48 最強の敵? 最強の味方!
48 最強の敵? 最強の味方!
調教師の卵たちは騒然となる。
「な、なんだ!? なにが起こったんだ……!?」
「俺の言うことが絶対のペットが……なんで、命令を無視して……!?」
「それも、よりにもよって無職のゴミの所に行くだなんて……!」
「見て、私たちのペット、みんな目がハートになっちゃってる!?」
「ウソだろ!? ペットの最大級の愛情表現じゃねぇか!」
「飼い主の俺にだって、見せたことがない顔してやがる……!?」
「ま、まさかアイツは、伝説の……!?」
俺は悪いことをしたかなと思い、急いで『魅力』を下げる。
同時に、教頭が血相を変えて飛んできた。
「きええええっ! はっ、離れるざます! ペットくんたち!
そんなばっちいのにくっついていたら、病気になってしまうざます!」
それでようやくペットたちは、飼い主の元へと戻っていく。
気付くと俺のそばにはドマンナ先生がいて、両手を広げて大感激していた。
「わ……ワンダホー!? こんなにドワーッって動物に好かれる生徒、初めて見たわ!
さっきのムチ打ちは帳消し! ご褒美として、最高のナデナデしてあげる!」
ドマンナ先生は、俺の頭を動物みたいにわしゃわしゃしてくる。
それだけならまだしも、胸の谷間を俺の顔に押しつけるようにして、強烈なハグしてきた。
俺は息ができなくなって、「むぎゅーっ!?」となってしまう。
「いーなー」という男子たちの声と、その男子を「サイテー」と睨む女子たち。
またしても顔色を変えた教頭が割り込んできた。
「や、やめるざます! ドマンナ先生! 生徒が見てるざます! それどころか、支援者の方々も……!」
しかしドマンナ先生は俺を窒息させたまま、悪びれるようすもなく言ってのける。
「えーっ、いーじゃないですか、教頭先生! だってこの子、天才です!
ぜったいに世界的な調教師になりますよ!
だから、このくらいのご褒美をあげても……!」
「そんなわけないざます! それに困るざます! 打ち合わせどおりにやってくれないと……!」
「はーい」
そこまで言われてようやく、ドマンナ先生はしぶしぶ俺を解放した。
教頭はドマンナ先生を引きつれ、教壇へと移動する。
「うぉっほん! 気を取り直して、授業の続きをするざます!
今日はペットバトルということざますから、特別に賞金を用意したざます!
ドマンナ先生が認められた生徒には、『ドマンナ先生のナデナデ賞』を差し上げるざます!」
賞金があると聞いて、生徒たちは「おおっ!」と歓声をあげる。
誰もが俄然やる気になったようだ。
しかし、ある女生徒がボソリと言った。
「さっき、レオピンくんがナデナデされてたような……」
「きっ、きえええっ! さっきのはノーカンざます! この賞は今から有効なんざます! 今から!」
「ハァイ、それじゃあみんな、外の『闘技場』にザーンと移動して!
トーナメント表があるから、その順番でジャジャーンと始めましょう!」
ドマンナ先生に導かれて、テントの別の出口から外に出る。
そこには、乾いた土を盛り上げて作ったリングのようなものがあった。
黒板にはトーナメント表が書かれていて、第1回戦は、『レオピン vs スペシャルゲスト』とある。
「それじゃあさっそく始めましょう! えっと、最初に戦うのは……。
レオピンくん! ドーンとリングの青コーナーにあがって!」
俺は流されるままに、リングにあがり、青い砂が敷いてあるエリアに入った。
「さぁて、それじゃレオピンくんのお相手を、ジャジャーンと紹介しましょう!
今日のためにこの授業に特別参加してくれた、賢者のヴァイスくんです!」
赤コーナーのそばにあった小さなテントから、ゆっくりとヴァイスが出てくる。
いったい誰が出てくるのかと思って期待していた俺は、ちょっと拍子抜けした。
「なんだ、お前か。しかしお前が調教師の能力もあったとは知らなかったよ」
ヴァイスはフッと笑う。
「僕は、キミとは違うのさ。職業も、ステータスも、家柄も、人気も、財産もなにもかもが。
そしてもちろん、ペットもね……!」
ヴァイスはキザな仕草で手をかざすと、「カモン、ブラックパンサー!」と叫んだ。
……バッ!
と黒い影がリングの上空に舞い上がり、空中でしなやかに回転しつつ着地。
その正体は、黒光りする毛艶の黒豹だった。
やたらと芝居がかった言い回しで、ヴァイスは言う。
「これは、この僕が森で見つけ、この僕が躾けた、この僕のペットだ」
「うおおっ!?」と生徒たちが沸き立つ。
「す、すげえ! ブラックパンサーだ! 動物系のペットの中でも、最強クラスのヤツじゃないか!」
「プロでもないと飼い慣らすのは難しいんだろ!? それを学生なのにやってのけるだなんて!」
「さ、さすが、賢者のヴァイス様っ……!」
ヴァイスは最近失態続きのようだったが、生徒たちは羨望のまなざしでヴァイスを見つめていた。
そして俺には憐れみの視線を投げかけてくる。
「ゴミ野郎、終わったな。ドブネズミとブラックパンサーじゃ、勝負にならねぇよ……」
「たしか『ペットバトル』じゃ、飼い主への攻撃もアリなんだよな?」
「あ~あ、かわいそうに……大怪我は避けられないだろうな。下手すると、死んじゃうんじゃないか?」
俺は手を挙げ、先生方に問う。
「あの、先生。俺も、自分のペットを呼んでもいいですか?」
「ムホホホホホ! もちろんいいざますよぉ! いるのであれば、好きなだけ呼ぶがいいざます!
でも、そうやって時間稼ぎをしようったってムダざますよぉ!」
俺はいちかばちか、賭けてみることにした。
コートのポケットの中で開栓した『つむじ声の薬』を1滴、指につけて舐める。
そして、その手をかざし、颯爽と叫んだ。
「カモンっ! マークっ!」
……しかしなにも起こらないので、あたりは爆笑に包まれた。
「ぎゃはははははは! カモン、マークだってよ!」
「いっちょ前に、賢者様の真似するだなんて!」
「それにマークってなんだよ! とっさに考えたペットの名前かぁ!」
「フッ、レオピン、キミの考えはわかっているよ。
次は『オオカミが来るぞ』とでも言うのかい?」
「ムホホホホホ! 来るのはシラケドリばかりざます! ムホホホホ……ホホ……ホ……ッ!?」
周囲から笑いが消し飛んだ。
なぜならば、誰もが聞いたからだ。感じたからだ。
あたりの空気を震わせ、地響きを巻き起こすほどの、圧倒的な気配を……!
……ドドドドドドドドドドドドドドドドドドォォォォォォォォーーーーーーーーッ!!
砂煙をあげ、あたりのテントをなぎ倒し、ヤツが来る。
それはさながら、土砂崩れが迫り来るような、すさまじい光景だった。
……ドバァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
テントをブチ破って現れたその巨躯に、俺以外のすべての者たちは震撼する。
「えっ……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
次回、ついにヴァイスと激突!
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