77 ネコドランの金策
77 ネコドランの金策
時間は少し戻る。
『王立開拓学園』の中で、校長はひとり頭を抱えていた。
「もうじき、王都で最初の教育成果発表会があるのである!
開拓の状況は、いくらでも誤魔化せるからいいとして……!」
開拓系の学園の開拓状況というのは、開校からある程度の期間のあいだは外部には公開されない。
支援者として名を連ねている者だけが、開拓状況を知ることができる仕組みになっていた。
なぜそうなっているかというと、より優秀な生徒にいちはやく目星を付け、投資するための『先行特典』のようなものである。
発表会では、開拓状況については資料で説明するだけなので、いくらでも捏造がきく。
しかしどうにもならない問題が、ひとつだけある。
「発表会では、『資産ランキング』の魔導ボードを公開せねばならんのである……!
なぜならば、我が校が初導入であるからして、集まった記者たちもきっと聞いてくるはずなのである……!」
そのまま公開すればいいだけの話なのだが、それだけはできない理由があった。
「資産ランキングの1位が、ぶっちぎりで『特別養成学級』なのである……!
そんな落ちこぼれクラスが1位というのが外部に知れ渡ったら、大変なことなのである……!」
『王立開拓学園』にいる生徒は、権力者の子息や令嬢だらけで、将来は国を担うサラブレッド揃い。
優秀なはずの彼らが、落ちこぼれのクラスより低い資産しかないことがバレたら、校長の指導の資質すらも問われかねないからだ。
「せめて、せめて……1位からは叩き落とすのである!
1位に別のクラスが入りさえすれば、あとはなんとか誤魔化してみせるのである!」
しかし、それすらも難問であった。
なにせ1位の『特別養成学級』は、4千万¥もの莫大な資産を有しているのだ。
「いったいどうすれば、発表会までに、他のクラスに4千万以上を稼がせることができるのであるか……!?」
校長はまず、なんとか理由をこじつけて、ひとつのクラスに賞金を5回授与できないかと考えた。
しかし、賞金は提供してくれた支援者がいるので、あまりに適当な理由で与えると批難を受けかねない。
不意に、校長室のドアが乱暴にノックされた。
イライラしていた校長は「やかましいのである! いま、考えごとをしているのである!」と怒鳴り返す。
ドアの向こうから、くぐもっていながらも、やかましい声がした。
「ミート、失礼しました! ただ、大急ぎでお知らせしておかなくてはならない、大事故が発生したのであります!」
「大事故であると!? まったく……!
これ以上、問題を増やさないでほしいのである! いったい、なにがあったのであるか!?」
「はっ! 今しがたイエスマン教頭が、裁きの雷に撃たれて保健室に運ばれました!
どうやら、1年19組のために作られた『ジンジャ』を破壊しようとして、天罰が下ったようなのです!」
「……ジンジャ、であると……!?」
その単語を耳にした瞬間、校長の頭部が天啓を受けたかのように、カッと輝き出す。
「そうだ、そうなのである……! これならばきっと、4千万¥を稼がせることが、できるのである……!」
校長はさっそくニックバッカに命じ、あるものを手配させた。
それはなんと、『賽銭箱』……!
「東の国では、この箱に寄付金を入れると聞いたのである。
商売で4千万を稼がせるのは大変であるが、寄付ならば簡単なのである。
それにコトネくんほどのカリスマがあれば、なおのことなのである……!」
校長は喜び勇んで、コトネのジンジャに賽銭箱を運び込ませる。
しかし当のコトネの反応は、にべもなかった。
「お断りさせていただくのでございます」
「なぜであるか!? 寝ていてもガッポガッポ儲けることができる、またとないチャンスなのである!」
「ここはたしかにジンジャでありますが、ご神体がまだございません」
「そんなの、適当にでっちあげればいいのである!」
「そうはまいりません。このジンジャははからずも、わたくしの初めてのジンジャとなりました。
最初のジンジャに置かれるご神体というのは、ミコにとっては我が子以上に尊いもの……。
それを適当に決めるなどとは、言語道断なのでございます。それに……」
コトネはずっと毅然とした態度を貫いていたが、ここで急にポッをと頬を染めた。
折り目正しい正座をしたまま目をそらし、恥ずかしそうに床に『の』の字を描く。
「わたくしの初めてのご神体は、お師匠様から授かりたいのでございます……」
しかし、少女の神を思う無垢な気持ちも、師匠を想う純粋な気持ちも、校長は踏みにじった。
なんと、1年19組の女生徒たちを言葉巧みに誘い出し、その間に勝手にジンジャに賽銭箱を設置。
他の居住区の生徒たちに、呼び込みをかけたのだ。
「さあ、これは賽銭箱といって、コトネくんへ贈り物をすることができる箱なのである!
そしてコトネくんは言っていたのである、スレイブチケットが欲しくてたまらないと!
チケットをたくさん入れてくれたら、好きになっちゃうとも言っていたのである!」
男子生徒たちは色めきたつ。
彼らはコトネに感謝の気持ちとして、スレイブチケットを贈ろうとしていたのだが、受け取ってもらえなかった。
そのため彼らにとって賽銭箱は、待ちに待った『貢ぎ箱』となる。
箱のまわりに男子生徒たちが殺到、己のすべてを捧げるように、こぞってスレイブチケットを投げ込んでいた。
その光景に、校長は笑いが止まらなくなる。
「ばはははははは! この調子なら、1年19組が資産ランキングでトップになるのも、時間の問題なのである! ばははははははは……は」
しかしはたと、その笑いが止まった。
――でもコトネくんが受け取り拒否したら、すべては水の泡なのである。
コトネくんたちが帰ってくる前に、賽銭箱を回収しておくのが無難なのである。
そうすれば、ランキングは安泰なのである。
賽銭箱は、コトネくんたちがチケットの素晴らしさがわかるまで、我輩が預かっておくのである。
校長は群がる男子生徒たちに、慌ててつけ加えた。
「みんな! 寄付したことは他言無用なのである! 特に、1年19組の生徒たちには!
コトネくんは、奥ゆかしい男子が好きなのである!
キミたちの想いは、チケットの肖像画だけでじゅうぶんに伝わるのである!」
賽銭箱には車輪を付けておいたので、持ち去るのは簡単であった。
結局、1年19組は自分たちのあずかり知らぬところで、資産ランキングでトップにさせられてしまう。
ランキングボードを確認した校長の顔に、また笑いがぶり返してくる。
1位 1年19組 46,315,300¥
2位 特別養成学級 41,200,000¥
「ばはははははは! やった、ついにやったのである!
あのゴミを、ブチ抜いてみせたのである! いくらあのゴミでも、500万以上の差は覆せないのである!
これで発表会は安泰なのである! ばーっははははははははははーーーーっ!!」
その校長の笑顔は、発表会が終わるまでは、決して崩されることはない……はずであった。
しかしそれが発作とともに消え去ったのは、もはや言うまでもないことだろう。
発表会の会場でランキングボードが更新された瞬間、校長はそばにあった椅子を、力任せに持ち上げる。
周囲の制止も振り切って、ランキングボードをガンガンと打ち据えていた。
「にぎゃっ! にぎゃっ! にぎゃっ! にぎゃぁーーーーーっ!!!!」
「ね、ネコドラン校長が暴れ出した!?」
「いったい、なにがあったっていうんだ!?」
「わからん! でも最高のスキャンダルだぞ! 撮りまくれっ!」
いっそう激しく炊かれるフラッシュ。
ネコドラン校長の醜態は、次の日の朝刊をトップで賑わせることとなった。
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