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28 愛弟子とグリーンオニオン

28 愛弟子とグリーンオニオン


 俺は断るつもりだったのだが、コトネの瞳はもう、尊敬する師への眼差しに変わっていた。


「お師匠様。それで、お月謝(げっしゃ)のほうは、いかほどお支払いすればよろしいのでしょうか?」


「月謝ってアドバイス料のことか?」


 俺は「いらないよ」と即答しかけて、はたと思い直す。


「ならその分、モナカと仲良くしてやってくれるか?」


 すると、コトネはかわいく首を傾げる。


「モナカ様……? 1年2組の代表の方のことでございますか?」


「そうだ。アイツは名門の聖女だから、クラスメイトも気を使って遠慮してるみたいなんだ。

 同じお嬢様なら気兼ねなく話せると思うから、仲良くしてやってほしいんだ」


 コトネは感慨深げに溜息をつく。


「わたくしにそんなことをおっしゃったのは、お師匠様が初めてなのでございます……。

 モナカ様とわたくしは、聖女とミコの関係。

 クラスメイトの方々は、同じ退魔の家柄として比較し、対立を促すばかりでしたのに……」


「なんだかよくわからんが、同じ退魔の家柄なら、仲良くしたほうがいいだろうに。

 もちろん無理強いはしないが、気が向いたらモナカと話でもしてみてくれないか?」


「承知いたしました。お師匠様のお言いつけとあらば」


「いや、お言いつけってわけじゃ……」


「コトネさまぁーーーーーーーーっ!!」


 いきなり、雄叫びが割り込んできた。


 見ると、茂みを破るほどの勢いで、大柄な女生徒がこっちに向かって突進してきている。

 見た目からしていかにも武人のようなナリで、イノシシのような目で俺を睨んでいた。


「この、狼藉者め! コトネ様を土下座させるとは、どういう了見だ!?

 そこへなおれっ! いますぐ手打ちに……!」


 間違いなくコトネの付き人だろう。

 いかにも話が通じなさそうだったので、俺は逃げることにした。


「コトネ、お前の腕とその弓矢があれば、鳥は狩り放題のはずだ。

 いまはアドバイスすることはないから、俺はそろそろ行くよ」


「はい、お達者で、お師匠様」


 俺は振り向きもせず、スタコラサッサと森にまぎれる。

 そのまま家に戻ろうとしたのだが、その道すがら、とある植物が群生している地帯を見つけた。


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 グリーンオニオン

  個数1

  品質レベル2(素材レベル2)


  野生のグリーンオニオン。

  匂いと辛みが強く、食用のほかに薬用としても用いられる。


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 『グリーンオニオン』は東の国を発祥とする植物だ。

 東の国の美少女であるコトネと交流したあとには、ピッタリの食材といえるかもしれない。


 さっそく摘み取って、家へと持ち帰る。

 家の庭にある調理場で、さっそく調理開始。


 『ミーンバードのもも肉』と、『グリーンオニオン』ひと口大に切り分け、拾ったヒロエダの枝に交互に刺す。

 そうやって串にしたあと、アケミから貰った塩を軽く振って、『森林石のカマド』で火にかける。


 炙ると表面の油がじゅうしゅうと音をたてて、たまらない香りがあたりに広がった。

 焦げ目がついたところで、カマドからあげれば……。


「できたっ! 『ネギマ』の完成っ!」


--------------------------------------------------


 ミーンバードのネギマ

  個数8

  品質レベル10(素材レベル5+器用ボーナス3+調理ボーナス2)


  ミーンバードのもも肉とグリーンオニオンを使った、『ヤキトリ』と呼ばれる串焼きの一種。

  食用のほかに、風邪などにも効果がある。

  ビールと一緒に食すと、相乗効果が得られる。


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 俺は昔、酒場の手伝いをしていたことがある。

 そこにいた料理長が東の国の出身で、いくつか東の国の料理を教えてもらった。


 ほとんどが酒のための料理だったけど、この『ネギマ』なんて特にそうだ。

 さっそく、肉にむしゃぶりついてみると、ぷりぷりっとした歯ごたえのあとに、じゅわっと肉汁があふれた。


 そのあとを追いかけるように、グリーンオニオンを頬張る。

 ホクホクでシャキシャキの食感が加わり、トロリとした甘みが口いっぱいに広がった。


「う……うんめぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーっ!」


 思わず天を仰いでしまうほどの味わい。


「グリーンオニオンって生だと辛いんだが、焼くと甘くなるから不思議だよなぁ!

 これならいくらでも食べられそうだ! 教えてくれた料理長に感謝しなくちゃな!」


 ふと俺の脳裏に、料理長との思い出が蘇る。

 俺が調理場で、刻み終えたグリーンオニオンの根っこを捨てようとしたら、止められたことがあった。


「ちょっと待て、ボウズ。その根はまだ使い道がある」


 料理長はそう言って、水を張ったコップにグリーンオニオンの根を突っ込んだ。


「こうすりゃ、茎の部分がまた生えてくるんだ」


 最初は半信半疑だったのだが、1週間後には緑々しい茎がニョキニョキと伸びてきていた。

 俺は回想を中断すると、調理台のすみに落ちていたグリーンオニオンの根を見やる。


「いっちょ、やってみるか! そうすれば、グリーンオニオンが食べ放題だ!」



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



「コトネ様、ご無事ですか!? さっきの輩は……!?」


「トモエさん、落ち着くのでございます。いったい、どうしたというのでございますか?」


「どうしたもこうしたもありませぬ! それがしが、ちょっと目を離したすきに、森に入るだなんて!」


「拠点を作っているみなさまのために、鳥を狩っていたのでございます。

 鳥はまだ一羽のみでございますが、たくさんのものを得ることができたのでございます」


「そういえば、表情が晴れやかですな。コトネ様は最近、ずっと沈んでおられたというのに……」


「トモエさん、わたくしは今日、生まれて初めて大切な殿方ができたのでございます」


「なんと!? それはめでたい! お父上もきっとお喜びになりますぞ!

 いま開拓を主導されているヴァイス様であれば、コトネ様の相手としては申し分なく……!」


「いえ、違うのでございます」


「えっ? ヴァイス様ではない? では1年11組の勇者様とか?

 いったい、どこの貴族の殿方でありますかな?」


「はい、それは……。

 無職の、お師匠様です……!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公に都合よく進んでいく物語性
[一言] やっちゃえ。
[良い点] 一気読み中! 読みやすい! [気になる点] このままハーレム展開になるなら微妙かなー。 [一言] 男の友人が出てくると更に面白そう。
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