87 軍団結成
87 軍団結成
巨大なドン亀だらけの間をぬって、モナカとコトネが走り寄ってくる。
ふたりは安心したような表情半分、泣き出しそうな表情半分だった。
「レオくん! ……よかったぁ!」「息災でなによりでございます、お師匠様」
俺はふたりに付いていてやりたかったが、そういうわけにはいかない。
なぜならば騒ぎをききつけて、すぐに本職の警備兵が駆けつけてくるからだ。
「いいかふたりとも、よく聞け。
非常事態宣言があったってことは、このあたりでヤバいことがあったってことだ。
俺もこれから家に戻るから、お前たちも家に戻ってろ。
そして絶対に、オネスコやトモエから離れるんじゃないぞ」
モナカとコトネはきっと今も、付き人の目を盗んでここに来ているに違いない。
俺はふたりに釘を刺す意味でも、心にもないことを言った。
「俺は優秀なヤツしか相手にしない。お前たちが居住区を抜け出してランクダウンなんてことになったら、師匠をやめるぞ。
だから非常事態宣言のあいだは、家で大人しくしてるんだ。いいか、これは命令だ」
モナカとコトネが親から見捨てられた子供みたいな表情をするので、俺の心はちくりと痛んだ。
ふたりを、遅れてやってきたオネスコとトモエに託す。
そして警備兵が来る前に、さっさと居住区から離れた。
早足で森の自宅へと戻る俺の心は、いつになくざわめいている。
「いったい、何が起こってるっていうんだ……!?」
息せき切って家に戻った俺は、コートのポケットから取りだした水筒を一気にあけた。
渇いた喉を潤す水に、「ぷはあっ!」と息を漏らし、眉をひそめる。
「喉が、乾いてる……?」
俺がこの学園に入ってからかなりの日数が経つが、初めて水を欲した。
と、いうことは……。
「『不渇』の範囲魔法の効果が切れてしまったんだ。
でも3日前、朝礼で教頭がメンテナンスをするって言ってたはずなのに……?」
それに、ここまでいきなり喉が渇くというのは不自然だ。
切れるにしても、範囲魔法の効果というのはじょじょに薄れていくはずなのに……。
「もしかして、非常事態宣言と関係あるんだろうか?」
いずれにしても、水分補給の手段を確保する必要がありそうだ。
でも来たるべきこの日のために、水場の目星はちゃんと付けてある。
俺は椅子に座りもせずに家を出た。
マークとトムを引きつれ、森の中にある池へと向かう。
そして、絶句した。
「い、池が、埋め立てられてる……!?」
池にはこんもりと土が盛られ、まるで墓標のようになっている。
自然現象によるものではなく、明らかに人の手によるものだとわかった。
なぜならば『ざんねんでした』と書かれた立て札が、盛り土のてっぺんに立っていたから。
その瞬間、俺はすべてを察する。
「そうか、そういうことか……!
『不渇』の範囲魔法のメンテナンスというのは、効果範囲を校舎と居住区の中だけに限定したんだ……!
しかもそのうえで、池まで埋め立てたということは、校長と教頭は俺を渇死させようとしている……!」
人間というのは少々食べなくても平気だが、水なしだと1週間も生きられない。
でも、『レンジャー』の『生存術』スキルがあれば、植物などから水を得ることができる。
それに、奇麗な水なら校舎に行けばいくらだってあるだろう。
水道や噴水、プールがあるからな。
校舎には非常事態宣言にかこつけて、警備兵がうじゃうじゃいるに違いない。
でも俺のスキルがあれば、校舎内の水にありつくことは簡単だ。
そう、俺ひとりだけならどうとでもなるだろう。
俺、ひとりだけなら……。
俺は池のまわりに集まっている、動物たちを見やった。
みな埋め立てられ池を見て、「ここもダメか……」みたいな絶望的な顔をしている。
彼らは俺に巻き込まれ、水場を奪われてしまった。
もちろん動物も朝露などを飲んで乾きを癒やせるのだろうが、それにも限界はある。
俺はすこしの間、彼らを見回したあと……。
盛り土の上に登り、ふざけた看板をひっこ抜いて捨てた。
「みんな、池がこうなっちまったのは、俺のせいだ。
大切な水を奪ってしまって、本当にすまない」
言葉が通じているかはわからない。
でも俺は、心を込めて言った。
「俺はみんなのために、必ず新しい水場を探す。
だから俺を信じてついてきてほしい、そうすれば、かならず水にありつけるはずだ」
俺はそう言って盛り土を降り、森の奥に向かって歩き出す。
ついてきてくれたのは、マークとトムだけだった。
「それも、しょうがないか……」
『魅力』のパラメーターをあげて、選択の余地なしに連れて行くという方法もある。
でも、それだけはしたくなかった。
「あの池が埋め立てられているということは、他の水場もすべてダメになってるかもしれない。
いくら探したところで、水場なんて見つからないかもしれない。
だから、俺を信じてくれるヤツだけついてきてほしかったんだ。
でも……さんざん狩ってきた動物たちに向かって、信じてくれなんて言ってもムダか……」
しかしいずれにしても、俺は動物たちのために水場を探すつもりだ。
「でも、水場を探すっていっても、どうすればいいんだ……?」
そもそも、俺よりも野生動物たちのほうが、水探しにかけてはプロのはず。
それなのに、彼らが絶望に打ちひしがれているということは、このあたりは全滅のはずだ。
「ということは、相当遠くまで探さないとダメだろう。
当てずっぽうに歩いたところで、見つかるわけがないし……」
俺はふと、あることを思い出す。
以前、陶芸をやるために、粘土用の石を探していた時のことだ。
『火山もないのに火山岩があるということは、昔はこのあたりに川でもあったのかな?
探せば近くに源流があるかもしれないな』
「……そうだ! 火山岩のあるところを辿っていけばいいんだ!
そしたら川の支流が、うまくいけば源流が見つかるかもしれない!」
俺はコートのポケットから、付近のマップを取り出す。
火山岩を最初に見つけたところから、地形を推理しつつ歩いて行く。
すると、かつて川があったような窪地を見つけた。
「よし、これを森の奥の方角に向かって、辿っていってみよう」
しかし、この先に川がある保証などどこにもない。
蜘蛛の糸のように、か細い希望でしかない。
「でも今の俺は、それにすがるしかないんだ……!」
祈るような気持ちで歩いて数時間。
窪地は土砂で埋もれ、ぷっつりと途絶えていた。
俺は疲れてはいなかったが、精神的な徒労でガックリと膝をついてしまう。
「唯一の手掛かりが、消えちまった……! いったい、どうすればいいんだ……!」
ふと、背後に無数の足音を感じて振り返る。
後ろにいたマークとトムも、ただならぬそれに気付いたようで、もふっとした後頭部を俺に向けていた。
ざっ、ざっ、ざっ、ざっ……。
その正体は、一匹の子鹿が引きつれた、動物軍団……!?
先頭にいる子鹿は、どこかで見覚えがあった。
「お前はもしかして、俺が初めて調教した……!?
もしかして、みんなを説得してくれたのか……!?」
子鹿は頷くように「キューン!」と鳴き、俺の前でピョコンと飛び跳ねてみせた。
挫けそうになっていた俺に、ふたたびやる気がこみあげてくる。
そして、奇跡が起こった。
--------------------------------------------------
レオピン
職業 戦斧使い
LV 17 ⇒ 18
HP 1010
MP 1010
ステータス
生命 101
持久 101
強靱 1001
精神 101
抵抗 101
俊敏 1001
集中 101
筋力 101
魔力 101
法力 101
知力 101
教養 101
五感 101
六感 101
魅力 1
幸運 5
器用 400 ⇒ 500
転職可能な職業
生産系
木こり
鑑定士
神羅大工
石工師
革職人
木工師
魔農夫
陶芸家
菓子職人
花火職人
探索系
レンジャー
トレジャーハンター
地図職人
NEW! 地脈師
戦闘系
戦斧使い
ニンジャ
武道家
罠師
調教師
--------------------------------------------------
「面白かった!」「続きが気になる!」と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への評価お願いいたします!
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つでも大変ありがたいです!
ブックマークもいただけると、さらなる執筆の励みとなりますので、どうかよろしくお願いいたします!














