69 筆記用具づくり
69 筆記用具づくり
ステータスウインドウで新しく増えた職業を確認した瞬間、俺は指をパチンと鳴らしていた。
「地図職人か! ちょうどいい!」
開拓系の学園において、開拓の初期準備となる生活基盤の確保ができたあとは、探索が始まる。
これは、有用な資材がある場所を探したり、拠点をさらに広げていくための下調べに相当する。
周囲にはモンスターや地下迷宮などもあるはずなので、戦闘職の生徒たちの活躍の場でもあるんだ。
彼らは地図職人の地図作成にボディガードとして同行。
その見返りとして完成した地図を受け取り、さらなる探索に役立てる。
「俺は、他の生徒が作成した地図を買うつもりでいたんだが……。
今の俺に売ってくれるようなヤツはいないから、どうしようかと思ってたんだよな。
でもこれで、問題解決だ!」
俺はさっそく周辺地図の作成にとりかかろうと、意気込んで家を飛び出した。
しかし、はたと気付く。
「あ、でも、書くものがないや」
地図職人になった生徒には、筆記用具一式が初期装備として与えられる。
でも俺は無職なので、なにも貰っていない。
「さすがに書くものナシじゃ、どうしようも……」
悩んでいたら、風に吹かれたビラのようなものが俺の足に張り付いた。
拾いあげて読んでみると、人相書きだった。
俺の『スレイブチケット』の肖像画と同じで、俺をやたらと悪人タッチで描いた似顔絵がある。
その下には、
『この顔に、ピンと来たら逃げましょう!
この生徒は無職で何の能力もないのをコンプレックスとし、我々を妬んでいます!
薬の力を使って幻覚を見せ、自分がさも能力者のように見せかけるのです!
さらに卑劣なことに、女生徒の弱みを握り、卑猥な要求をしてきます!
マッサージの強要や、無理やりキスするなどの被害が続出しています!』
「誰だ、こんなデマを広げてるのは」
でもこれで、俺に絡む輩が後を絶たない理由もわかった。
ビラを破り捨てようとしたところ、「ギャー!」と遠くから悲鳴が届く。
ふと見ると、森の入口のあたりに同じビラがたくさん散らばっている。
さらにその向こうでは、黒豹のトムに追い回されている男子生徒がいた。
男子生徒はトムによってさんざん転ばされ、踏みつけられまくっている。
最後は肉球スタンプだらけになって、居住区へと逃げ帰っていった。
俺は察する。
「ははぁ。嫌がらせで、俺の家の塀にもビラを貼ろうとしてたんだな。
でもトムに見つかって追い回されて、ビラをほっぽって逃げたんだろう」
そしてピンと閃く。
「そうだ、さっそく紙が手に入ったじゃないか!」
俺は散らばっていたビラを拾い集める。
あっという間に、ノート数冊分の紙が手に入った。
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レオピンの人相書き
個数300
品質レベル2(素材レベル12+汚損ペナルティ10)
上質の羊皮紙を使った人相書き。
人相書きの人物についての警告文がある。
文章の内容は……
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あのデマをまた見るのは嫌だったので、鑑定のウインドウを最後まで読まずにさっさと閉じる。
「落書きでせっかくの紙が台無しになってるが、裏はじゅうぶん使えそうだな。
あとは、これに書くものがあれば……!」
そこからはもう迷う必要もなかった。
俺はすぐさま家へと引き返す。
「たしか、廃材でもらってきたオーガウッドの残りが、まだあったはずだ」
ポケットから取りだした『オーガウッドの木材』を、『オオイノシシの大ナイフ』を使って、指くらいの大きさに削り分けた。
それを、陶芸家のときに作った『森林の焼き窯』に入れる。
あとは火の付いた薪を入れて、しばらく待てば……。
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オーガウッドの木炭
個数30
品質レベル8(素材レベル1+器用ボーナス4+加工ボーナス3)
オーガウッドを加熱して作った木炭。
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「木炭ができた! オーガウッドは木炭にするのに適してるから、加工ボーナスが付いたぞ!」
さすがに適しているだけあって、オーガウッドの木炭は焼きムラもなく、美しい漆黒だった。
「これを潰すのは、ちょっと勿体ない気もするけど……」
俺はコートのポケットから『グラニット粘土のすり鉢』を取り出す。
アケミにプレゼントした『乳鉢』を作ったときに、ついでに作っておいたやつだ。
すり鉢に入れた木炭を、ナイフの柄でゴリゴリとすり潰した。
「あとは、これまた余り物だった、『グラニット粘土』を加える。
たしか分量は、木炭が7で、粘土が3くらいの比率になるのがベストなんだよな」
秤が無いので、俺は目分量で粘土をちぎり、すり鉢に入れる。
手でこねこねすると、黄土色の粘土は、木炭の粉に埋もれてあっという間に真っ黒になった。
「この黒い粘土を、小さくちぎって均等に分けて……。あとは、長くて丸い棒状に伸ばす、っと」
俺はこのときワクワクしていて、粘土遊びをする子供みたいに楽しくクラフトしていた。
棒状の粘土が30本ほどできたので、それらを木の板に並べて、『森林の焼き窯』に滑りこませる。
初めてのクラフトの最終段階に、ドキドキしながら焼き上がるのを待った。
そして、ついに……!
「でっ、できたぁーっ!」
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オーガウッドとグラニット粘土のチャコールペンシル
個数30
品質レベル34(素材レベル30+器用ボーナス4)
オーガウッドの木炭と、グラニット粘土を混ぜ合わせ、加熱して作ったチャコールペンシル。
各種ボーナスにより、どんな紙でもしっかり書ける。
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俺は手が真っ黒になるのも構わず、初めての鉛筆を握りしめ、ビラの裏に試し書きしてみた。
羊皮紙の上に、しっかりとした黒い筆跡が残る。
「うん! 普通のチャコールペンシルは羊皮紙と相性が良くないんだが……。
これはバッチリ書けるな!」
俺はもはや、初めてのクレヨンを与えられた幼い子供のように、いてもたってもいられなくなっていた。
全身がウズウズしていたが、なんとか自制して、最後のクラフトに入る。
はやる気持ちで『木工師』に転職。
庭に残っていたギスの切り株を1枚だけスライスし、長方形に削れば……。
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ギスのクリップボード
個数1
品質レベル23(素材レベル2+器用ボーナス4+職業ボーナス17)
ギスの木材で作られたクリップボード。ペンホルダー付き。
各種ボーナスにより、置いた紙がしっかり固定される。
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「これで、必要なものはぜんぶ揃った! よぉーし、さっそく地図作成に出発だ!」
俺は尻に火の付いたウサギのように、作業場から飛び出す。
すると、ズボンの切れっ端を咥えたトムが「ぴゃー!」と走り寄ってきて、俺の足に額をこすりつけてきた。
「おお、トム、家を守ってくれてありがとうな」
「ぴゃー!」
「そうだ、お前もいっしょに来るか?」
「ぴゃー!」
俺はトムと一緒に、森の探索へと出掛けることにした。
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