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40 天覧勝負のはじまり

40 天覧勝負のはじまり


 『神羅大工(セレス・カーペンター)』というのは、最上級ランクの『大工(カーペンター)』のこと。

 スキルは大きくは違わないが、彼らが手がけた建物には神秘の力が宿るという。


 神々を祀る『聖堂』や『神殿』は、神羅大工でないと建ててはいけないという決まりがあるくらいだ。

 大工としての技量だけでなく、『法力』パラメーターの高さも求められるので、生産職の中でもエリートとされている。


 それに転職できるのは、かなりすごいことだ。

 でも俺はしばらく考えを巡らせたあと、部屋のベッドにゴロンと横になった。


「でも今は、特に使い道はないよな……。

 俺は神様をあんまり信じてないから、この拠点を神殿に改築してもしょうがないだろうし……」


 いつもなら俺は新しい職業が手に入るとすぐに試してみるのだが、『神羅大工』だけはその気になれなかった。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 それから、同級生たちの居住区は急速に発展を遂げた。

 今までは瓦礫の撤去すらままならなかったのに、開拓地らしい木の家が建ち並ぶようになったんだ。


 なぜかというと学園に『購買部』が開設したから。

 そこは、いろんな品物がチケットと交換できる施設で、教頭が店長となって店を切り盛りしていた。


「イエス! いらっしゃいざます!

 飲めばたちまちレベルアップする、『レベルアップポーション』はいかがざますか!?

 最大でレベル5までレベルアップできるざます!

 今日は開店セールで、ひとつ200万(エンダー)ざます!」


 目玉商品だった『レベルアップポーション』は、多くの生徒たちが買い求め、即日完売。


「それでは次の目玉商品、いくざます!

 プロの業者が瓦礫をあっという間に片付けてくれる、『瓦礫の撤去』が300万(エンダー)ざます!

 同じくプロがやってくれる、『家の建築』は700万(エンダー)ざますよ!」


 なんと、商品のなかには外部の業者を呼び寄せられるものまであった。

 かなりのボッタクリ価格ではあるものの、チケットさえ払えば、自分の手を一切汚さずにプロにやってもらえるのだ。


 チケットに余裕のあるクラスはすぐさま飛びつき、『瓦礫の撤去』と『家の建築』をセットで購入する。


 低ランクのクラスは、チケットの額面が低く設定されているので手が出ない。

 敷地は相変わらず、瓦礫に埋もれたままとなっていた。


 そのため、居住区は貧富の差が大きく開いた土地となっていく。


 そんな折、モナカとコトネが俺の家を訪ねてきた。

 コトネは切羽つまったような表情で、俺に言う。


「あの、お師匠様……。こんなことをお願いするのは、とても心苦しいのですが……」


「なんだ? 言うだけ言ってみろよ」


「わたくしのクラスに、お家を建てていただきたいのです……」


 聞くと、コトネのクラスはあの災害以来、モナカの家に厄介になっているという。


「レオくん。コトネさんのクラスと一緒に住むのは、わたしはぜんぜん構わなかったんです。

 でも、教頭先生がお見えになって……」


『ノーッ! コトネさんのクラスも、そろそろ自分の敷地で暮らすざます!

 でないと、他の生徒たちにしめしがつかないざます!

 コトネさんほどの生徒であれば、立派な家が必要ざます!

 でも心配いらないざます! わたくしがちゃーんと考えているざます!』


 教頭はそう言って、コトネが断る間もなくプロの『神羅大工』を連れてきたという。


『イエス! この腕のいい大工に任せれば、ミコのコトネさんが住むのにふさわしい、立派なお家を建ててくれるざます!

 さぁさぁ、チケットをよこすざます!』


 コトネはその時のことを思いだしたのか、きゅっと拳を握りしめながら俺に言う。


「わたくしのチケットは、すべてお師匠様にお捧げしたいのでございます……」


「なるほど、それで俺に家を建ててほしいって頼みに来たんだな。

 っていうか、そういうことならもっと早く言ってくれよ」


「えっ?」


「改まってお願いしてくるもんだから、何かと思ったら……。

 クラフトなら、頼まなくたってやってやる」


 するとふたりの少女は、「「わあっ!」」と手を取り合って喜んでいた。


「よかったね、コトネさん!」「はい、ありがとうございます!」


「それじゃ、さっそくやるとするか。

 あ、その前に、建材を運ばなくちゃならんから、人手を貸してくれるか?」


 俺は、モナカとコトネが人手を調達している間に森に入る。

 以前、モナカのために建てた家に負けないくらいのものを作るために、最高の木を選んで伐採した。


 ついでに、今回のクラフトに使えそうな花も摘んでおく。


--------------------------------------------------


 キノヒの木材(大)

  個数100

  品質レベル24(素材レベル8+器用ボーナス5+職業ボーナス11)


  美しく光沢のある白さの木材。

  各種ボーナスにより、湿気に強く、また香りにはリラックス効果があり、敬虔な気持ちにさせる。



 ハネズの花

  個数20

  品質レベル16(素材レベル2+器用ボーナス5+職業ボーナス9)


  美しい朱色の花。香り高く、穏やかな気持ちにさせる。


--------------------------------------------------


 集めたものを荷車に乗せ、あとは庭に置いてある『ギスのプランター』を積み込む。

 それを、コトネの付き人で、力もちのトモエといっしょに居住区へと運ぶ。


 コトネがリーダーをつとめる1年19組の敷地には教頭がいて、すでに数人の神羅大工たちが作業を始めていた。

 抗議するコトネに向かって、教頭はせせら笑う。


「ムホホホホ! そんな無職の生徒を連れてきて、いったい何をするつもりざますか!?」


「わたくしは、お師匠様にお家を作っていただきたかったのです! いますぐ作業を中止して……!」


「ノーッ! なら勝手にするがいいざます!

 ただし神羅大工たちが作るものよりショボかったら、即刻叩き潰してやるざます!」


 俺はそんなやりとりを気にもとめず、敷地の空きスペースに線を引っ張り、基礎工事をはじめる。

 すると、神羅大工たちまでもが絡んできた。


「おいボウズ、なにやってんだ!?」


「まさか、テメーもコトネ様のお住まいを作ろうってんじゃねぇだろうな!?」


「いいかボウズ、よく聞け! 俺たち神羅大工ってのはな、ただの大工じゃねぇんだよ!

 その隣で別の家を建てるのが、どういうことかわかってんのかよ!?」


「それは『天覧勝負』っていって、天の神様が裁きを下す、命懸けの真剣勝負になるんだ!

 見ろ、空を! さっきまで晴れてたのに、急に曇りだしやがった!」


「これはな、『天覧勝負』が始まったことを意味するんだ!

 勝負で負けたほうの家と職人は、カミナリに撃たれちまうんだよ!」


「テメーみてぇなド素人とやったところで、勝負は見えてる!

 黒焦げにならねぇうちに、止めて帰んな!」


 俺は作業に集中していたので、彼らの言うことがほとんど耳に入っていなかった。

 「ん? なにか言ったか?」と返すと、彼らはなぜか、髪の毛を逆立てていた。


「こ……この野郎、ふざけやがってぇ! 俺たちプロの大工、しかも神羅大工にケンカを売ってやがる!」


「それどころか、たったひとりで俺たちと勝負しようだなんて、完全にナメきってるだろ!」


「どうやら命が惜しくないらしいな! 野郎ども、かまわねぇ! プロの仕事ってやつを、このガキに思い知らせてやるんだ!」


 「おおーっ!」と威勢よく建築を再開する職人たち。

 俺は彼らの背中を見送りながら、ひとりつぶやく。


「なんだかよくわからないけど、やる気になってくれてよかった。

 クラフトってのは一生懸命やったほうが楽しいし、いいものができるからな」

次回、神羅大工の真価が炸裂します!


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 器用貧乏なんてぶっ壊れたもん貰っといて神を信じていないだとぉ、、、、 今のところ、器用貧乏の貧乏たるゆえんが分からん
[良い点] 楽しく読ませてもらっています [気になる点] 毎回おもうのですが、高級(?)なものを作るときくらいは器用の値を上げてみてはどうでしょう? もう言っている人もいるかもしれませんがご検討をよろ…
[良い点] レベルアップポーションなんか小さなデメリットありそう
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