79 最後の悪あがき
79 最後の悪あがき
『王立開拓学園』の校長室は、校舎内のなかでも特に贅を尽した作りとなっていた。
シャンデリアの明かりに照らされた調度品はキラキラと輝き、まるで夢のような空間。
しかしそこにいる者たちは、まるで冬の路地裏にいる野良猫のように、震えながら身を寄せ合っていた。
「……も、もう、あとがないのである……!
おそらく理事長は、新しい校長と教頭を探しはじめたのである……!」
「きょ、教頭もざますか!? ということは、このわたくしめも……!?」
「なんで自分だけは助かると思っていたのであるか!? 当然である、教頭代理!
キミはヘマをしすぎなのである! 裁きの雷に撃たれた教頭など、キミくらいのものである!」
「こ、校長代理だって、ヤキブタみたいになったざます!」
ふたりは険悪な雰囲気になりかけたが、なんとか自制する。
「け……ケンカしている場合ではないのである!」
「そ……そうざます! このままでは、ふたりとも終わりざます!」
「クソッ! あのゴミさえいなければ、こんなことにはならなかったのである!」
「そうざます! 追放なんて生ぬるいことはせずに、退学にしておけばよかったざます!」
ふたりはレオピン憎しであったが、そのレオピンのとある行動がきっかけで、思わぬチャンスがもたらされることになった。
「こ……校長、グッドニュースざます! 1年2組のオネスコさんが、聖騎士の最初の試練をパスしたそうざます!」
「なにっ!? そんなはずはないのである! 聖騎士の最初の試練は、最短記録でも3年はかかっているのである!
拠点の作成以上に時間がかかるとされている試練を、こんなわずかな間に達成するなど不可能なのである!」
「それが本当なんざます! 聖騎士協会からの認定証が送られてきたざます! とんでもない快挙ざます!」
「おおおっ!? 我輩にもついに、運が向いてきたのである!
これを外部に知らしめれば、我輩の功績となるのである!」
「そうざます! わたくしめの功績となるざます!
外部からたくさんのゲストを呼んで、大々的に記念式典を行なうざます!」
「うむ! オネスコくんはきっと、新聞の一面となるのである!
そこでのコメントで、我輩を推してもらえれば、我輩のランクアップは間違いなしなのである!」
「そうざます! わたくしめの指導の賜物だということをコメントしてもらえれば、わたくしめのランクアップは確実ざます! ツーランクアップも夢じゃないざます!」
夢ひろがるデコボココンビ。
しかしふと、ある少年の顔が頭をよぎった。
「……まさかいくらなんでも、あのゴミがひょっこり顔を出すようなことは、ないであろうな……?
たとえば、試練達成のために、宝石を加工したとか……」
「いくらなんでも、あのゴミに宝石加工なんてできるわけがないざます。できたら、器用さのオバケざます」
「だが、用心にこしたことはないのである。
たとえあのゴミが関わっていたとしても、ひょっこり顔を出させなければよいのである。
今回だけは、なにがあっても失敗は許されないのであるからして……!」
「わ……わかったざます。ありとあらゆる手を尽して、あのゴミを排除するざます!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
朝起きると、珍しく身体が光ってなかった。
まあいいやと思いつつ、学校に行くために家を出ると……。
森の入口のあたりで、人垣ができていた。
学園の警備兵たちが、ずらっと一列に並んで通せんぼしている。
その中心には、教頭先生がいた。
教頭先生は、遠間から俺に向かって叫ぶ。
「ゴミ……じゃなかったレオピンくーん! 今日はそのばっちい家から、一歩も外に出ちゃダメざますーっ!」
教頭も警備兵も、俺がバイキンであるかのように、いっさい近寄ってこようとしない。
俺は叫び返した。
「えーっ!? どうしてですかーっ!?」
「オネスコさんが、聖騎士の最初の試練を達成したざますーっ!
今日は1日、学園を貸し切りにして、そのお祝いをするざますーっ!
特別に、外部から多くのゲストが来るざますーっ!
新聞記者も大勢来て、真写をいっぱい撮るざますーっ!
もし『特別養成学級』の落ちこぼれなんかが見切れでもしたら、大変なことになるざますーっ!」
開拓系の学園は、特別なイベントでもないかぎり、外部の人間は立ち入ってはいけないことになっている。
開拓が進んでお披露目する『学園祭』や、授業参観などだ。
しかし特に素晴らしい活躍を果たした生徒が出た場合、その功績を称え、ゲストを呼んで祝勝会などが行なわれることがあるらしい。
今回は、後者のケースというわけだ。
それで俺が外出禁止になるのが意味不明だが、理由としてはわかった
それに、こういう扱いはもう慣れっこだ。
俺は渋々ながらも納得するが、教頭はその気すら奪い去るような、余計な一言をつけ加える。
「おいしいおいしいごちそうも、いっぱいいっぱい出るざますーっ!
家で大人しくしてたらご褒美に、そのニオイをフーフーして送ってあげるざますーっ!」
「いや、それはいりませーんっ!
まあとにかく、わかりましたーっ! 今日は1日、畑仕事でもしてますーっ!」
「ノーッ! 家から一歩も出ちゃダメざますーっ!」
教頭はバッサリ切り捨てると、指をバッと指して叫んだ。
「さあ、警備兵の諸君、あのばっちい少年を、ばっちい家に閉じ込めるざます!
そしてしっかり見張って、一歩たりとも外に出しちゃダメざます!」
しかし警備兵たちは、一歩たりとも動かない。
教頭の命令に、ガクガクブルブルと首を左右に振っていた。
俺はなんでそんなに離れてるんだろうと思ったのだが、マークとトムが擦り寄ってきて理解する。
そうか、教頭も警備兵も、うちの番犬が怖いのか。
教頭はヒステリックに警備兵に突撃指示を出していたが、誰ひとりとして頑と動かなかったので、とうとう譲歩した。
「ぐぎぎぎっ! なら、もういいざます! お前たちは今日1日、この森から、あのばっちい少年を出さないように、ここで見張っておくざます!
あのばっちい少年が一歩でも出ようとしたら、きゃあきゃあ喚きながら逃げ惑うくらい、容赦なく叩きのめしてやるざます!」
その命令は問題なかったのか、警備兵たちはザッ! と一斉に敬礼を返す。
俺はちょっと意地悪したくなって、「行け、マーク、トム」と命じる。
大小2匹の獣が、「「ごあーっ!」」と森の外に向けて駆け出したとたん、
「ひっ……!? きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
警備兵たちは少女じみた悲鳴とともに、蜘蛛の子のように逃げ去っていく。
逃げ遅れた教頭は、トムからズボンに食いつかれ、
……ビリッ!
と尻の部分の生地を喰いちぎられていた。
「ぎゃああああっ!? このタキシードは、今日のために新調したものざます!?
おろしてまだ1時間も経ってないざますのにっ!? って、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!?!?」
トムに追い立てられ、生尻丸出しで帰っていく教頭の情けない姿。
おかげで、俺の気分は少しだけスッとした。
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