53 陶芸家デビュー
53 陶芸家デビュー
次の日の朝。
俺は自分の身体の光で目が醒めた。
「まさか、寝ている間にレベルアップするとはな」
まだ早朝のようで、部屋はすこし薄暗い。
「このまま二度寝してもいいんだが……。今日は学校は休みなんだよな。
初めての休日だし、せっかく早起きしたから朝の散歩でもするか」
ベッドから出ようとしたが、ベッドの下ではトムが黒いクッションのように丸くなっていて、危うく踏んづけそうになる。
「ブラックパンサーは暗いところじゃ見えづらいから、気をつけないとな」
トムを跨ぎ越えて起きだし、伸びをしながら窓のほうに行ってみる。
すると庭には2箇所ほど、作動済みの落とし穴があった。
自力で這いだした跡があるから、おそらく引っかかったのは今回が初めてではないんだろう。
「でもレベルアップした理由は、だいたいわかった。ふぁ~あ」
アクビををしながらステータスウインドウを開いてみる。
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レオピン
職業 調教師
LV 13 ⇒ 14
HP 2010
MP 2010
ステータス
生命 201
持久 201
強靱 201
精神 201
抵抗 201
俊敏 201
集中 201
筋力 201
魔力 201
法力 201
知力 201
教養 201
五感 201
六感 201
魅力 1
幸運 2
器用 400 ⇒ 500
転職可能な職業
生産系
木こり
鑑定士
神羅大工
石工師
革職人
木工師
魔農夫
NEW! 陶芸家
探索系
レンジャー
トレジャーハンター
戦闘系
戦斧使い
ニンジャ
武道家
罠師
調教師
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「新しく増えた職業は『陶芸家』か。
陶芸なら、趣味で少しだけやったことがあったかな」
独り言をつぶやきながら家の外に出ると、門の外がやけに騒がしい。
マークが右往左往していた。
「どうしたマーク」
尋ねるとマークは、どうしていいかわからない様子で、足踏みしながら俺を見る。
持ち上げている両手には、黄金色のドロッとした液体がなみなみと注がれていた。
「もしかしてそれ、ハチミツか?」
「くおんくおん、くお~んっ!」
その鳴き方と仕草で、なんとなく事情はわかった。
どうやら大好物のハチミツ狩りをしたら、思いのほか大量に採れてしまったらしい。
マークは「こんなに食べきれないよ~!」といわんばかりに、くぉんくぉん鳴いていた。
「ちょっと待ってろ、木で入れ物を……」
そう言って、俺は思い直す。
「そうだ、ハチミツといえば、やっぱりアレだよな!」
俺はマークを残して森へと繰り出す。
もちろん、転職するのも忘れずに。
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レオピン
職業 調教師 ⇒ 陶芸家
職業スキル
土づくり
陶芸のための粘土を作ることができる
陶芸小物
皿やコップなどを作成する
陶芸中物
花瓶やツボなどを作成する
陶芸大物
石棺や風呂釜などを作成する
量産
陶器の乾燥と焼きにかかる時間を短縮する
陶器破壊
陶器に対する攻撃力が増加する
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陶芸家になったとたん、足元の土や石ころの種類が判別できるようになる。
ただの石といっても様々な種類があることに、俺は驚いた。
「森林石、緑土石、砂石……おっと、『黄鉄砂』見っけ。
こっちには、『グラニット石』もあるぞ」
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黄鉄砂
個数100
品質レベル1(素材レベル1)
岩石の鉄鉱物が分離し、砂状となったもの。
磁石にくっつく。
グラニット石
個数4
品質レベル2(素材レベル2)
火山岩の一種。硬くて火に強く、風化しにくい。
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「火山もないのに火山岩があるということは、昔はこのあたりに川でもあったのかな?
探せば近くに源流があるかもしれないな」
陶芸家になっただけで、この森の成り立ちにまで考えが及ぶ。
「おっと、そんなことよりも帰って作業だ。ちょうど材料も手に入ったしな」
俺は砂と石を抱えて家へと戻る。
そして、まだ右往左往しているマークに言った。
「ずっとそうしてるなら、この石を踏んづけて細かく砕いてくれ。たのんだぞ」
俺はマークの足元にグラニット石を置いて、作業開始。
「おっと、その前に『石工師』に転職しとこう」
そのへんに落ちている森林石を拾いあげ、石どうしを打ち合わせて形を整える。
できあがった石を積み上げて、俺が屈んで通れるくらいの、小さなアーチの門を作った。
「あとはまわりに森林土をかぶせて、隙間がないようにすれば……」
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森林の焼き窯
個数1
品質レベル21(素材レベル2+器用ボーナス5+職業ボーナス14)
森林石と森林土を組み合わせた簡素な焼き窯。
各種ボーナスにより、温度調整が容易となる。
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「よしできた! これで俺も陶芸家デビューできるぞ!」
焼き窯ができたところでマークの様子を伺うと、グラニット石を粉々にすり潰していてくれた。
やりだすとハマってしまったのか、手のハチミツも忘れて、足の爪でゴリゴリやっている。
「そのくらいでいいぞ、ありがとう、マーク!」
俺はマークの足元にしゃがみこみ、砂状になったグラニット石に、黄鉄砂を混ぜ合わせる。
あとはコートのポケットから取りだした水筒で、水を加えて混ぜ合わせれば……。
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グラニット粘土
個数40
品質レベル22(素材レベル3+器用ボーナス5+職業ボーナス14)
グラニット石に、黄鉄砂と水を加えて粘土状にしたもの。
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粘土は黄鉄砂を混ぜたことにより、黄土色になっている。
俺はその粘土を、平らな岩の上に乗せ、作業台がわりにして形を整えた。
粘土が半分ほど余ったので、同じものをもうひとつこしらえる。
「あとは、これを焼けば……!」
俺はワクワクしながら焼き窯に粘土を入れ、火を付けた薪を突っ込んだ。
本当は焼き時間は10時間くらい必要なのだが、『陶芸家』の『量産』スキルを使えば1分まで短縮できた。
待ちきれずに取りだした粘土は、バッチリ固まっていた。
しかも小さな太陽であるかのように、さんさんとした輝きを放っている。
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グラニット粘土のツボ(ハイクオリティ)
個数2
品質レベル52(素材レベル22+器用ボーナス6+職業ボーナス14+クオリティボーナス10)
グラニット粘土を焼き上げたもの。
黄鉄砂が変色した模様が入っている
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「まさかのハイクオリティ!?」
ツボは鮮やかな黄色をしており、側面の部分には、おそらく黄鉄砂が焦げて変色したのであろう、黒い蜂のような模様が入っていた。
「ハチミツ入れにはちょうどいいな」
俺はできたてのツボをマークのところに持っていく。
マークは大喜びで、ツボのなかにハチミツをトロトロと注いでいた。
その最中、ドタバタとした足音が近づいてくる。
見ると、例のデコボココンビだった。
「ごっ……ゴミ……! い、いや、レオピンくぅぅぅーーーーんっ!」
「は……ハイクオリティのツボを焼き上げたというのは、本当であるか!?」
「はぁ、見てたんですか?」
「とても偉い陶芸家の先生が、ぐうぜんにその瞬間をごらんになっていたざます!
もちろん見間違いだとは思うんざますけど、念のため……!」
「たとえ本当だったとしてもである!
キミのような落ちこぼれが焼いたツボなんかに、1¥の価値もないのはわかってるのである!
でもその先生は、ぜひ見てみたいとおっしゃっているのである!」
「だからこっちによこすざます! 悪いようにはしないざますよ! でもキミと同じでゴミだったら承知しないざます!」
「そうなのである! ツボが悪くない出来なのであれば、特別に、キミを『特別養成学級』という地獄から……」
俺は校長の言葉を「お断りします」と途中で遮った。
「ツボはマークのために焼いたものですから、他の人には渡せません。
マークが譲ってもいいと言うのであれば、話は別ですけど」
「「マーク?」」とハモるデコボココンビ。
ここでようやく、そばにクマがいることに気付いたようだ。
マークが「グオッ!」と吠えかかると、
「「ふっ……ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」」
ふたりはシッポに火を付けられた猫みたいに絶叫しながら、一目散に逃げ帰っていった。
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