70 楽しい探索
70 楽しい探索
俺はトムを引きつれ、勇んで森の中へと入っていく。
そして、満を持して『器用貧乏』の『器用な転職』のスキルを発動した。
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レオピン
職業 木工師 ⇒ 地図職人
職業スキル
発見術
隠された通路を見つけ出す
平面地図作成
平面的な地図を作成する
絶対記憶
風景を一度見ただけで完璧に記憶する
ただし戦闘行動を行なってしまうと、それまでの記憶は失われる
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この森は、食料や素材調達のために使っているので、もう自分の庭みたいなものだった。
しかし地図を作成するという俯瞰的な立場で見てみると、新たな発見がいくつもあった。
「おっ、藪の中に獣道がある。しょっちゅうこのあたりを行き来してるのに、ぜんぜん気付かなかった。
この先は、なにがあるんだろう……?」
俺ひとりがやっと通れるくらいの獣道の先は、いくつも枝分かれしていた。
適当に進んでみると、ウサギの巣があって、中では子ウサギがじゃれあっている。
脅かしたら悪いと思い、俺はそっと別の道を行く。
獣道はなかなか複雑で迷路みたいだったが、思わぬ発見もあった。
途中で木々が折り重なった暗い場所があったのだが、そこで地面に半分めり込んだ花を発見。
「これはもしかして、ヨルツメクサ……!?」
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ヨルツメクサ
個数1
品質レベル16(素材レベル16)
野生のヨルツメクサ。暗い森の中に生え、昼間は土の中に潜っている。
錬金術や薬草の材料として利用可能。
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「ヨルツメクサは夜にならないと地中から出てこないんだ。それを昼間に見つけられるなんて、ツイてるな。」
アケミに頼まれていた素材のひとつだったので、さっそく採取する。
それからさらに獣道を進んでいくと、藪の両脇が燃えるように赤く染まっている場所があった。
「あぶない、ヤケドソウがこんな所に生えてるだなんて……」
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ヤケドソウ
個数1
品質レベル7(素材レベル7)
野生のヤケドソウ。素肌で触れると火傷したようにかぶれる。
錬金術や薬草の材料として利用可能。
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「植物の知識がない状態で通ったら、大変なことになっていたな。
でも、頼まれものをまたゲットだ」
俺はコートの袖に手を引っ込ませ、直接触れないようにして『ヤケドソウ』を引っこ抜く。
慎重にポケットにしまい、さらに進んでいくと、見知った場所に出た。
「おお、池に出たぞ。最短距離を進めば、キノコ畑を通るルートよりずっと早そうだ。近道発見だな」
俺はいままで通ったルートを回想し、まずは大まかにクリップボードに書きこんだ。
『絶対記憶』のスキルがあるおかげで、通った道はハッキリと覚えている。
あとはそれを『平面地図作成』のスキルで紙に落とし込めば……。
「よーし、池までのだいたいの地図ができた。しかもレア素材の場所に、近道のルート付き。
あとは細かい獣道なんかを書き込めば完成だ。 ……なんだか、宝探ししてるみたいで楽しいなぁ」
「んじゃ、俺たちも楽しませてくれよ」
キノコ畑の方角から数人の男子生徒たちがやってきて、声をかけてきた。
みな革鎧を着ているから、戦士系の戦闘職っぽいな。
面識のないヤツらだったが、態度がやたらと馴れ馴れしかった。
「俺たち、キノコを探しに来たんだけどさぁ、どれが食えるキノコかわからなくってさぁ」
「ちょっと、俺たちが採ったキノコを食べてみてくんねぇ?」
「なんだお前ら」
「おっ、なにその反抗的な態度? 俺たち上位クラスなんだよ?
最下位の『特別養成学級』からしたら、俺たちは神様だろ」
「それとも、モナカ様とコトネ様みたいに、俺たちの弱みでも握ってんのか?
なら見せてみろよ、ああん?」
理不尽に絡まれるのはこれが最初じゃないが、なんだか余計ひどくなっているような気がする。
おそらく、俺の人相書きが居住区で出回ってるんだろう。
「コイツの態度が気に入らねぇなぁ! 落ちこぼれのクセに、ひとりでなんでもできるような顔しやがって!」
「薬がなけりゃ、お前なんかなんにもできねぇだろうが!」
「とっととブチのめしてやって、身の程を思い知らせてやろうぜ!」
「そうそう、そのあとで無理やりキノコを食わせるとするか!」
「そうだな! そしたら食えるキノコもわかるし、モナカ様とコトネ様も喜んでくださるし、一石二鳥だ!」
俺は悩んだ。
戦闘系の職業に転職すれば、コイツらに遅れを取ることはないだろう。
しかし戦った時点で、『絶対記憶』の効果が切れる。
さっき通った獣道の構造も、忘れてしまうだろう。
「うーん、でも、背に腹はかえられないし……」
「てめぇ、なにブツブツ言ってやがんだ!」
「いまさら謝っても遅ぇんだよ!」
「さぁ、泣き喚けっ!」
拳を振りかざして襲いかかってくる男子生徒たち。
俺はいよいよかと思ったのだが、彼らは俺に殴りかかる直前、まるで爆風を受けたように後ろに吹っ飛んでいた。
「ひっ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
彼らの視線の先は、俺の太もものあたりに固定されている。
見ると、俺の影から抜け出したような黒豹のトムが、「ウ~」と唸っていた。
そういえば、俺には頼もしいボディガードがいたんだと思い出す。
男子生徒たちは腰を抜かしたまま、足をバタつかせて後ずさる。
「ひっ、ひいっ!? くっ、黒豹!?」
「ヤツがブラックパンサーを飼ってるってのはマジだったんだ!?」
「噂を聞いたときはてっきり、大きめ黒猫か何かだと思ってたのに……!?」
「ま、まさか、本物だったなんて……!」
「あ、慌てるな! これはヤツが見せてる幻覚だ! そうとわかれば怖くはないっ!」
しかし、トムがクワッと口を開けただけで、男子生徒たちは喉笛を喰いちぎられたように絶叫する。
「ぎゃああああっ!? 逃げろっ!? 逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」
そして四つ足のまま、死に物狂いで逃げ出した。
俺は呼び止める。
「おい、後ろは池だから、気をつけないと……」
直後、どっぱーん! といくつもの水しぶきが噴き上がった。
「うわっぷ!? 助けて!? 助けてぇぇぇぇぇぇーーーーーーっ!?」
「なっ、なんで!? 沈むっ、沈むぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーっ!?」
「溺れちゃうっ!? 溺れちゃうよぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーっ!?」
男子生徒たちは、浮かんだり沈んだりしながらアップアップともがいていた。
「やれやれ、装備を身に付けているときの泳法を知らないのか」
このままほっといても良かったんだが、池に水を飲みに来ていた動物たちが迷惑そうな顔をしている。
「この水は、イザとなれば俺も飲むかもしれないし……これ以上汚されちゃかなわんな」
俺は近くにあった大ぶりの木の枝を、救命ロープがわりに投げてやった。














