38 器用貧乏、大金持ち
38 器用貧乏、大金持ち
モナカとコトネのふたりは、いきなり全財産を俺に投げ打ってきた。
差し出された冊子から覗く、ふたつのゴールドチケット。
どちらも黄金色に輝いており、ふたりの美少女の横顔が描かれている。
しかしそれ以上に驚いたのは、そのゼロの多さ。
パッと見で数え切れないほどの『0』が連なっていたんだ。
いくつもの意味で、俺は困惑した。
「いや、さすがに受け取るわけには……」
「きぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
もはや風物詩になりつつある奇声が割り込んできた。
「ノーッ! そんなのダメざます! 『特別養成学級』のゴミ……じゃなかった生徒に、チケットをあげるだなんて!」
モナカとコトネはパッと顔をあげ、憤然と抗議する。
「どうしてですか、教頭先生!? わたしはレオくんにいつもお世話になっているんです!
感謝の気持ちを表すのに使ってもよいと、おっしゃっていたではありませんか!」
「左様でございます! わたくしもお師匠様には、常日頃からご指導を賜っております!
それは言葉では言い尽くせないほどの、圧倒的な感謝なのでございます!」
「の……ノーッ! 感謝というのは、目下の者が目上のものにすることざます!
キミたちふたりは、レオピンくんよりずっとずっと偉いざます!」
「そんなことありません! レオくんはわたしなんかより、ずっとすごい方です!」
「左様でございます! このような立派な殿方は、お師匠様をおいて他にはおられないのでございます!」
「と……とにかく、ダメったらダメざます!」
しかし、モナカとコトネはしつこく食い下がった。
「では、お礼ということならよいですよね!?
レオくんは、わたしのために立派なお家を建ててくださいました!」
「わたくしはお師匠様に師事しております!
そのお月謝として、この券を差し上げるのであれば、なんらおかしくはございませんよね!?」
「ぐっ……! ぐぬぬぬっ……!」
教頭はたじろいいでいた。
『家の購入代金』と『月謝』であれば、普通の商取引である。
それを否定してしまうと、チケット自体を否定することにもなりかねないからだろう。
教頭は2匹の蛇に睨まれたカエルのように、脂汗をダラダラ垂らしていた。
やがて、腸が捻れたような声を絞り出す。
「ぐっ……ぐぎぎぎぎっ……! な、なら、最低額面のチケット、一枚だけなら、あげてもいいざます……!」
「「ありがとうございます!」」と喜びいっぱいのモナカとコトネ。
しかし、この采配は悪く無いんじゃないかと俺も思った。
さすがに冊子丸ごとじゃ気が引けるけど、最低額面のチケット一枚くらいなら、たいした額じゃないだろうしな。
しかしそれは大きな間違いだった。
ふたりが嬉々として冊子から切り離し、丁寧に両手を添えて差し出してきた紙幣。
その額面を見て、俺は目玉が飛び出しそうになった。
「いっ……いっせんまんっ!?」
そう、『10,000,000』……! ゼロが7つ……!
ヤジ馬と化していた生徒たちが「えええっ!?」と驚愕した。
「ええっ、うっそぉ!? 最低額面で!?」
「マジかよ!? 俺なんていちばん高額なチケットでも、1万¥なのに!?」
「いや、でも彼女たちに命令できるのなら、そのくらい安いもんかもしれないぞ!」
「すげえっ! さ、さすが聖女とミコの名門のお嬢様!」
俺は、合計2千万¥を受け取ろうか迷った。
しかしふたりの少女は、期待にキラキラした上目遣いで俺を見ている。
……まあ、もらっても使わなきゃいいだけだし……。
彼女たちもそれで納得するのなら、大人しくもらっておくか……。
俺は両手を出し、2枚の紙幣を同時に手中におさめる。
それは軽い紙幣のはずなのに、彼女たちの身も心も詰まっているかのような、不思議な重さがあった。
今になって教頭が、「ギャアッ!?」と足を踏んづけられたような声を出した。
「や、やっぱり今のナシざます! ゴミが最初に受け取ったら、大変なことになっちゃうざます!」
しかしそれはもう手遅れのようだった。
ステージ上にあるランキングボードから、カタカタと音がしたかと思うと……。
「きぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?
やめてとめて、やめてぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーっ!!!!」
教頭は死にそうな顔でステージへと駆け戻る。
ランキングボードを破壊しようと、近くにあった椅子を持ち上げた瞬間、
1位 特別養成学級 20,000,000¥
ランキングボードにガタン! とひとりぼっちのクラスがランクイン。
「きぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
奇声のバーゲンセールと化した教頭は、そのまま椅子を振り下ろしてボードを強打。
結果をなきものにしようとした。
狂った瞳のまま、「ざますぅーっ!」と再び椅子を振り上げる。
生徒たちは潮が引くようにステージからあとずさり、教頭は周囲にいた教師たちから取り押さえられていた。
「お、落ち着いてください教頭! この『魔導ボード』は、宮廷の魔導研究所から借りたものであります!」
体育教師のニックバッカから、パァンとビンタされ、教頭は我に返る。
全校生徒が見ている前だというのに、とうとう泣き崩れていた。
「うっ……! うううっ! 今度こそ、今度こそ賞をあげられると思ったざますのに……!
あのゴミのチケットを0にしておけば、流通のカヤの外だと思っていたざますのに……!」
ふと、ランキングボードがまたカタカタ鳴りだして、ランキングが更新された。
1位 特別養成学級 21,000,000¥
気付くと俺のコートのポケットに、3枚目のチケットが入っていた。
額面は『1,000,000』。ゼロが6つ。
肖像画は、ウインクしているアケミだった。
見ると、アケミはそしらぬ顔をしている。
「んふっ。私のチケットは、紙幣じゃなくて風なの。
気ままに吹かれて、行きたいところに行く。ただそれだけのことよ」
いつの間にか俺の目の前では、また別のチケットがヒラヒラしていた。
木の枝にツルで作った釣り竿のようなものに、チケットがぶら下げられている。
その先を目で追うと、釣り糸を垂らしているシノブコがいた。
「にんにん、うりうり。取れるものなら取って……」
シノブコはチケットで、ペタペタと俺の顔をなぶる。
俺は払いのけるような手つきで、シュパッ! とチケットをかっさらった。
そのあまりの速さに、シノブコは「にんっ!?」と目を点にする。
1位 特別養成学級 21,100,000¥
額面は『100,000』。ゼロが5つ。
肖像画は、ジト目のシノブコ。
俺はそれまで所持金ゼロだったし、チケットの価値もゼロだったのだが……。
朝礼の時間だけで、一瞬にして全校いちの大金持ちになってしまった。
次回、またまたざまぁです!
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