37 スレイブチケット
37 スレイブチケット
瓦礫の撤去作業はまだぜんぜん終わっていないようだったので、学園は臨時休校となる。
しかし連絡事項を伝えるため、朝礼だけは毎朝、校庭で行なわれることとになった。
その初日となった今日、ステージに立った教頭から、さっそくある発表がなされる。
「イエス! いまからみなさんに、特別なチケットを配るざます!
表紙に自分の名前が記されているチケットを、受け取るざます!」
そう言って、生徒たちの列の前のほうから、なにかが配られはじめる。
しかし列の最後尾、集団から外れて立たされている俺の所には回ってこなかった。
教頭は、チケットのサンプルを掲げながら続ける。
それは冊子状で、中には切り取り線の入った紙幣のようなものが束になっていた。
「これは『スレイブチケット』と呼ばれる、開拓系の学園で流通しているものざます!」
『スレイブチケット』……聞いたことがある。
開拓系の学園では、開拓が進むと通貨がやりとりされるようになるのだが、その一種のようなものらしい。
これは通常の通貨と同じように、額面が設定されているのだが、それはあくまで価値の目安にすぎない。
使い方としては、『1枚で1回分』となる。
なんの1回分になるのかというと……。
「簡単に言うとこのチケットは、『なんでも言うことを聞く券』ざます!
たとえば、なにか欲しい物があったときに、物々交換のかわりに、このチケットを相手に渡すざます!
そしてこのチケットを使ってお願いされたことは、従わなくちゃダメざます!」
そう、自分の肖像が描かれたチケットを渡した時点で、相手に1回分の命令権を渡したことになる。
しかしこのチケットには強制力はないので、命令されたことを断ってもかまわない。
そうするとどうなるかというと、ペナルティとしてチケットの価値が低下し、額面が下がる。
命令を断わり続けていると、やがては紙クズ同然になるというわけだ。
命令されたことをちゃんと遂行していれば、チケットの価値は維持される。
通貨のかわりとして使い続けることができるんだ。
「もちろん、命令については法律はもちろんのこと、校則違反になるようなことは不可ざます!
そんな命令をした時点で、チケットは無効となってしまうざます!」
使いようによっては便利なのだろうが、実際に使うのにはかなり心理的な抵抗があるだろう。
たった1回とはいえ、相手の要求をなんでも聞かないといけないのだから。
実際、他の開拓系の学園においても、チケットは滅多なことではやりとりされないらしい。
説明を終えた教頭は、手にしていたチケットつづりを見て、わざとらしく驚いた。
「ノーッ! 説明に使っていたこのチケットは、『特別養成学級』の生徒のものだったざます!
ゴミ同然だったざますから、説明のためにちょっと借りておいたざます!」
教頭は俺めがけて、ぽーいと冊子を放り投げる。
俺のチケットは生徒たちの頭上を飛んでいたのだが、見上げていた生徒たちから失笑が起こった。
「見て! あのチケット!」
「うわっ、額面が0だよ! いきなり紙クズじゃねぇか!」
「そりゃそうだろ! 『特別養成学級』のゴミ野郎のチケットなんて、誰もいらねぇからな!」
「あれじゃ、ケツ拭く紙にもなりゃしねぇよ! ぎゃははははは!」
バサリと足元に落ちた冊子を、俺は拾いあげる。
砂埃にまみれたチケットには、ひとつの『0』と、悪意に満ちた俺の肖像画があった。
「イエス! 今日からさっそくこのチケットを使って、みんなで取引するといいざます!
もちろん取引じゃなくても、日頃の感謝の気持ちを表すのにも使えるざますねぇ!」
教頭は何かを思い出したように、「あっ」と言葉を挟みつつ、指をパチンと鳴らした。
「もうひとつ、みなさんにお知らせがあるざます!
チケットの解禁と同時に、新しい評価軸が導入されるざます!」
ステージの背後に、紫色の布がかけられた板のようなものが運び込まれてくる。
布が取り払われると、それは『資産ランキング』と表題のあるランキングボードだった。
しかし表題だけで、1位も2位も3位もすべて空欄。
今のところランクインしているクラスはない、ということだ。
「この『資産ランキング』は、各クラスの総資産を順位付けしたものざます!
先ほど配ったチケットも資産なんざますが、本人やクラスメイトのチケットはカウント外としているざます!」
ようは他のクラスの人間から貰ったチケットのみが、資産としてカウントされるんだろう。
「そうしないと、現時点で評価額のもっとも高い、1年11組が不動のトップとなってしまうざますからね!
チケットについては、流通したチケットのみが資産としてカウントされるざます!
いろいろ取引を持ちかけて、ガンガンチケットを獲得するざます!」
教頭は嬉々として、懐から目録を取りだした。
「その促進として、最初に資産を獲得してランク入りしたクラスには、『初めてのチケットで賞』をあげるざます!
資産をさらに1千万¥増やすチャンスざます!」
「おおーっ!」生徒たちの間から、歓声が沸き起こる。
「さらに、前回の災害で大活躍したモナカさんとコトネさんは特別に、黄金の箔押しをしたチケットになっているざます!
こちらのゴールドチケットを最初に手に入れた生徒には、『初めてのゴールドチケットで賞』をあげるざます!」
教頭のその言葉に、生徒たちはざわめいた。
「すげえ、ゴールドチケットだってよ!」
「そりゃ、あのふたりなら当然だろ!」
「額面もすげぇんだろうなぁ!」
「そりゃそうだろ! あのふたりに命令できるなら、いくらでも払うヤツが大勢いるだろうからな!」
「でもあのふたりって、そもそもチケット使わなくても、なんでも願いが叶うんじゃない?」
「そうだよなぁ、あのふたりがチケットを使うとしたら、感謝の気持ちとしてだろうな!」
「うわぁ、あのふたりからチケットをもらえる人って、どんな人なのかな!?」
「以前だったらヴァイス様だったけど、あの人はもうイケてないから、やっぱり勇者様でしょ!」
「さぁさぁ、おしゃべりはそのくらいにするざます!
朝礼はこれにて終わり、解散ざます! みんな、復旧作業の続きをするざます!」
教頭がパンパンと手を叩くと、それをスタートの合図にするかのように、生徒たちの列からふたつの人影が飛び出してきた。
その人影は、長い髪を風で膨らませるほどの勢いで走り、俺の元へとやってくる。
ふたりの少女は、俺が何事かと尋ねるより早く、チケットを冊子ごと差し出してきた。
「お願いします、レオくん! わたしのチケット、ぜんぶもらってください!」
「お願いでございます、お師匠様! わたくしのすべてを、ぜひお師匠様に役立てていただきたいのでございます!」
ふたりは紅潮しきった顔で、一気にまくしたてる。
そしてチケットを突き出したまま、同時にサッと顔を伏せた。
それはまるで、同時告白。
それはまるで、究極の選択。
散り散りになろうとしていた生徒たちが、再びひとつになったかのように声を揃えた。
「えっ……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
このお話が、日間総合ランキングで1位になりました!
今は2位になっておりますが、総合で1位になったのは初めてですので、とても嬉しいです!
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