81 天空のレオピン
81 天空のレオピン
まさかの、スレイブチケットが命令拒否……!
「きっ……きえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
教頭は卒倒せんばかりに絶叫していた。
今度こそ教頭は、ここでノックアウトかと思われたのだが……。
もはや後のない彼は、ギリギリの正気で踏みとどまる。
教頭は偽札を掴まされたかのように、チケット広げて穴が空くほど見つめていた。
「ぐぎぎぎっ……! スレイブチケットが命令を拒否する理由は、いくつかあるざますが……!
きっと、額面に対して命令が重すぎたざます!」
そう。教頭の持っていたオネスコのチケットの額面は、2枚とも『100,000』。
スレイブチケットは額面に応じて、できる命令の重さが異なる。
まだ高校生の少女に対し、特定の単語を『生涯使用禁止』にするのは、20万¥では安すぎたのだ。
ちなみにこの判定は、スレイブチケット作成の際にかけられた魔法によって、一定の判断基準に基づく形で行なわれている。
さらに余談となるが、以前、クルミに下された『レオピンへの接近禁止』はかなり安い命令となる。
なぜならばレオピンが『特別養成学級』という、誰からも相手にされない存在だからだ。
むしろ『レオピンのそばにいなくてはならない』という命令のほうが高額となるであろう。
教頭は、迫り来る狂気を振り払うように叫ぶ。
「きっ、きえええっ! や……やりなおしざますっ!
『レオピン』という単語、およびそう聞こえる単語の発音と筆記を、50年使用禁止とするざますっ!」
しかし肖像画の答えは、またしても『ノー』。
「な、なら、40年……! ううっ、30年! じゃ、じゃあ、10年っ……!
ええい、もういいざます! 今日1日! 今日1日だけ禁止ざますっ……!」
そこまで譲歩してようやく、肖像画は重い首を縦に振る。
しかしここでもまたハプニング。
なんとチケットは2枚とも、シャボン玉となって消えてしまった。
「きっ、きええええええーーーーーーっ!?!? し、しまったざます!
『発音』と『筆記』の2種類で、2回分の命令と判断されてしまったざますぅぅぅぅーーーーーっ!!」
地団駄を踏む教頭。
ざわめくステージ下から、こんな声がした。
「さっきから、あの男は何をやってるんだ、いったい……?」
「もしかして、仕込みの喜劇役者なんじゃない?」
「ああ、そうか! どうりであんなにマヌケに振る舞ってるわけだ!」
「そうだよなぁ! アレで素だったら、頭おかし過ぎるもんな!」
「これはサプライズの余興ね、きっと!」
やんややんやと盛り上がる客席。
それを応援と勘違いした教頭は、めげずに再びオネスコと対峙する。
「さぁ、これでオネスコさんはもう、あのゴミのことは口にできないざますよぉ!
口にしたら最後、額面がドーンって下がっちゃうざますよぉ!
それでも良ければ、言ってみるがいいざんしょ!」
オネスコは今更ながらに教頭の悪だくみに気付き、歯を食いしばる。
「ぐっ……! ひ、卑怯な……!」
「別に卑怯じゃないざますよぉ!
これはあのゴミにやられちゃったオネスコさんを、助けてあげようとしてるんざますぅ!
本来尊敬すべきなのは、このわたくしめなんざますよぉ!」
「誰を尊敬するかは、指導されるものではありません!
私が自分で見て、聞いて、触れて……感じたことで判断します!
それに、私の話はまだ途中です! 拡声装置を貸してください!」
例の単語を封じ込めることに成功した教頭は、やすやす拡声装置を明け渡す。
オネスコは決然とした表情で、観客たちに向き直った。
『失礼しました! 話を続けます!
私が試練を乗り越えられたのは、これもひとえに、ある人のおかげです!
その人の名は……!』
その耳元に、鼻唄のような言葉が掠める。
「あ~あ、言っちゃっていいんざますかぁ~?
命令を破ったらどうなっても、し~らないざんすぅ~。
この先の開拓生活が、お先真っ黒けっけになっちゃうざますねぇ~。
ご主人様のモナカさんも、きっと悲しむざますねぇ~!」
オネスコはハッと、ガラス張りの特別室を見やる。
そこには、立ち上がったモナカとコトネが、ドンドンとガラスを叩いている。
しかし分厚いガラスは、その振動すらも伝えてこない。
ふたりとも酸素を求める金魚のように口をぱくぱくさせ、必死になにかを叫んでいた。
教頭はほくそ笑む。
――ムホホホホホッ! 特注の、防音魔法のかかったガラスざます!
オネスコさんを封じ込めても、モナカさんとコトネさんがあのゴミの名を叫ぶかもしれないと思って、あの中に閉じ込めたざます!
これであのゴミの名が出てくる可能性は、万にひとつもなくなったざます!
一時はどうなることかと思ったざますが……。
やっぱり最後はわたくしめの、完・全・勝・利っ……!
オネスコはうつむき、がっくりと肩を落としていた。
――ごめんなさい、レオピンくん……。
私はずっと虐げられているレオピンくんのことを、少しでもみんなに認めてもらいたくて……。
この場を借りて、レオピンくんのすごさを、伝えようとしていたのに……。
私には、できない……。
だってスレイブチケットの約束を破って、額面が下がってしまったら……。
モナカ様を、悲しませることになるから……!
許して、レオピンくん……!
騎士は、仕える主人を裏切るようなことは、できないの……!
すっと顔をあげるオネスコは、とても晴れ舞台とは思えないような、抜け殻となっていた。
茫洋とした瞳、青白い肌、力のない唇で、掠れた終わりの言葉を紡ぐ。
『私からのご挨拶は、以上、です……。今日は、本当に……』
校長と教頭は抱き合っていた。
「やったざます! オネスコさんの挨拶さえ無事に終われば、もう勝ったも同然ざます!」
「やったのである! もう、あのゴミがひょっこりと出てくることはないのである!」
「「支援者様を、怒らせずにすんだ~っ!」」
彼らは、まだ……。
この期に及んでもなお、侮っていた。
彼らがゴミと罵ってやまない少年は、ただの少年ではないというのに。
少年がその気になれば、いつでも、この場にひょっこりどころか……。
太陽のように顔を出すことなど、たやすいというのに……!
……ひゅぅぅぅぅぅ~~~~っ……!
不意に口笛のような音が、どこからともなく響いた。
そして、次の瞬間……。
その場にいた全てのものが、目の当たりにしていた。
天を埋め尽くすほどに巨大なる、『レオピン』をっ……!
「えっ……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
今日はモチベーションがありましたので、久々に3話更新をさせていただきました!
これも読者の皆様のおかげです! ありがとうございます!
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