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41 裁きの雷のゆくえ

41 裁きの雷のゆくえ


 コトネの1年19組のクラスは、モナカのクラスと同じくらい広い敷地が割り当てられている。

 おかげで家を建てる作業を2軒同時に進行しても、お互いぜんぜん邪魔にならない。


 神羅大工(セレス・カーペンター)たちは作業しながら、ときおり俺のほうを見て笑っていた。


「見ろよ、あの小僧、マジで俺たちとやりあうつもりだぜ」


「ひとりで建てられる家なんて、掘っ立て小屋くらいのもんだってのによ」


「コトネ様にいいところを見せたくて、できもしねぇことをやってるのさ」


 しかし彼らの表情は、すぐに硬直する。


「み、見ろよ……あの土台……!」


「あの小僧、基礎を作ってやがる!? まさか、マジモンの家を建てるつもりかよ!」


「しかも、とんでもねぇスピードだぞ!?」


「や、ヤツはひとりだってのに、なんで俺たちより作業が進んでるんだよ!?」


「おい、ボーッとしてんじゃねぇ! 急げ!」


 土台ができたところで、俺は少し手を休める。

 すると、待ってましたとばかりにモナカとコトネがサッと寄り添ってきた。


「おつかれさまです、レオくん! 汗をお拭きしますね!」


「ご苦労様でございます、お師匠様! お水をお持ちいたしました!」


 モナカは俺の顔を、白いハンカチでふきふき。

 コトネは水の入った木のコップに両手を添え、俺の口にあてがい、こくこく飲ませてくれる。


 その様子を見ていた神羅大工たちは、ショックのあまり運んでいた木材をガランと落としていた。


「う……うそだろ……? なんでコトネ様が、お世話をされてるんだ……?」


「それも、あんなに嬉しそうに……!?」


「おいっ、隣にいるのは聖女のモナカ様じゃないか!?」


「聖女様とミコ様、しかも名門の令嬢たちが、なんであんなガキに!?」


「あのガキ、いったい何者なんだ!?」


「チクショウ、うらやましぃぃぃぃ~~~~っ!!」


 いい歳をした大人たちが、作業そっちのけで地団駄を踏んでいる。

 そうこうしている間に、俺の家は完成した。


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 キノヒの家

  個数1

  品質レベル41(素材レベル24+器用ボーナス5+職業ボーナス12)


  高級かつ高品質であるキノヒの木材で作られた、広々とした平屋の家。

  各種ボーナスにより、地震・火事・腐食への耐性がある。

  香りが良く、住んでいるとリラックス効果が得られる。


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 できあがった家を見たコトネは、今にも昇天しそうなほどに恍惚としていた。


「ふ……ふわぁぁぁ……! お、お見事、ですっ……!」


 そしてモナカも我が事のように喜んでいる。

 両手を祈るように組んで、興奮気味にピョンピョン跳びはねていた。


「わあっ! すごいすごい! とってもすごいです!

 こんなに立派な家を建てるだなんて! レオくんはすごすぎます!」


 神羅大工たちは夢であってくれといわんばかりに、ほっぺたをつねっている。


「うそだ……! いくらなんでも、ありえねぇ……!」


「まだ学生のガキが、あんな立派な家を、たったひとりで作るだなんて……!」


「しかも、木材も設計も、外観も完璧じゃねぇか……!」


「俺たちじゃあんな家、逆立ちしたって無理だってのに……!」


 しかしまだ完成ではなかった。

 俺はひと息ついたあと、コトネに尋ねる。


「塀は最後に作るからいいとして、門は不要なんだよな?」


 夢から覚めやらぬ様子で答えるコトネ。


「は、はひ……。ミコの住まいは、普通の門を作ってはならないことに、なっておりますので……」


 聖女とミコの家には門がない。

 これは『来る者はどんな者でも拒まず』という慈愛の精神を示しているらしい。


 ちなみにではあるが、モナカの家に塀を立てたときに、同じ理由から門は作らなかった。


「じゃあ、普通の門がないぶん特別サービスといくか」


 俺は、塀に使うぶんの『キノヒの木材』をよけておいて、あまった分でクラフトを始める。

 といっても、そんなに難しいもんじゃない。


 まず、持ってきていたプランターを地面に並べ、下に石を敷いて空間を作る。

 プランターに水を張り、採っておいた『ハネズの花』を浮かべた。


 あとは、プランターの下に薪を突っ込んで火を付ける。

 プランターは『耐火』の性能があるから、燃えだしたりはしない。


 煮立つのを待つ間に、別の作業を進める。


 あまった『ギスの木材』のうち、4本を独特の形に削りあげる。

 そのパーツを見た時点で、ミコは目を丸くしていた。


「お師匠様、そちらは、もしかして……」


「そう、そのもしかして、だ」


 ちょうどプランターがグツグツいいだした。

 覗き込んでいたモナカが、「わぁ!」と華やいだ声をあげる。


「きれい……! お湯がとっても鮮やかな朱色になってます!」


「よし、こっちもいい頃合いだな」


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 ハネズの染料

  個数60

  品質レベル33(素材レベル16+器用ボーナス5+職業ボーナス12)


  ハネズの花を煮出して作った、朱色の染料。

  香り高く、穏やかな気持ちにさせる。


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 俺は削りあげた『ギスの木材』を『ハネズの染料』が入ったプランターに沈めた。

 「あの、レオくん。これはいったい、何をなさっているのですか?」とモナカ。


「これは『植物染色』といって、植物の色素を抽出して、他のものを染める技法なんだ」


 しばらく待って引き上げると、木材は見事な朱色に染まっていた。

 あとはこれを、組み上げれば……。


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 キノヒのトリイ

  個数1

  品質レベル74(素材レベル57+器用ボーナス5+職業ボーナス12)


  高級かつ高品質であるキノヒの木材を、高品質の染料で染め上げたトリイ。

  各種ボーナスにより、高い耐候性を誇る。

  香りが良く、そばにいる者を敬虔な気持ちにさせる。


--------------------------------------------------


 聖女が聖堂にいるように、ミコは『ジンジャ』という建物で暮らしている。

 ジンジャには『トリイ』という、独特の形をした門があるんだ。


 コトネは驚きのあまり、アゴが外れんばかりに口を開け、言葉を失っていた。

 そのかわりというわけではないだろうが、神羅大工たちが騒ぎ出す。


「このガキっ、トリイまで作りやがった! 完全に、調子に乗ってやがる!」


「おいガキっ! トリイを作った時点で、この建物は神殿とみなされるんだよ!」


「神殿を作っていいのは、俺たち神羅大工だけってのを知らねぇのかよ!」


「神がお怒りになるぞ! いや、神がお許しになっても、俺たちが許さねぇ!」


「こんなガキに立派な神殿を作られちゃ、俺たちの商売あがったりだ!

 おい野郎ども、このニセ神殿をブッ壊してやれっ!」


「イエス! 資格もないのに神殿を作るだなんて、神をも恐れぬ不良生徒ざます!

 メチャクチャにして、反省させてやるざます!」


 いつの間にか教頭が先頭に立って、大工道具の巨大な木槌を担いでいた。

 教頭と神羅大工たちは、俺の作った家に、雄叫びとともに向かってくる。


 しかし突如、曇り空が明滅し、


 ……どんがらがっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!!!


 天から降り注いだ豪雷が、襲い来る男たちを裁くように打ち据えていた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 最上位職業とは。プロとは。器用貧乏とは。 本物には勝てないから貧乏なのでは。
[良い点] うん、知ってた。 [気になる点] きっと、見習いか低レベルしか居ない。 [一言] 更に光が挿したりするはずさー。 虹とか。
[一言] 途中から、手を止めてレオピンの家にいちゃもんつけていたみたいだけど、自分達は、家を完成させたのかよ、家も作らず相手の家を壊しに行こうとすれば、そりゃ神も雷落とすわな
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