51 まさかの自腹
51 まさかの自腹
時間は少し戻る。
場所は、『王立開拓学園』の校長室。
そこは開校して以来、ずっと暗く沈んだムードが漂っていたのだが、今日ばかりは笑い声が響いていた。
床には一面に『スレイブチケット』が敷き詰められ、座り込んだ校長と教頭が花畑の花のように散らしている。
「がっはっはっはっ! 生徒たちは湯水のようにチケットを使ってくれたのである! おかげで大儲けなのである!」
「イエス! これでほとんどの生徒たちは、わたくしどもの言いなりざます!」
しかし、ふと我に返り、ガックリと肩を落とす。
「でも……肝心のモナカくんとコトネくんのチケットは、手に入らなかったのである……」
「イエス、そうざますね……。あのふたりを、ばっちいゴミから遠ざけるのが本当の目的だったざますのに……」
校長と教頭は、事あるごとにモナカとコトネが喜びそうな商品を持っていき、購入をすすめていた。
しかしふたりの反応は、一貫してかわらなかった。
「すみません、先生。わたしのチケットは、使い道がすでに決まっております。その、レ……」
モナカは『レオくん』と言いかけて、口をつぐむ。
レオピンの名を出すと、教頭が発狂すると学習したためだ。
やんわりと断るモナカに対し、コトネはキッパリと言い切っていた。
「申し訳ございません。わたくしのチケットは、すべてお師匠様へのお月謝となるのでございます。
全納を申し出たのですが、断られてしまいましたので、やむなくわたくしが保管しているだけなのでございます」
その時のことを思いだし、校長は煮えくり返ったハラワタが飛び出さんばかりに立ち上がった。
八つ当たりするように、足元のチケットをこれでもかと踏みにじる。
「このっこのっ! こんなザコどものチケット、いくら集めたところで何の役にも立たないのである!」
「のっ、ノーッ! 校長、やめるざます! それでも購買部のおかげで、居住区の災害復旧はできたざます!」
「それが何だというのである!? すごいマイナスが、ただのマイナスに戻っただけでなのである!
だいいち、プロの職人を介入させるなど、他の開拓系の学校ではありえないことなのである!」
『王立開拓学園』は、他の開拓系の学園とは異なり、名家の子息や令嬢の生徒が多数在籍している。
ようはエリート揃いなので、多くの期待を集め、鳴り物入りで開校したという経緯があった。
しかしフタを開けてみれば、居住区すらマトモに作れないという体たらく。
校長と教頭の指導力について、ひたすら疑問視されているという状態であった。
怒りのおさまらぬ校長は、教頭にも八つ当たりした。
「それに、賞金授与のほうはどうなっているのである!?
とうとう支援者たちから、賞金を返せという声まであがりはじめたのである!」
「い、イエス! そ……そのことなら、ちゃんと考えているざます!
あのゴミが、到底ついてこられないような授業を見つけたざます!
その授業で、初めての賞金を授与するざます!」
「なに!? 体育も生産の授業もしてやられたのであるぞ!
あのゴミがついてこられない授業というのは、いったい何なのであるか!?」
「イエス! それは、『調教師』の授業ざます!
相手が動物なら、あのゴミも手も足も出ないざます!」
「おおっ、なるほど! 生徒たちから嫌われているあのゴミが、動物に好かれるはずはないのである!」
コンコン、とノックの音が割り込んでくる。
「誰であるか!?」と校長が怒鳴ると、金細工で飾られた扉がカチャリと開いた。
「失礼します。校長先生、教頭先生」
「なんだ、ヴァイスくんであるか! なんの用であるか!?」
「まさか、この前のことをまだ根に持っているざますか!?」
「いいえ。廊下の前を通りかかりましたら、なにやら楽しげなお話が聞こえてまいりましたので……。
その話、この僕にも協力させてください。
この賢者の僕に任せていただければ、あのゴミを自主退学にまで追い込んでみせましょう」
「なに、自主退学!? それは願ったり叶ったりなのである! なにか良い考えがあるのであるか!?」
「はい。僕は実家で『ブラック・パンサー』を飼っています。
それを実家から取り寄せて、『調教師』の授業で、あのゴミにけしかけてやれば……!」
開拓系の学園においては、保護者は支援してはいけない決まりになっていた。
支援者にも名を連ねることはできないとされている。
そのため、ヴァイスの提案は明らかなるルール違反。
本来ならば、校長と教頭は叱らなくてはいけない立場にあるのだが……。
ふたりは「「なっ……なるほどぉ!」」と感心しきり。
ヴァイスは「しめた」とばかりに眼鏡のレンズをキラリと輝かせる。
「では、僕から父上に伝書を手配し、ブラック・パンサーを手配してもらいます。
僕が返り咲くためだと言えば、父上も協力してくださるでしょう。
おふたりは外部にバレないようにそれを受け取って、どこかに隠しておいていただけますか?」
「うむ、それなら絶対にバレない秘密のルートがあるのである!」
「イエス! 受け取ったあとは教材用のペットということにしておいて、調教師の教室に隠しておくざます!」
「おおっ、木を隠すなら森の中というわけであるな!
すべては一分のスキもない、完璧な作戦なのである!
よぉしヴァイスくん、うまくいったら、キミを元のランクに戻してあげるのである!」
「よろしくお願いしますよ。賢者であるこの僕の知恵に、おふたりの力が合わされば……」
「今度こそ、今度こそ……! 今度こそ本当に、あのゴミは終わり……! イッヒッヒッヒッ……!」」
この悪だくみが超失敗に終わったのは、言うまでもない事だろう。
『夜の次には朝が来る』のと同じくらい、もはや当然のことと言えるかもしれない。
しかし彼らには、夜明けは来ない。
よってたかって賞金を奪われてしまった教頭が、沈みきった表情で校長室に戻ると……。
校長が革張りの椅子の上で、頭を押えて身悶えしていた。
「うわああっ!? たった今、教育委員会から通達があったのである!
我輩はワンランクダウンであると!」
ネコドラン校長 S+ ⇒ S
教頭は、「ええっ、それはどういうことざますか!?」と大袈裟に驚く。
「教育委員会が、ブラックパンサーの密輸を嗅ぎつけたのである!
絶対にバレないルートだったのに、なぜなのである!?
なぜなのであるかぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~っ!」
校長は混乱しきった様子で、書斎机にガンガンと頭を打ち付けている。
「ああ、おいたわしいざますねぇ」と、教頭は笑みがこぼれそうになるのを、尻をつねって必死にこらえていた。
そう、教頭は気付いていたのだ。
以前、『教頭のみがランクダウン』した一件において、校長が保身に走っていたことを。
そのため今回は意趣返しとして、教頭は作戦立案がなされた時点で、教育委員会に伝書を飛ばしていた。
『校長がヴァイスくんと共謀して、ペットを密輸しようとしているざます。
わたくしめは反対したんざますが、もしバラしたらお前をこの学園にいられなくすると、脅してきたんざます!』
教頭はほくそ笑む。
――こうしておけば、作戦に成功した場合は、ゴミを始末できたうえに、校長にも仕返しができるざます。
たとえ作戦が失敗したとしても、泥を被るのは校長とヴァイスくんだけですむざます。
どっちに転んでも、あのハゲにはツケを払ってもらうざます! ムホホホホホ……!
その悪だくみが、見事に火を吹いたというわけだ。
校長は教頭の頬が緩んでいるのに気付き、ジロリと睨みつけた。
「我輩のランクダウンが、そんなに嬉しいのであるか? だが、笑っている場合ではないのである。
あのゴミに賞金を渡したことで、支援者はカンカンなのである。
渡してしまった責任として、キミに全額負担せよと言ってきているのである。
そうしなければ今後、一切の支援を打ち切ると……!」
「きっ……きぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
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