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60 チンピラと化した教頭

60 チンピラと化した教頭


 居住区の一角、1年16組の生徒たちが店を構える食堂の前は騒然となっていた。


「マジかよっ!? あのクルミとかいう子、『追放』されて喜んでるぞ!?」


「っていうか、ずっと『特別養成学級』に行きたがってたみたいだぞ!?」


「正気かよ!? なんであんな地獄みたいなところに……!?」


 その場にいる誰もが信じられないような顔をしていた。


 しかし偶然居合わせた、とあるふたりの少女だけは違っていた。

 この学園において誰よりも慕われている聖女とミコ、そのコンビだけは晴天の霹靂に打たれたように固まっている。


 両者とも「その手があったか……!」と顔に書いてあるような表情を、ありありと浮かべていた。

 そう、地獄に憧れる少女は、ひとりだけではなかったのだ……!


「レオピンシェフ……! いま、いきますっ……! 」


 追放を言い渡されたクルミは、すっかり吹っ切れた様子で、この場から駆け出そうとした。

 しかし怪鳥と化した教頭が、両手を翼のようにバタつかせて行く手を遮る。


「きっ……きえっきえっきえっ!

 きぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!

 い、いまの命令は取り消しざます! 『追放』は取り消しざます!

 クルミさんは、『1年16組』に残留ざますっ!

 わたくしめが言ったことは、ぜんぶナシざますぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 すると、バタバタさせていた手の先にあった、のこり1枚のクルミチケットが泡となって消えた。

 教頭は「ギャッ!?」と鉄砲で撃ち抜かれたように飛び上がる。


「ノーッ!? い、いまのは命令じゃないざます! 先に出した命令を取り消しただけざますっ!?」


 しかしいくら訴えたところで、チケットが戻ってくるはずもない。


「ギャアッ!? せっかく残ったもう1枚で、二度とあのゴミに近づかないように、命令しなおすはずだったざますのにっ!?

 きぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 バックアッププランを潰された教頭は、なにを思ったのか、『RPGキャンディ』の置かれている棚をガッと掴む。


「きえええっ! わたくしめが思っていたとおり、クルミさんはロクでもない不良生徒だったざます!

 邪悪なキャンディを売りさばいて、他の生徒に悪影響を与えているざます!

 今ここで、ぜんぶメチャクチャにしてやるざますっ!」


 クルミは泡を食って止めた。


「やっ、やめてください、教頭先生っ!」


「ノーッ! うるさいざます! 不良生徒は大っ嫌いざます! あっちにいくざます!」


「きゃっ!?」


 クルミは乱暴に突き飛ばされたが、とある女生徒のたくましい腕で受け止められる。

 続けざまに、教頭はドロボウ猫のように襟首を掴まれ、宙に浮きあがった。


 片手でクルミを抱いたまま、もう片手で教頭を吊り上げる。

 こんな芸当ができる女生徒は、ひとりしかいない。


 足をバタつかせながら、教頭は目を剥いた。


「と……トモエさんっ!? 不良生徒を助けるどころか、教師に暴力を振るうざますだなんて……!?」


 トモエは静かな眼光で、教頭をチラと睨む。


「暴力というのは、こういうことをいうのです! ……ふんっ!」


 トモエは荒い鼻息とともに、掴んでいた教頭を投げ捨てる。

 地面を転がった教頭は、親に初めて殴られた子供のようにトモエを見上げた。


「のっ、ノーッ!? コトネさんの付き人ともあろうキミが、なんてことをするざます!?」


「それは、こちらの言葉です! いまの教頭先生の言動は、教育者とは思えませぬ!

 いまのあなたは、見るに堪えない……これ以上、生き恥をさらす前に、消え去りなされませい!

 でなければ、それがしの斬岩剣で頭蓋を叩き割り、力ずくで正気に戻してみせましょうぞ!」


 生徒に一喝され、「ひいっ!?」とあとずさる教頭。

 しかしヤジ馬のクスクス笑いに、彼は蛮勇を振りかざした。


 土埃にまみれたタキシードの内ポケットから、わし掴みにしたチケットを取りだし、宙にバラ撒く。

 その券面には、問題児クラスといわれた1年15組の面々が描かれていた。


「イエス! ピラ三兄弟くん! ブゥードルくん! 出てくるざますっ!

 わたくしめに暴力を振るったトモエさんに、お灸を据えてやるざますっ!」


 チケットが泡と消えると、人混みをかきわけて4人の男が現れた。

 蛮族(バンディット)の格好をした彼らは、首にはコルセットをしていて、手は包帯で吊っている。


 実に痛々しい見目であったが、蛮勇にかけては教頭以上であった。


「ヒャッハー! まさか先公(せんこう)公認で、暴力が振るえるとはなぁ!」


「この女は以前、俺たちにイチャモンを付けてきやがったことがあるんだよなぁ!」


「女だからって、容赦しねぇぜぇ! ぎゃはははははは!」


「メスのクマを狩るってのも、なかなかオツかもしれねぇなぁ……!」


 チンピラたちは完全に教頭の手下と成り下がり、さっそくトモエを取り囲む。

 トモエはその場から動かず、厳しい視線でチンピラたちを眺め回していた。


「それがしは、降りかかる火の粉を払うような真似はせん」


「ひゃははははは! いまさら許してもらおうったって遅いぜぇ! 大勢の前で、たっぷり恥ずかしい目に……」


「降りかかる火の粉は、すべて叩き潰すっ……!」


 トモエはついに、斬岩剣を抜刀。


 ……シュランッ!


 その迫力は真剣さながらで、チンピラたちも「ううっ」と臆してしまうほどであった。

 マズい、と思った教頭は、まるでカードゲーム感覚で新しいチケットを取りだす。


「この瞬間、トモエさんのチケットを発動するざます!」


 思わぬカウンター攻撃に、トモエは「そ、それは、まさか……!?」と驚愕する。


「そうざます! トモエさんが、購買で木刀を買ったときに支払ったチケットざます!

 トモエさんへの命令は、反撃してはならないざます! メチャクチャにやられて、反省するざます!」


 モナカとコトネは真っ先に飛び出していこうとしたが、他の付き人たちによって押えられてしまう。


「やめてください、教頭先生!」「やめるのです、トモエさん!」


 ふたりの哀願は、観衆のざわめきにかき消されていた。


 トモエは静かにひざまずき、膝を揃えて地面に座る。

 傍らに愛剣を置き、ゆっくりと目を閉じた。


「武士にとって、もっとも大切なのは主君の(めい)。そして次に大切なのは、他者との盟約。

 教頭との盟約、今ここに果たそう。……好きにするがいい」


「ムホホホホホ! 小難しいことを言ってるざますけど、チケットの力には逆らえないざます!

 さぁ、たっぷり反省させてやるざます! 無抵抗だから、怖くないざます!」


 トモエが反撃してこないとわかるや、教頭は我先にと襲いかかる。

 チンピラたちもその後に続いた。


「ヒャッハーッ! やりたい放題だぜぇ!」


「「やっ……やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」」


 鳴り渡る、ふたりの少女の悲鳴。

 これには彼女たちだけでなく、クラスメイト全員がビクッ! と肩をすくめていた。


 おそるおそる目を開けてみると、そこには……。


 ……ドグワッ……シャァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーッ!!


 横薙ぎのフルスイングを受け、消し飛ぶように吹っ飛ぶ5匹のチンピラの姿が。

 彼らはそのまま、臨時の廃材置き場となっていたゴミの山に、頭から突っ込んでしまった。


「ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 衝撃で、積んであった廃材がガラガラと崩れてきて、悲鳴とともに生き埋めに。

 それは悲惨な有様であったが、クラスメイトはもう誰もチンピラたちを見ていない。


 いったい、誰がやったんだ……!?


 と、何気ない様子で立ち去ろうとする人物に注目する。

 やっぱり、()、であった……


「れっ……レオピィィィィィィィーーーーーーーンッ!?!?」


 その時レオピンは、丸太を肩に担いでクラスメイトたちに背を向けていた。

 しかし呼び声に反応し、「えっ?」と振り向く。


 少年はとぼけるような表情で、唖然とするクラスメイトと、埋もれて足だけ出している者たちを見回したあと、


「あっ、悪い悪い。なんか当たったと思ったら、チンピラだったのか。

 なんか、新しいのがひとり増えてるみたいだが……まあ、チンピラだよな」

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― 新着の感想 ―
[一言] 丸太「女に手を出そうなんて許せん!」 レオピン「あれ?なんか当たった?」
[一言] 「なんか当たったと思ったら」って絶対狙ってフルスイングしてるよねコレ!
2022/05/09 16:38 退会済み
管理
[一言] これ、ブラッドステインドのボスを入れたネタにしたらこうなるかも チンピラ共と教頭、ラバマンドラに焼かれる チンピラ共と教頭は、トモエに襲いかかった その時、どこかからかマグマが飛んできてチ…
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