飛び込もうとした俺の足が、がけっぷちで止まる。
そこは確かに川だったのだが、水がぜんぜん無かった。
底には死にかけの魚と、わずかな泥だまりがあるのみ。
明らかに、つい最近までは川だった場所だ。
目の前にあった、これまでとは違うデザインの『ざんねんでした』看板で、俺は察する。
「校長と教頭が、川の源流をせき止めたんだ……!」
今回の一件の首謀者たちは、とうとう正体を隠すこともやめたようだ。
『ばははははは!』『ムホホホホホ!』とあの笑い声が聞こえてきそうな、ネコドラン校長と、イエスマン教頭の等身大の看板。
ふたりして横断幕風の『ざんねんでした』を掲げている。
その文字の下には、こんなことが書かれていた。
『特別に、最後のチャンスをあげるのである!
空に向かって「校長先生と教頭先生、ごめんなさい! 特に校長先生にごめんなさい!」と叫ぶのである!』
『「いままでの賞金を全額返し、自主退学しますから、命だけは助けてください、教頭先生様!」と泣き喚くざます!
そうしたら、助けてあげなくもないざます!』
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その頃ステージ上では、息を吹き返したネコドランとイエスマンが、再び調子に乗って喧伝していた。
「ばははははは! あのゴミはすっかり絶望していのである! ついに、我輩の力を思い知ったようである!
大金をつぎ込んで、ヤツのまわりから水を奪ってやった甲斐があったのである!」
「ムホホホホホ! さぁ、いよいよクライマックスざます! みなさん、しっかりと目に焼きつけるざます!
あのゴミが泣き喚いて、わたくしめに逆らったことを後悔する姿を!」
観客の生徒たちはイエスマンに不満を抱きつつあがったが、それ以上にレオピンのことを良く思っていなかったので、再び盛り上がる。
「そうか! そういうことだったのか! あのゴミを追いつめて、自ら退学宣言させるってわけか!」
「そりゃいい! だいいち、あんなゴミが今まで調子に乗ってるのがおかしかったんだ!」
「そうそう! モナカ様やコトネ様にモテモテで、資産も1億あるだなんて、ありえないもんな!」
「あのゴミがギブアップしてくれりゃ、やっとまともな学園になるぞ!」
「池も川も塞がれてちゃ、もうどうしようもないよな! ざまあみろっ!」
「さあ、みなさんご一緒に、ご唱和願うざます! そーれギブアップ! ギブアップ!」
そして巻き起こる『ギブアップ』コール。
水晶板の向こうでは、看板の縁をつかんだままうつむき、肩をわななかせる少年の後ろ姿があった。
その精根尽き果てたかのような有様に、誰もが想像する。
へなへなとへたりこんで、これまでの栄光と、すべての恥を捨て去るかのように、慟哭する姿を……!
ついに、少年は動いた。
膝を折って、力なく崩れ落ち……。
しかし膝が地面に触れる直前で、急激にぐんっ、と伸び上がったかと思うと、
……バキッ!
飛び膝蹴りっ……!?
校長と教頭の看板めがけ、教育委員会の使者を彷彿とさせるほどの、見事な一撃をかましていた。
しかも真っ二つだけではすまさず、足蹴にしてバッキバキに踏み砕く。
さらにトドメとばかりに、コートのポケットから取りだした『ヒロエダの火起こし台』で、火を放ち、
……ゴォォォォォーーーーーッ!
ニセ校長とニセ教頭を、炎上させるっ……!
「え……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
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