75 オネスコのはじめて
75 オネスコのはじめて
俺は、グリフォンバードの巣からふたつの原石を取り出す。
指に挟んで下にいるオネスコに見せると、彼女はへなへなとへたりこんでいた。
「う……うそ……。こんなことが、ありえるはずがないわ……。
1日で3つの宝石が見つかるだなんて、絶対にありえないことなんだから……。」
オネスコは自分に言い聞かせるかのようだった。
「そうかぁ?」という俺の言葉は届いていない。
「そ、そうよ、これは、夢よ、夢。夢に決まっているわ。
醒めるまで何度だって言うわ、これは、ぜったいに夢っ……!」
「夢じゃないさ。それだけ、お前の聖騎士になりたいって想いが本物だってことさ」
俺は言いながら、枝の上に腰を降ろす。
ちょうどトムもやってきて、となりでちょこんとお座りする。
オネスコは女の子座りのまま、夢の中にいるようなぼんやりとした瞳で俺たちを見上げていた。
「そ……それって、どういうこと……?」
「叶えたい夢があるなら、それを強く願って、叶えるために努力していれば、必要なものを引き寄せるんだ。
だからお前はこの場所で、岩に挟まった原石を見つけたんだ。これは運命ってやつさ」
「これが、運命……? あなたと、出会ったのも……?」
「少なくとも、俺はそう思ってるよ。そしてこれは、俺の夢でもあったんだ」
「あなたの、夢……?」
「そう。俺はこうやって、夢を応援してやりたかったのさ。だから、お互いが引かれあったのかな」
木の上からニカッと笑いかけると、オネスコはカミナリに打たれたみたいにビクンとなった。
そしてなぜか急にしどろもどろになる。
「ひっ、ひひひ……惹かれあった!?」
「ああ。俺は以前は、モンスーンみたいな力も無かったし、キャルルみたいに魔法も使えなかった。だから戦ったりすることは苦手だった。
だからこの学園に入ったときは、クラフトでみんなの夢を応援しようって決めたんだ。……よしできた」
俺は木の上から「ほら、受け取れ」とふたつの宝石を手放す。
カットされた赤と黄色の宝石は、輝きが空中で混ざりあい、オレンジ色の光を振りまきながら落ちていく。
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ファイアサファイア
個数1
品質レベル24(素材レベル20+器用ボーナス4)
炎の精霊の力が宿った宝石。
装備品に加工、装飾することにより、炎の力を得ることができる。
ライトリン
個数1
品質レベル24(素材レベル20+器用ボーナス4)
光の精霊の力が宿った宝石。
装備品に加工、装飾することにより、光の力を得ることができる。
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いつものように両手で受け取ったオネスコは、目が点になっていた。
「……宝石が、3つとも揃っちゃった。うん、これはやっぱり夢ね。
っていうか、私は薬で幻覚を見せられてるんだわ。
だって、聖騎士の最初の試練をこんなに早く乗り越えられるはずがないもの。
伝説の聖騎士であるエルロンドだって3年もかかったんだから」
うんうん、とひとり頷く。
「それになによりもの証拠が、この私が、男の子相手にこんな気持ちになるはずがないもの。
私は男の子なんて好きにならずに、モナカ様だけにこの身を捧げようって決めたんだから。
危ない危ない。あやうく薬の力で、男の子なんかに『騎士の感謝』をしそうになっちゃったわ」
オネスコはなにやらブツブツ言っていたが、ふと顔を上げる。
その瞬間、ずっと熱っぽかった顔が、サッと青ざめた。
……びよよ~~~~んっ!
それはちょうど、俺が枝をしならせて、飛び込み台から跳躍するように宙を舞いはじめた瞬間だった。
「きゃっ……!? きゃああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
俺はオネスコから離れたところをめがけて飛んで、空中で回転して着地するつもりでいた。
しかしオネスコはなにを思ったのか、
「しっ、死んじゃやだっ! レオピンくぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!!!」
切羽詰まった表情で両手を広げ、俺を受け止めようと走り込んできたんだ。
「うわっ、あ、危ない、やめろっ!?」
……どっしーーーーーーーーんっ!
俺は着地の寸前に体当たりのようなハグを受け、身体ごと吹っ飛ばされる。
運悪くその先は低い崖になっていて、俺とオネスコは抱き合ったままゴロゴロと転がり落ちていった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
転がり落ちたショックで少年は目が回ったものの、なんとか気を失わずに意識を保っていた。
グルグル回る視界の向こうでは、ひとりの少女の姿が。
少女は少年に覆い被さるようにして、じっと少年を見つめている。
少年の顔に、少女の長い髪がかかっていた。
少年は、自分が少女にのしかかられているような体勢になっていることに気付いた。
少年は尋ねる。「ケガはないか?」と。しかし、答えはない。
「大丈夫か? どっか痛むのか? 動けないのなら……」
と少年は身体を起こそうとしたが、少女はすかさず、少年の手に指を絡める。
恋人繋ぎをして、少年をぐいと押し倒した。
「な、なんだよ、オネスコ……」
しかし、少年の言葉は途切れた。
なぜならば少女の瞳は今や、深い海の底に沈んだ宝石のように潤んでいたから。
「も……もう、無理っ……!」
「無理って、なにが?」
少女の中には、初めての激情が渦巻いていた。
――げ、幻覚だって、薬の力だって、思い込もうとしてるのに……!
無理っ、もう、無理よぉ!
抑えきれない……! この気持ちが……!
この人は、本当はすごい人なんだって、思う気持ちが……!
だって、騎士の試練である宝石を3つも見つけて、しかもそれを加工までしてくれたのよ!?
それも、1年どころか1日もかからずに、ほんの数時間で……!
す……すごいっ! すごすぎるわっ……!
しかもその功績をたてに、私にふしだらなことを要求してこないだなんて……!
それどころかペットに功績を譲っちゃうだなんて……!
違う……! あまりにも違いすぎる……!
私の知っている男の人とは……!
こんな男の人、初めてっ……!
今なら、モナカ様のお気持ちがわかる……!
モナカ様が、いつもこの人のお話ばっかりしている理由が……!
そしてお話されているときはいつも、幸せいっぱいなお顔をなさっている、気持ちが……!
ああっ、私の心ももう、支配されてしまった……!
私はもう、決めたっ……!
この人になら、あげてもいい、って……!
私にとっての、最初で最後の……!
そして、少女は動く。
動けなくした少年に向かって。
桜色の唇が、ついに禁断の言葉を紡ぎだす。
「……れ……レオピンくん……ありが……と……」
少女はその唇を自ら塞ぐように、少年の唇に重ね合わせ……。
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