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78 ニセ校長誕生

78 ニセ校長誕生


 『リークエイト王国 王立開拓学園 教育成果発表会』から、一夜明けた次の日。

 転送の魔法陣で王城から学園に戻った校長は、ゲッソリとやつれていた。


「発表会は、大失敗に終わってしまったのである……」


 フラフラと校長室に戻ると、校長の椅子には何者かが座っていた。

 その人物は、背を向けて窓のほうを眺めている。


「だ……誰であるか?」


 音も立てずに振り返った人物に、校長は「あっ」と声をあげた。


「イエスマン教頭代理!? そんなところで、なにをしているであるか!? そこは校長である、我輩の座る場所なのである!」


 校長の前ではいつもコメツキバッタのようにペコペコしているイエスマンであったが、今日は様子が違っていた。

 まるで自分こそが上であるかのように、革張りの椅子にふんぞりかえると、


「ノー。ここはあなたが座る場所じゃないざますよ、ネコドラン校長代理(●●)


「なっ、まさか……!?」


「教育委員会から、通達があったざます。あなたはツーランクダウンざます、と」


「にっ……にぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 思い当たるフシがあまりにもありすぎて、校長はもう叫ぶことしかできない。

 しばらくの間、生き埋めになっていくかのように悶絶したあと、墓穴から這い出るかのように開き直った。


「だ、だが、新しい校長が来るまでは、我輩は校長なのである! だからそこをどくのである!」


「いまのわたくしめに、そんなことを言ってもいいんざますか?

 わたくしめは、教育委員会からもうひとつの譲歩案を受け取っているざます。

 ツーランクダウンを阻止するための、ね……!」


 ネコドランは一瞬にしてプライドを投げ捨てる。


「にぎゃっ!? そういうことは早く言ってほしいのである!

 す、少しくらいなら、その椅子に座っていてもいいのである!

 なにせキミは、未来の校長なのであるからして!」


 揉み手をするネコドランに、イエスマンはまたしてもノーを突きつける。


「ノーッ! そもそも今回のような失態を引き起こしたのは、発表会にわたくしめを連れていかなかったからざます!

 約束してほしいざます!

 これからは、ランクアップのきっかけになりそうな公の場には、必ずわたくしめも同行させると!」


「わ、わかったわかった! わかったのである! 次からはキミもちゃんと連れて行くのである!」


「なら、この契約書にサインするざます」


 イエスマンは書斎机の上に置かれていた、文字がびっしり書かれた羊皮紙をトントン叩く。


「なに、契約書であると!? そんな約束事に契約書など、大袈裟なのである!

 キミと我輩との仲なのである!」


「ノーッ! わたくしめの家には、こんな戒めがあるざます。

 『ハゲ・デブ・鼻毛。この3つが揃ってる人間は、決して信用するな』と……!

 さあさあ、これにサインするざます!」


 ネコドランは盛大にディスられた気分になりつつも、渋々と契約書にサインをする。

 そしてイエスマンが告げた、譲歩案とは……。


「発表会で壊した魔導ボードの修理代を、自腹で支払うざます!

 そうしたら、ワンランクダウンにとどめると、教育委員会は言っているざます!」


「おおっ!? 金で解決できるのであるか!?

 それならツーランクダウンより、ずっといいのである!

 なにせ校長代理になってしまったら、給料はずっと下がってしまうのであるからして!

 で、いくら払えばいいのであるか? 1千万(エンダー)であるか?」


「ノーッ! 1億(エンダー)ざます!」


「いっ……1億っ!? いくらなんでも高すぎるのである!」


「ノーッ! あの魔導ボードは、この国にまだ数台しかない貴重なものざます!

 修理にはそのくらいかかるそうざます!」


「1億なんて金、出せるわけがないのである! 全財産をはたいても、5千万が限界なのである!」


「そうざますか、ならツーランクダウンになるといいざます」


「そっ……そんなぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 ネコドランは、今日にかぎってイエスマンがやたらと強気な理由を知った。

 自分が、1億もの金が払えないことを知っていたからだ。


 ツーランクダウンとなると、ネコドランは『S』から『A+』ランクにまで落ちる。

 『最上位グループ』から、イエスマンと同じ『上位グループ』になってしまう。


 それはもはや、選択の余地がないことを意味する。

 校長代理になってしまっては、一族に顔向けができなくなってしまうからだ。


 そして校長は、新しい屋敷を建てたばかり。

 逆立ちしたところで、1億などという金は……!



 ――い……いや、あるのである!

 とっておきの、埋蔵金が……!



 ネコドランは邪神の呼び声を聞いたかのように、校長室を飛び出していく。

 校舎を出て、中庭のはずれにある、人気のない倉庫に転がり込んだ。


 そこには、あの(●●)賽銭箱が……!


 ネコドランはたまらずに、その中にダイブした。

 まるで幸運のペンダントで一攫千金を果たしたかのように、スレイブチケットという名の札束の海に溺れる。


「ばははははは! 闇ルートでこれを換金すればよいのである!

 学生のスレイブチケットを外部に漏らすのは違法なのであるが、もう、そんなことは言っていられないのである!

 支払った生徒たちが、外部の人間にどんな命令をされようとも、我輩には知ったことではないのである!

 我輩が校長でなくなることが、この学園における最大の損失なのであるからして! ばーっははははははははははーーーーっ!!」


 彼は知らない。

 薄い髪の毛と、その頭上にある薄い屋根。


 ふたつの薄さを隔てた先にある青空に、天網のような雷光が広がっていることを。


 ……どごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!


 裁きの雷、ふたたびっ……!


 無理もない。

 賽銭ドロボウというには、あまりにも悪質すぎたのだから。


 賽銭箱にあった、46,315,300(エンダー)ものスレイブチケットは、灰燼と化した。

 黒焦げになった校長は、保健室に運び込まれ、一命をとりとめる。


 開拓系の学園で、普段は教鞭を振るわない教頭が保健室送りになるのは、非常に珍しいことである。

 しかも教頭以上にその機会がない校長までもが、保健室送りになるのは前代未聞。


 ネコドランは選択の余地も奪われ、ツーランクダウン。


 ネコドラン校長 S ⇒ A+


 学園の上層部がふたりとも代理になってしまうという、ありえない事態となってしまった……!

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― 新着の感想 ―
[一言] これだけ悪行をしていても毎回1、2ランクしかダウンしないのは甘すぎますね。
[一言] バチ当たりにはふさわしい末路であったな。
[一言] 我は知ってる 代理と元代理は実を言うと校長が来るまでの布石(噛ませ)
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