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42 岩をも断つ剣

42 岩をも断つ剣


 なんの前ぶれもなく降り注いだ、天からの雷。

 その威力はすさまじく、着弾点は隕石が降り注いだかのように大穴が開いていた。


 穴の中には、全身が黒焦げになった教頭と神羅大工たちが、プスプスと白煙をあげながら倒れている。

 その後ろで、彼らが建てていた家がドカンと爆散していた。


 ヤジ馬たちの間で悲鳴が駆け巡る。


「な、なんだ!? いきなり落雷がおこったぞ!?」


「まさか本当に、神様がお怒りになったの!?」


「でも今のはどう見ても、雷撃魔法じゃない! 神様が降らせた『裁きの雷』だ!」


 モナカは右往左往していた。


「た、大変です! 『裁きの雷』でのおケガは、聖女は癒すことができないのです!

 どなたか、治癒術師(ヒーラー)さんを……! 保健の先生を……!」


 あたりは大パニックに陥っていた。


 そんな中、頭上の暗雲が晴れゆく。

 雲間から、神が降ろしたハシゴのような光が現れ、俺の建てた家に降り注ぐ。


 光に照らされて輝きだす俺の家を、コトネは立ち尽くしたまま、ただただ見つめていた。


「か、神様が、お認めくださいました……!

 このお家は、まぎれもなく『ジンジャ』であると……!」


 コトネは震え声とともに膝をつくと、深く頭を垂れ、白魚のような指を合わせて祈りを捧げはじめる。

 俺はタンカで運ばれていく黒焦げ集団を横目で見ながら、コトネのそばまで行った。


「気に入ってくれたようだな」


 と声をかけると、コトネはハッと顔を上げる。


 俺はギョッとなった。

 なぜならば、彼女の黒目がちな瞳が、溺れんばかりにうるうると潤んでいたから。


 コトネは感極まった様子で、俺の胸に飛び込んできた。


「あ、ありがとうございます……! まさかお師匠様が、『ジンジャ』を建てられるほどのお方だったなんて……!」


「まあ、偶然みたいなもんさ。神様も機嫌が良かったんだろう」


 俺はモナカにしてやる時のクセで、ついコトネの頭を撫でてしまった。

 ツヤツヤの黒髪はしっとりした落ち着いた感触で、モナカのふわりとした髪とはまた違った良さがある。


 コトネは瞼を閉じ、されるがままになっていた。


「お師匠様の、お手々……。とっても、甘美なのでございます……」


 しかしすぐに我に返ると、シュバッと地面にひれ伏した。


「も、申し訳ございません! た、大変なご無礼を!」


「いや、別に気にすることは……」


「おいっ、レオピンっ!」


 背後からいきなり怒鳴りつけられる。

 見ると、コトネの付き人であるトモエだった。


 彼女は凜とした美しい顔を、いつもクワッと険しくしており、身体も大きいので下手な不良男子よりも迫力がある。

 長い黒髪をポニーテールに結わえており、装備はハカマに帯刀と、まさしく女武者と呼ぶにふさわしいいでたちであった。


 トモエは、コトネが土下座して顔を伏せているのをいいことに、俺の襟首を乱暴に掴んだ。


「お前に話がある! ちょっと、こっちへ来いっ!」


 トモエは片手で俺を持ち上げたまま、ドスドスと歩いて瓦礫の陰に引っ張り込む。

 襟首を掴んでいた手が胸倉に移り、俺はまたしても浮き上がった。


 トモエはすさまじい眼光で俺を睨み据えてくる。


「貴様っ、いったい何者だ……!?」


 俺は吊り下げられたまま答えた。


「知ってるだろう、ただの無職だよ」


「無職が『ジンジャ』を作れるわけがなかろう! 本当のことを話せ!」


「俺のスキルで、『神羅大工(セレス・カーペンター)』に転職したんだよ」


 俺は『器用貧乏』のスキルである、『器用な転職』については誰にも言わなかった。

 なぜならば、言われた側のリアクションがだいたい予想がついていたから。


「ウソをつくなら、もっとマシなウソをつけ!

 転職できるスキルなど、あるわけがないだろう!」


 トモエは俺を掴んだまま、ガクガク揺さぶる。


「貴様がコトネ様の前に現れてからというもの、コトネ様は貴様の話ばかりするようになった!

 それだけではない! 朝起きられたときと、夜お休みになられる前に、必ず貴様のいる家の方角に向かって土下座をするのだ!」


「なんだ、それを止めるように俺から言ってほしいのか?」


「違う! なぜ貴様のような馬の骨が、コトネ様の心を独り占めできるのだ!?

 コトネ様には立派な殿方が幾多も言い寄っているというのに、コトネ様は歯牙にもお掛けにならぬのだぞ!?」


「そんなこと、俺が知るかよ」


「そもそも貴様のような馬の骨が、コトネ様と言葉を交わすこと自体がありえんのだ!

 わかったら金輪際、コトネ様には近づくな!」


 トモエは俺を、ドン! と乱暴に突き放す。


「よいか! これは最後の警告だ!

 もし破ったら、それがしの剣が黙ってはおらんぞ!」


 と、腰をひねり、携えてある二本の剣を俺に見せつけてくる。

 一本は初期装備の竹刀で、もう一本は手作りっぽい木刀だった。


「おい、ちょっと待て。なんだその木刀は?」


 俺がいきなり腰に飛びついてきたので、トモエはビクッとなっていた。


「なっ!? この木刀は、購買で買ったもので……!」


「う~ん。購買って、こんなに質の悪いものを扱ってるのか」


 俺は瓦礫をあさりながら続ける。


「そんなんじゃ、作ったヤツも使ったヤツも、いつまで経ってもレベルアップしないだろうな」


「貴様、なにを言っている!? それに、なにをしている!?」


「いいからちょっと待ってろ。

 おっ、『オーガウッド』があった。ちょっと品質は劣るが、じゅうぶんだろう」


 俺はちょうどいい長さのオーガウッドを見つけたので、『オオイノシシの大ナイフ』で削る。

 トモエはまるで、名前のわからないうえに気持ちの悪い怪物に遭遇したかのように、俺に奇異の視線を投げかけていた。


「な、なんなのだ……本当になんなのだ、貴様は……!?」


「言ったろう、ただの無職だって。よしできた」


--------------------------------------------------


 オーガウッドの木刀

  個数1

  品質レベル19(素材レベル2+器用ボーナス5+職業ボーナス12)


  オーガウッドの木材を、削り出して作った木刀。

  各種ボーナスにより、従来の木刀より振りやすく、高い攻撃力がある。


--------------------------------------------------


 俺が「さぁ、使ってみろ」と差し出した『オーガウッドの木刀』を、トモエはおそるおそる手にする。

 東の剣術の構えを取ると、大上段から2~3回振り下ろした。


「な、なんという、振りやすさ……! まるで身体の一部のようだ……!」


 「そうだろう?」と俺が言うと、トモエは感心したのを恥じるように振り払う。


「ふ、振りやすいからなんだというのだ! 剣というのは、その威力こそが肝要なのだ!」


「そうか。んじゃ、試しにこの岩に振り下ろしてみろ」


 俺はちょうど目の前にあった、腰くらいの高さの岩を示す。

 トモエは「ハッ!」と笑った。


「貴様は木刀を、金槌かなにかと勘違いしているのか!? 岩は真剣でも弾かれる!

 こんな木刀なぞ、へし折れるだけだ!」


「そうか。んじゃ、へし折るつもりでやってみな」


 俺が挑発的に言うと、トモエは鼻息を荒くして大上段に構えた。


「貴様! それがしが、そのへんの女性(にょしょう)と同じように非力だと思っておるな!

 この程度の木切れなど、コトネ様に言い寄る(やから)の骨のように、数え切れぬほどへし折ってきたわ!」


 「ぬんっ!」と気合いとともに振り下された木刀は、見事に岩の中心を捉えていた。

 しかし、木刀は傷ひとつついていない。


 やがて、岩のほうにピシピシと亀裂が走る。

 バカンと音をたてて分かれた岩に、トモエは目を剥き出しにしていた。


「え……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 転職してるのにいつまでたっても自称無職。
[一言] また面倒な輩に絡まれたようだな。レオピンは。 ただでさえ教頭や校長やクラスメイトの大半で手がいっぱいだ。
[気になる点] Q:あなたが色々非常識なことができるのはなぜですか? A:①(常識の範囲内の回答)→そんな常識の範囲内の答えで非常識なことができないでしょうふざけないで。 A:②(非常識な回答)→そ…
感想一覧
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