84 支援者たち
84 支援者たち
オネスコが聖騎士の最初の試練を、驚異的な短期間で成し遂げたことを祝うイベント。
それは『王立開拓学園』にとって、最初の功績となるはずだったのだが……。
それは、大成功と呼ぶには程遠いものであった。
ごく一部の者にとっては、超がつくほどの成功で、一生忘れられないほどの思い出となる。
しかし大半の者にとっては、絶がつくほどの失敗で、悪夢としか言いようがない思い出となった。
かの少年が与えた影響は計り知れない。
その余波は、学園より遥か遠方にある王都にまで及んでいた。
王城にある、とある一室。
天の川のような天井を埋め尽くすほどの、特別製のシャンデリア。
その光は白くて清浄で、室内をまるで天国のように煌めかせている。
白く長いテーブルは雲のようで、その前に鎮座する者たちは、まさしく神々のよう。
テーブルの短辺の向こうは一段高くなっており、玉座と見紛うほどの特別席。
そこには主神のような男が座っているが、あまりの光に全身が白く飛んでいる。
両脇には女神のような女性がふたり立っていて、男ほどではないが、肌がまばゆいほどに輝いていた。
ふたりは寸分違わぬタイミングで、同時に口を開く。
「「理事長、昨日の件は、どうなりましたか?」」
テーブルのいちばん手前に座っていた貴族風の男が、「はっ」と頭を垂れた。
「来賓者たちの、あのゴミに関する記憶は、すべて魔法により消し去りました。
記者たちの魔導真写装置はすべてあらため、あのゴミに関する真写はすべて消去してあります」
天使のような女性は、主神のような男をチラと見たあと、満足そうな微笑みを返した。
「「主はおっしゃっています。よろしい、と
それらの行いはすべて法に背く行為ですが、神に背く行為ではありません。
ならばその行いは、我が力を持って肯定されるでしょう」」
「はっ、ありがたき幸せ。
ゴミのしたことが外部に漏れてしまっては、下級社会の者たちにいらぬ希望を与えてしまいます。
下流社会の者たちは、優秀であってはならぬ。
どんなに能力のあるものでも、全力で潰すことにより、我ら上流社会の者たちの地位を守ることに繋がります」
「「主はおっしゃっています。子供たちも、そのように正しく教育されなくてはならぬと。
今はあのゴミのことを信じるのは、一部の者のみですが、このままでは……」」
「はい、その点についても抜かりはありません。
今回の原因を作った校長と教頭には、主の名のもとに、厳しい神罰を下します。
そして新しい校長と教頭は、来月早々に着任となります。
選りすぐりの者たちですので、もはやこのような失態は起こらなくなるでしょう」
女神たちは、翼のような両手を広げる。
「「主はおっしゃっています」」
そして、裂けんばかりに口を、ニタァと広げた。
「「ゴミは、ゴミ捨て場で朽ち果てるものである、と……!」」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その日、リークエイト王国の朝刊は、すべてがオネスコ、そしてモナカやコトネたちで一色に染まっていた。
真写の彼女たちは『レオピン花火』を見たあとだったので、幸せの絶頂のような笑顔。
しかし彼女たちは知らない。
その紙面には少年の面影どころか、『レ』の字すらもないことを。
レオピンの偉業は、外部に流出する前に、すべてが支援者たちによって握り潰されていた。
それどころかそんな生徒は在籍していないかのように、存在すら抹殺されていた。
そして、今回のコミッショナーであるふたりには、異例の厳しい処分が下される。
この手のランク変動は、いつもであれば伝書で伝えられるのだが、今回は委員会からの使者による、直々の通達であった。
長身で肩幅の広い身体を、黒いスーツとタイトスカートに包んだ使者は、厳しい表情で断じる。
「ネコドラン校長代理、そしてイエスマン教頭代理。
我ら教育委員会は、今回の一件でおふたりの評価を見直す必要があると判断しました。
よって、『王立開拓学園』の校長代理、および教頭代理を、スリーランクダウンといたします」
ネコドラン校長代理 A+ ⇒ B+
イエスマン教頭代理 B ⇒ C
「えっ……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
教育委員会からの通達を受けた瞬間、校長室はかつてない叫喚のるつぼと化していた。
教員ランクの歴史の中で、3ランクダウンは過去に例がない。
それは事態を重く見られただけでなく、前例がないほどの強大なる力が働いたことを意味していた。
ネコドランは一気に教頭以下のランクになり、イエスマン至ってはヒラ教員ランクに……!
「にっ……にぎゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
「きっ……きえぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
ほとんど間を置かず、校長室はかつてない狂騒のるつぼと化す。
落ちぶれコンビはさっそく、使者の両足にすがりついた。
「オネスコくんの功績は、我輩がいたから成し遂げられたようなものなのである!
褒められこそすれ、3ランクダウンだなんて、あんまりなのであるぅ~っ!」
「イエス、そうざます! ノーッ、違うざます! オネスコくんの功績は、わたくしめあってのものざます!
だからこのハゲデブだけ処分してほしいざます!」
「ぶっ、無礼であるぞ! 黙って聞いていたら、このザマス男っ……!
いい加減、我輩の邪魔をするのはやめるのである!」
「それはこっちのセリフざます! 家柄だけで校長の座についたクセに、偉そうにするんじゃないざます!
ハゲデブがいなけりゃ、わたくしめはとっくの昔に校長の座についていたざます!」
「言わせておけば、このっ……!」
「やったざますねぇ!? ばっちい手で触られるだけでも嫌だったのに、押すだなんて許せないざます!」
使者の足にしがみついたまま、猿のように押し合いをはじめるふたり。
それはじょじょにエスカレートしていき、ついには掴み合いに発展……。
するかと思われた直前、ふたりの横っ面に、強烈な飛び膝蹴りがヒットした。
……ドグワッ……シャァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーッ!!
黒いタイトスカートをめくりあげながら、華麗に宙を舞うふともも。
「「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」」
悲鳴とともにブッ飛ぶ男どもは、校長室の扉に激突。
そのまま両開きの扉をバァンと叩き開け、廊下にゴロゴロと転がり出る。
使者は何事もなかったかのように居住まいを正しながら、外で倒れているふたりに向かって、冷徹に言い捨てた。
「おふたりとも、もうこの校長室を利用する権限は無くなりました。
そして、これより室内の調査を行ないます。
不適切なものが発見された場合、おふたりにはさらなる追加処分が下される場合がありますので、そのつもりで。
いずれにしても、この部屋は調査後に施錠され、鍵は来月初日に着任となる、新任の校長と教頭に委譲されます」
そして断ち切るように閉じられる、校長室の扉。
……バタァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーンッ!!
その音はふたりにとって、死刑判決が下された木槌さながら。
残酷な残響となって、いつまでもいつまでも頭の中にこだましていた。
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