62 はじめてのアシスタント
62 はじめてのアシスタント
学園の朝イチの朝礼。
そこで、あるものが教頭によって配られた。
教頭はタキシードにバンダナという、奇妙な取り合わせの格好で演説をはじめる。
「イエス! 居住区の整備が整ったところで、生徒のみなさんは、これから周辺探索を始めるざます!
しかし探索というのは、とても危険が伴う行為ざます!
いざというときのために、これを渡しておくざます!」
それは、手のひらサイズの赤い筒だった。
「いまみんなに渡したのは、信号用の花火ざます!
その頭の部分を上に向けて、お尻の部分を強く押すと、空に花火が打ち上がるざます!」
花火というのは連絡用の『信号』としても使われる。
空に打ち上げることさえできれば、遠くからでも見えるからな。
「しかしそれは連絡用の花火信号ではなくて、救難用の花火信号ざます!
花火が打ち上がると、その場所に救助隊が駆けつけるざます!
探索中に、自力では戻れなくなったときに使うといいざます!
ただし……!」
教頭はニヤリと笑って前置きして、いちばん後ろにいる俺をチラ見して続けた。
「救助隊に助けられた場合は、『保健室送り』と同じとみなされて、1ランクダウンするざます!
だから、よーく考えて使うざますよぉ!
ちなみにざますけど、この花火は打ち上げ式の仕掛け花火になっていて、誰が打ち上げたのかがすぐわかるようになってるざます!」
教頭は、説明のために持っていたサンプルの花火を掲げ、「ポチざます」と尻を押した。
すると花火はシュバッ! と火を吹いて光弾を射出する。
光弾は、ひゅるひゅると音をたてて天まであがり、やがて破裂した。
バーンと音をたてて小さな光弾をあたりに撒き散らし、文字を描きだす。
青い大空いっぱいに、
おねがいだから タスケテ! きょうとうセンセイに さからったボクがバカでした!
もうガクエンをやめますから タスケテくださいっ! レオピン
俺の前にいた生徒たちが、どっと爆笑する。
「うわぁ、打ち上げるとあんな文字が出るの!?」
「こりゃ恥ずかしいなぁ! あんなのを見られたら、学園に戻れねぇよ!」
「でも僕たちなら大丈夫だって! 落ちこぼれのゴミ野郎じゃあるまいし、探索中にヘマなんてしないよ!」
「そうそう! きっとこの次に打ち上げられるのも、同じ花火だろうぜ!」
とある生徒の放った一言を、教頭は「そのとおりざます!」と受け取る。
「この学園にいるみなさんは優秀ざますから、本来はこんなものは必要ないざます!
そのため、最初に使った生徒にはワンランクダウンだけじゃなくて、さらなるお仕置きがあるざます!
いままで渡した『賞金』を、全額没収とするざます!」
生徒たちから、「おお~っ!」と拍手と歓声が沸き起こる。
俺は素朴な疑問に行き当たっていた。
……賞金って、今まで俺以外に渡されたことがあったんだろうか?
でもまぁ、いいか。
俺は賞金なんて持ってても、使い道がないしな。
教頭は最後に、ある説明を付け足した。
『あ、念のために言っておくざますけど、他人の救難信号を勝手に打ち上げて、ランクダウンさせようとしてもムダざます!
不正を防止するために、打ち上がった花火の名前だけでなく、打ち上げた人の姿も魔導装置で確認しているざますからね!
それでイタズラでないと判断された場合にのみ、助けが来るざます!
あと、救助隊の規模と助けに来る速さは、打ち上げた生徒のランクによって変わるざます!
急いで助けに来てほしいときは、高ランクの生徒の救難信号を使うといいざます!』
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
朝礼が終わったあとの午前中の授業は、『全体科目』である『体育』だった。
ニックバッカ先生が、全校生徒を見回しながら言う。
「ミート! 今日は、クラス対抗で『特別なマラソン』をやる!
これはかなりハードなマラソンなので、参加できるのは限られた男子のみ!
しかし耐え抜くことができたら、大きな評点となるぞ!
各クラス、持久走の得意な男子を、必ずひとり選びだすのだ!
1年2組と19組は、女子のみのクラスとなるので、不参加でかまわない!」
俺はひとりぼっちのクラスなので、必然的に俺が参加するしかない。
選ばれた男子生徒に混ざると、ニックバッカ先生は長いロープを片手に続けた。
「では選ばれた者は、このロープを腰に巻き付けろ!
そして、みなで1本のロープで繋がって走るのだ!
なおこのロープには、『重量無視』の魔法効果が掛かっている!」
ニックバッカ先生は、さらにふたつのコルク栓を取り出す。
「そして参加者は全員、この耳栓をして、脇目も振らずに走るのだ!
そうしたら、どうなるかわかるか!?
遅れた者は容赦なくロープで引きずられ、泣いても喚いても先頭走者の耳には届かないというわけだ!
これぞ、自分がいた軍隊で行なわれていた『地獄マラソン』だっ!」
「ひえぇ~!」という悲鳴が、生徒たちの間でおこる。
俺は特にリアクションもせず、黙ってロープを腰に結び付けようとする。
すると、いつの間にかいた教頭に、「ノーッ!」と絡まれてしまう。
「待つざます! レオピンくんは、なんで体操着を着ていないざますか!?」
俺は正直に答えた。
「はぁ、入学式のときに貰えなかったので……」
「体操着を着ないなんて、なんたる不良生徒ざましょ!?
せめてそのばばっちいコートを脱いでから、体育の授業を受けるざます!
特別に、このわたくしめが預かっておいてあげるざます! ……永遠に……!」
教頭の最後の言葉は聞き取れなかったが、俺はなんとなく嫌な予感がした。
どうしようかと思っていると、背後からするりとコートを脱がされる。
「レオくん、コートはわたしたちがお預かりしておきますね!」
「お師匠様の大切なお召し物は、わたくしたちが命にかえてもお守りさせていただきます!」
ブルマ姿のモナカとコトネだった。
「きえええっ! そんなのダメざます! 聖女とミコが無職の世話をするだなんて、あってはならないざます!
しかも、そんなばばっちい服を……! いい子だから、こっちによこすざます!」
「いいえ、教頭先生! このコートは、わたしたちが預かります!
だって、わたしたちはレオくんのアシスタントなんですから!」
キッパリと言い切るモナカ。
いつのまに、そんな役目になったんだ。
「左様でございます! あしたんとです! あしたんとがお召し物を預かるのは、当然のつとめでございます!」
コトネは『アシスタント』が言えていなかった。
教頭は爆発寸前のような真っ赤な顔で、俺を睨み付けている。
「ぐっ……! ぎぎぎぎっ……! あ、アシスタント、ざますとぉ!?
美人アシスタントを付けるのが、わたくしめの夢で……!
教頭であるわたくしめどころか、あのブタですらも、いまだ叶えられていないざますのにっ……!
こっ、こんな、無職のクソガキにっ、2人もっ……!
ぐぎぎぎぎぎぎぎっ……ぎぎぎぎぎぃぃぃぃ~~~~~~っ!!」
そろそろ来るなと思った俺は、モナカとコトネの肩を抱いて、そそくさと教頭から避難する。
背後から、爆音のような奇声が轟いた。
「きっ……きぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
教頭のざまぁが足りない! というご意見を頂きましたので、61話のほうに大幅な加筆を行ないました!
そのため、61話の内容がそのまま62話にシフトしております。














