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82 世界じゅうのオネスコへ

82 世界じゅうのオネスコへ


 教頭が帰っていったあと、俺は朝から畑仕事に精を出していた。


 家のとなりにある畑を、森の外側にある草原のほうに向けてさらに拡張。

 森の奥へと畑を広げることも考えたのだが、開墾するのが大変だし、なによりも森は資材の宝庫だからな。


 100メートル四方の巨大な耕地を見回しながら、俺はひと息つく。


「さぁて、これからなにを植えようかな」


 まずは『スイートポテト』が筆頭かな。

 育てやすいうえに、いざとなったときの食料にもなる。


 次点ではトムが取ってきてくれた『ブラックセサミ』だ。

 セサミは油が採れる。油があれば生活の幅はさらに広がるだろう。


「畑の広さのぶんだけ、夢も広がるなぁ」


 なんてひとりごとをつぶやいていたら、


『きっ……きえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!』


 学園のほうから、聞き覚えのある鳴き声が届いた。

 魔導拡声装置ごしの声なのだろう、やたらと反響している。


「そういえば、オネスコの記念式典が始まった頃合いかな。

 行けないのは残念だけど、あとでお祝いでも……」


 ふと、俺はあることを思いつく。


「そうだ、あとからなんて言わず、今からお祝いしてもいいよな。

 会場に近づかなけりゃ、教頭も文句ないだろうし」


 俺は『魔農夫(マナファーマー)』から転職しつつ、家の作業場へと向かう。

 ギスの木で作った作業台の上に、コートのポケットから取りだした『救難信号』の束を置いた。


--------------------------------------------------


 救難信号

  個数1

  品質レベル3(素材レベル8+職業ペナルティ5)


  火薬(ひぐすり)を調合して作った、仕掛け式の打ち上げ花火。

  打ち上げると、空に文章を描き出す。

  文章の内容は、

  『おねがいだから タスケテ! きょうとうセンセイに、さからったボクがバカでした!

   もうガクエンをやめますから タスケテくださいっ! レオピン』


--------------------------------------------------


 救難信号は、各生徒に12本でワンセットで配られた。

 使い切っても補充は受けられず、開拓生活をこの12本で賄わなくてはならない。


「12回も助けを呼ぶようなヤツは、面倒みきれないってことなんだろうな」


 今の扱いからするに、俺が遭難したところで、1回も面倒を見てもらえそうもない。


「だから俺にとってはこの救難信号は、ただの花火だ」


 『オオイノシシの大ナイフ』で、救難信号の先っちょを切断。

 すると、火薬(ひぐすり)がザラザラと漏れだした。


「せっかくのお祝いだから、派手にいくか」


 俺はもう4本ほど救難信号を解体し、あわせて5本分の火薬(ひぐすり)を作業台に山盛りにした。

 火薬(ひぐすり)の山の中には、小さなガラス玉のようなものがキラリと光っている。


「これは、『救命球(きゅうめいきゅう)』だな。花火は見た目の目印で、救難信号の本体としてはこっちなんだ。

 間違ってコイツを打ち上げたら、俺が助けを求めたことになるから、取り除いておかないとな」


 火薬(ひぐすり)の山をかきわけて集めた5つの救命球を、コートのポケットにしまう。


「あとは、『花火職人(ファイアワーカー)』のスキルで、仕掛け花火の配列をいじってやればいい」


 俺はほじくり返した火薬(ひぐすり)の山を、両手で包み込むようにする。

 そして、『打ち上げ花火作成』のスキルを発動。


 今の花火の配列である、不名誉な命乞いの言葉が、モヤモヤと山の上に浮かび上がる。

 その文字に指で触れると、絵の具を水で溶かしたみたいに文字が歪んだ。


「うまいこと形を整えるのは、あんがい難しいな。

 なんだか足でホイッパーを握って、ケーキの上に字を書いてるみたいだ。

 しかし足でロープをほどく練習をしていた俺なら、なんとか……よしできた」


 いいカンジに配列変更ができた。

 あとはこの火薬(ひぐすり)を、筒の中に戻して、元通りフタをすれば……。


--------------------------------------------------


 仕掛け打ち上げ花火

  個数1

  品質レベル24(素材レベル3+器用ボーナス4+職業ボーナス17)


  火薬(ひぐすり)を調合して作った、仕掛け式の打ち上げ花火。

  打ち上げると、空に文章を描き出す。

  文章の内容は……


--------------------------------------------------


「元の信号より、だいぶ品質があがったな」


 早いとこ打ち上げたかったので、鑑定のウインドウを最後まで読まずにさっさと閉じる。


「よーし、景気よく5連花火といくか!」


 俺はできたての5本の花火を束ね、作業机の上に立てた。

 そのまま花火の尻をぐいっと机に押しつけると、


 ……しゅばあっ!


 ど派手な閃光が空に飛び上がる。


 ……ひゅぅぅぅぅぅ~~~~っ……!


 と空にあがっていく光のくす球を、俺は手をひさしのようにして見上げていた。


「品質レベル24の花火が5本、ってことは単純計算でレベル120か。

 俺のクラフトじゃ最高レベルになるけど……」


 ……どっ、かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!


 爆音とともに、空には巨大な光輪が広がった。

 しかし、そのあとはなにも起こらない。


「まさか、失敗か?」


 そうつぶやいた直後、上空に一輪の花が咲いた。


 ……ぽんっ!


 その花は瞬く間に、天空を埋め尽くすほどに広がっていく。

 赤、青、黄色、緑、白……空は極彩色の花畑と化していく。


 そのなかを、黒薔薇が集まってできた黒豹が駆け抜ける。

 黒豹のあとには、駆け散らした花びらが3色の宝石となって、文字を描き出す。



『おめでとう オネスコ! レオピン』



 その文字は太陽よりも大きくて、まるで空から包み込むんでくるかのようだった。

 俺は反省する。


「しまった、ちょっと大きくしすぎたか。これじゃ、世界じゅうのオネスコを勘違いさせちまうな」

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― 新着の感想 ―
[一言] レオピン「やべっ」 花火「世界中に届け」 特定の1名を除く世界中のオネスコさん「(レオピンってだれ…?)」
[一言] >救難信号は、各生徒に12本でワンセットで配られた。使い切っても補充は受けられず、開拓生活をこの12本で賄わなくてはならない。 「12回も助けを呼ぶようなヤツは、面倒みきれないってことなんだ…
[一言] 差別されても何も気にしていないのか。 まあ、マイナスに囚われるだけ時間の無駄でもあるがな。
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