表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/156

67 仲間割れ勃発

67 仲間割れ勃発


 夕日に向かって走り去っていくレオピン。

 その小さくなっていくシルエットを、長く伸びていく影を、泥人形軍団は呆気に取られたまま見送っていた。


 しかしハッと我に返ると、


「みっ、ミート!? しまった、逃げられた!?」


「ニックバッカ先生! もしかしてさっきの話を、あのゴミ野郎が盗み聞きしてたんじゃ!?」


「そんなことはない! ヤツは自分たちのいる所から、100メートルは離れていた!

 その距離でヒソヒソ話しが聞こえるだなんて、地獄耳にも程があるだろう!」


「でも、どうするんですか!? ヤツに置き去りにされたんじゃ、俺たち……!」


「み……みんなで呼び戻すんだ!」


 彼らは沈みゆく夕日に向かって叫んだ。


「おっ、おーいっ! 有名人くーんっ! いい子だから、戻っておいでーっ!」


「ゴミ野郎っ、戻ってこぉーいっ!

 俺たちを見捨てるなんて、冗談だよなぁーっ!?」


「そうそうーっ! もし、本当に戻ってこないっていうつもりなら、こっちにも考えがあるぞーっ!」


「そうだそうだーっ! お前のことを、明日から徹底的にいじめてやるからなーっ!」


「俺たちを敵に回したら、タダじゃすまないのはわかってるよなぁーっ!?

 わかったら、大人しく戻ってくるんだーっ!」


 彼らはさっきまでレオピンに泣きすがっていたというのに、少し休んだらこの有様である。

 なぜここまで傲慢に振る舞えるのかというと、彼らは幼少の頃からワガママ放題に育てられてきたから。


 そのため自分の置かれた状況もわからずに、身勝手な立場を振りかざしていたが……。

 一向に戻ってくる気配のないシルエットに、やがて慌てはじめた。


「みっ、ミート! やりすぎた! からかわれ過ぎて、いじけてしまったんだな!?

 もう有名人くんなんて言わないから、戻ってこぉい!」


「ゴミ……じゃなかったレオピーンっ! 頼むから、戻ってきてくれぇーーっ!」


「俺たちは一緒に『地獄(ヘル)マラソン』を走りきった仲じゃないかーーっ!

 もうズッ友だよなぁーーっ! いい加減、機嫌を直してくれよーっ!」


 『今更遅い』という言葉が、これほど似合う状況もないだろう。

 太陽とともに、レオピンの姿は地平に消えつつある。


 どんどん暗くなっていく森の中で、彼らはついにあの声を聞いた。

 人とも動物とも違う、悪鬼の雄叫びを。


「ギャッ、ギャッ、ギャーッ!」


 それだけで、泥人形たちは思わず飛び上がってしまう。


「うわあっ!? あっ、あの声は、もしかして……!?」


 茂みが激しく揺れ、緑色の肌をした生き物が飛び出してきた。

 泥人形たちは恐怖に顔を歪め、絶叫した。


「ごっ、ゴブリィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーンッ!?」


 舌なめずりするゴブリンの集団に、我先にと逃げだそうとする泥人形たち。

 しかし足腰が立たないので、あっという間に取り囲まれてしまう。


 泥人形たちは抱き合い、声をかぎりに叫んだ。


「たっ、助けて! 助けてぇ、レオピンくぅん! いや、レオピンさまぁ!」


「友達、いや、親友の俺たちが、ゴブリンに襲われてるよぉーーーーっ!」


「やだっ、やだぁ! 来るなっ、来るなぁぁぁぁぁぁーーーーっ!

 いや、レオピンくんは来てっ! 来てぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーっ!!」


「はっ、早く! レオピンくん! 早く早く早くっ!

 でないと死んじゃう死んじゃう死んじゃう! 死んじゃうぅぅぅぅーーーーっ!!」


 こういう窮地の場合、こんな風に叫んでいれば、普通はヒーローが駆けつけてくれるものである。

 しかし彼らはもはや、何もかもが遅すぎた。


 ゴブリンは泥人形たちが疲労困憊であることをいいことに、いたぶるように足蹴にしてきた。

 よってたかってゲシゲシと蹴られ、泥人形たちはみっともなく泣き叫ぶ。


「いだいいだい、いだぁぁぁぁぁぁーーーーーーいっ!?」


「助けて、助けてぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーっ!!」


「お願いおねがい、許してください! 許してくださぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーいっ!!」


 ふと、ある泥生徒が気付いた。


「そ、そうだ、ニックバッカ先生! 救難信号! 救難信号を打ち上げてくださいっ!」


「みっ、ミート! それはできない! だってアイツが、名前を書き換えたって言っていただろう!?」


「そんなの、ハッタリに決まってます! 仕掛け花火の文字が書き換えられるのは、『花火職人(ファイアワーカー)』だけです!」


「そうそう、あのゴミは無職なんですよ!? 俺たちにだってできないようなことを、あのゴミにできるわけが……!」


 普通に考えればそうであろう。

 しかしニックバッカには、あの一言がどうしても引っかかってしまう。


「あの状況で、ヤツがハッタリを言う意味が、どこにあるというのだ……!?

 それにヤツは、まるで悪魔のような走りっぷりで、自分たちを追いつめた……!

 もしかしたら……!」


 そして、ついに真相のシッポは掴まれる。


 それは、レオピンの超絶ぶりを目の当たりにしただけでなく……。

 三度も身を持って受けた彼だからこそ、たどり着けた極地であった。


「ヤツなら、レオピンなら……!

 仕掛け花火を書き換えるくらい、やってのける……!」


 しかしそのシッポは、ブツリと音をたてて切れてしまう。


「おい、いつまでウダウダ抜かしてんだよ、この筋肉ダルマ!

 俺がかわりに打ち上げてやるから、救難信号をよこせっ!」


「ミートっ!? 教師に向かってなんたる口のきき方だっ!? 性根を叩き直してやるっ!」


「この状況で、先生も生徒もあるかっ! おいみんな、この脳筋から救難信号を奪うんだっ!」


 彼らはとうとう仲間割れをはじめる。


「くそっ、この脳筋野郎、とんでもねぇバカ力だ!」


「いでえっ、押すな! てめぇ! 俺を外に出そうとするんじゃねぇよ!?」


「てめぇのせいで、ゴミ野郎に逃げられたんだ! 責任とって盾になれよっ!」


 泥人形たちがくんずほぐれつ、ボカスカと殴り合い。

 ゴブリンたちは「コイツらなにしてんだ?」と呆気に取られ、蹴るのをやめてしまった。


 あるゴブリンの足元に、赤い筒がコロコロと転がっていく。

 ゴブリンは不思議そうな顔でそれを拾いあげ、あれこれいじりだした。


 ニックバッカは残ったすべての力を振り絞るようにして、止めようとする。


「やっ……やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 しかし、遅かった。

 彼らはもはや、万事において置いてきぼりであったのだ。


 赤い筒が、シュバッ! と火を吹いた。


 ニックバッカは「あっ、ああーっ!?」と、天に昇る光弾に手を伸ばす。

 その表情はさながら、深い谷底に落ちていくかのようであった。


 ……ドドォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!


 轟音と無数の火花が、空で爆ぜた。

 すでに暗くなった空を、花が咲いたような光が照らす。


 浮かび上がった文字は、この国のどこにいても読めるのではないかと思えるくらいに、空いっぱいに煌々と輝いていた。



 おねがいだから タスケテ! きょうとうセンセイに したがったボクがバカでした!

 もうガクエンをやめますから タスケテくださいっ! ニックバッカ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みくださりありがとうございます!
↑の評価欄の☆☆☆☆☆をタッチして
★★★★★応援していただけると嬉しいです★★★★★

▼コミックス6巻、発売中です!
3yhrcih7iujm5f0tgo07cdn3aazu_49d_ak_f0_6ns3.jpg

▼コミカライズ連載中! コミックス6巻、発売中です!
jkau24427jboga2je5e8jf5hkbq_u0w_74_53_1y74.jpg r5o1iq58blpmbsj98lex9jb4g2_1727_3k_53_15fz.jpg 4ja22z6e9j8n5c6o2443laqx8b4v_136f_3j_53_14uc.jpg dm2ulscc6gwrdzc9cpyvkq7chn5k_wtf_3l_54_12fl.jpg l8ug24f47yvuk96t5a2n10cqlfd9_1e33_3l_54_104j.jpg jg166tlicmxb9n2r5rpfflel0ox_uif_3l_54_13bg.jpg cmau2113lvxuanohrju8z3y8wfp_8h9_3l_54_11ld.jpg
▼小説2巻、発売中です!
kwora9w85pvjhq0im3lriaqw3pv4_1al6_3l_53_11yj.jpg 2ql3dh0cbhd08b8y92kn9fasgs5d_7pj_3l_53_1329.jpg
script?guid=on
― 新着の感想 ―
[一言] 新キャラ提案が結構ありますので、提案! 転校生!タイガー!(または、タイガ!、レオピンのレオ!つまりライオンに対になるようにネーミング!) 東方出身の武道家系統クラス、家柄お好みで! …
[一言] ゴブリンに痛めつけられた挙句、そのゴブリンですらも呆然させるとは…… ここまで来ると感心してしまうものだな。
[一言] ゴブリンが油断していたのか不明だが、ニックバックと生徒達を足蹴して救援信号を送るべきか揉めている時に偶然とはいえ救援信号を送った。人に有害を与える魔物が皮肉にも結果的に人助けしている事になる…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ