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44 はじめての仲間

44 はじめての仲間


 俺は一躍、森のトップアイドルとなってしまった。


 鳥たちはひっきりなしに顔に張り付いてきて、リスたちは身体に潜り込んでくる。

 ウサギたちは足元にまとわりつき、鹿やイノシシは顔をこすりつけてきた。


「ゆ、有名人ってのは、こんなに大変なものだったのか……!」


 動物たちの熱愛の煙幕の中から、俺は命からがら這い出る。

 大急ぎで『魅了』のステータスを1まで減らした。


 すると動物たちは、急に正気に戻る。

 まるで俺が有名人のそっくりさんだとわかったかのように、シラケた様子で森へと戻っていく。


「ふぅ……。まさかステータスを上げたらこんな目に遭うだなんて、思いもしなかった」


 今度は慎重に、ステータスを再配分。

 『魅力』を大幅に減らし、均等にポイントを分配してみた。


--------------------------------------------------


レオピン


 職業 調教師(テイマー)

 LV 13

 HP 1810 ⇒ 2010

 MP 1810 ⇒ 2010


 ステータス

  生命 1 ⇒ 201

  持久 1 ⇒ 201

  強靱 1 ⇒ 201

  精神 1 ⇒ 201

  抵抗 1 ⇒ 201

  俊敏 1 ⇒ 201

  集中 1 ⇒ 201

  筋力 1 ⇒ 201

  魔力 1 ⇒ 201

  法力 1 ⇒ 201

  知力 1 ⇒ 201

  教養 1 ⇒ 201

  五感 1 ⇒ 201

  六感 1 ⇒ 201

  魅力 3000 ⇒ 101

  幸運 2

  器用 300


--------------------------------------------------


「100ポイントくらいなら、もみくちゃにされることもないだろう」


 俺は気を取り直し、森の池へと行ってみることにする。

 池にはいつものように、水を飲む動物たちがいた。


 いつもなら俺が池に近づくと、動物たちは水を飲むのをやめて警戒する。

 しかし池のほとりにいた子鹿とウサギは、まるで飼い主が家に帰ってきたペットみたいに、弾む足取りで俺のところまでやってきた。


 しゃがみこんで撫でてみても、嫌がる様子はない。

 むしろ「もっと撫でて」といわんばかりに、手に頭をこすりつけてきた。


「かわいいなぁ。もう調教なんてしなくても……」


 と思ったが、俺は心を鬼にする。

 つぶらな瞳で俺を見上げている子鹿に向かって『調教』スキルを発動した。


「我がものとなれっ! 調教(テイミング)!」


 すると子鹿は雷鳴を聞いたかのように、ピクンと反応。

 頭から、ハートの形をした光を立ち上らせていた。


「うまくいったようだな。……お座り!」


 『動物使役』のスキルで命じてみると、子鹿はスッと膝を折って座り込んだ。

 「立て!」と言うとすぐさま立ち上がる。


「おお、えらいぞ! 回れ!」


 子鹿は芸を仕込まれた犬のように、俺の指の動きに合わせてクルクル回った。


「あはは、かわいいなぁ! よしよし!」


 顔を掴んでわしゃわしゃしてやると、子鹿は甘えるように「キューン」と鳴く。


「よーし、それじゃあ森を散歩しようか、ついてこい!」


 俺が歩き出すと、子鹿は親のあとを追うように、よちよちとついてきた。

 さらにその後ろには、ウサギたちがちょこちょこと列をなし、俺はまるで森の笛吹きのような気分になる。


 俺がスキップすると、子鹿とウサギたちもピョンピョン跳ねた。

 かわいくて嬉しくて、俺は前を見るのをすっかり忘れてしまう。


 気付くと目の前には大岩があって、俺はよける間もなくぶつかってしまった。


 ……もふっ!


 しかし感触は、岩にしては柔らかすぎた。

 不思議に思っていると、岩がずもも……! と膨れ上がる。


 それは、俺の身長の倍はありそうなクマだった。

 毛皮に覆われた巨体には、鮫のような瞳が光っている。


 ヤツの胸には大きな傷があり、俺は察した。


「コイツは……! この森の『ヌシ』だ……!」


 すぐさま飛び退こうとしたが、クマの動きは想像以上に素早かった。

 クマは刃物のような熊手で、俺の脇腹をガッと押える。


「し、しまった……!」


 と叫んだときには、俺の身体は高く高く持ち上げられていた。

 クマはすでに勝利したかのように、高くいなないた。


「ウォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!」


 それは、周囲の空気をビリビリと震わせるほどの重低音。


 俺はとっさに『器用な転職』を使い、ニンジャへの転職を試みる。

 同時に『器用な肉体』を使い、ステータスを振り分け、クマに対抗できるだけの力を手に入れようとしたのだが……。


 しかしいくらスキルを発動しても、効果が発動しなかった。


「な……なんでだ!? なんで『器用貧乏』のスキルが使えないんだ!?」


 原因はわからなかったが、まさに絶体絶命のピンチ。

 俺は足をバタつかせて暴れた。


「は、離せっ! このっ!」


 しかし当然、離してくれるはずもない。


 クマは目の高さ俺を降ろすと、グワッ! と口を開ける。

 俺の頭くらいなら、ひと飲みにしてしまいそうなほどの大口だった。


「このままじゃ、やられる……! こ、こうなったら……!」


 食われる瞬間に、ヤツの喉に、渾身の一撃をお見舞いしてやるっ……!


 俺は拳を振りかぶったが、またしてもヤツのほうが速かった。


「グオウッ!」


 咆哮とともに口が一気に近づいてきて、俺は反撃する間もなく、ヤツの攻撃をまともに顔面に受けてしまう。


 ……べろんっ!


 生あたたかく、しとどに濡れた舌攻撃を。


「うわっぷ!? し、舌!?」


 てっきり牙かと思ったのに!?

 そう思う間もなく、俺の顔はベロベロ舐められてしまう。


「うひゃあっ!? くすぐったい!」


 クマは顔をさらに近づけてきて、俺の顔に頬ずりしてきた。

 ひと擦りするたびに、「くぉん、くおん」と鳴いている。


「お、お前、もしかして……!?

 わ……我がものとなれっ! 調教(テイミング)!」


 俺はクマの毛を顔全体で感じながら、『調教』スキルを発動。

 ハートマークが浮かんだクマに「お……降ろせ!」と命じる。


 するとクマは名残惜しそうにしながらも、俺の身体を地面に降ろした。

 俺はそのまま、尻もちを付いてしまう。


「ふぅ。クマも『動物魅了』で飼い慣らせるんだな……。おかげで、助かった……」


 クマは俺をじっと見下ろし、「くぉーん」と人恋しそうに鳴いていた。


「わ、わかったわかった、そんな目で見るな。……座れ!」


 するとクマは俺の真似をするように尻もちをつく。

 それは、どすんと大きな音がするほどの動作だったが、ぬいぐるみのように大人しく座っている。


 大きな見た目のわりに愛らしい仕草だったので、俺は思わず吹き出してしまった。

 「家に来るか?」と尋ねると、クマは「くぉーん!」と熊手を挙げて喜んだ。


「よぉーし、それじゃあ今日から、お前は俺の仲間だ!」


「くぉーん!」


「なにか、名前を付けてやらないとな……。

 そうだ、『マーク』なんてどうだ?」


「くぉんくおん、くぉーん!」


「あはは、くすぐったいって!

 よぉし、マーク、家に戻るぞ!」


「くぉーん!」


 俺は『マーク』の肩に乗り、家路につく。

 ずっとひとりぼっちだった『特別養成学級』に、新たなる仲間が増えた瞬間だった。

次回、新たなる強敵が登場!?


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― 新着の感想 ―
[良い点] 命の危険を感じる程の愛情表現だったのねー 頭上高く持ち上げる愛情表現って何? 頭からかじられる危機を感じる、愛情表現が怖い! その後は可愛かったけど、ハラハラドキドキしましたよ。
[一言] 兎が可哀想 w
[良い点] なんでも出来るパーフェクトオールラウンダーと森の主のクマさんですか…やべえタッグができましたな
感想一覧
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