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27 ミコのコトネ

27 ミコのコトネ


 呆気に取られている黒髪の少女をよそに、俺はクラフトの最終工程に入った。


 そのへんに落ちていた『森林石』を、そのへんの岩でけずって尖らせて矢尻(やじり)にする。

 『ミーンバードの羽根』を成形し、削った矢の後部に付ければ……。


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 ヒロエダとミーンバードの木矢

  個数10

  品質レベル18(素材レベル5+器用ボーナス3+職業ボーナス10)


  ヒロエダ、ミーンバードの羽根、森林石で作られた矢。

  各種ボーナスにより、命中精度にすぐれる。


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 うん、即席で作ったわりには悪くないな。

 俺は出来を確かめたあと、束ねた10本の矢を少女に差し出す。


「ほら、10倍返しだ。足りなきゃ、もっと作ってやるよ」


「あ、ありがとうご、ございま……す……」


 少女はキツネに化かされている最中のような表情で、両手で矢を受け取っていた。

 言葉遣いや仕草が上品だから、たぶん、モナカのようなお嬢様なんだろうな。


 と、俺は彼女が小脇に持っていた弓に視線を奪われる。


「おい、それは『西弓(せいきゅう)』じゃないか?

 お前の構えを見ていたが、お前は『弓道』スキルの使い手なんだろう?

 なら使う弓は『東弓(とうきゅう)』じゃないとダメだろう」


 弓スキルは地域によって異なり、西の国が発祥の『弓術』と、東の国が発祥の『弓道』がある。

 弓と矢を使って標的を射るというのは同じだが、道具や技術はぜんぜん違うんだ。


 少女は、よくわからないといった表情で答えた。


「えっ? あ、こちらは……他のクラスの木工師の方に作っていただいたもので……」


 「ちょっと貸してみろ」と俺は半ば強引に彼女から弓を取る。

 それは、鑑定するまでもないほどの粗悪な品だった。


「まったく、いくら木工師の卵だからって、適当に作りやがって……」


 ガマンできなくなった俺は、あたりを見回して材料を探す。


「あの、なにをなさるおつもりなのですか?」


「せっかくだから、弓も作ってやるよ」


 少女が「ええっ?」と目を瞬かせる間に、俺は太い木の枝を切り落とし、石のナイフで削る。


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 シナリギの木材(小)

  個数1

  品質レベル16(素材レベル3+器用ボーナス3+職業ボーナス10)


  柔らかくしなりのある木材。

  各種ボーナスにより、折れにくいため、木製武器に適している。


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「お、お見事です……まるで魔法のようでございます……。

 あっ、その形、その長さは、たしかにわたくしがよく使っていた弓の形でございます!」


 少女の黒い瞳はずっと戸惑いに満ちていたが、ここでようやく宝石のように輝やいた、


「そうだ。西弓は上下対称の形をしているが、東弓は非対称の形をしてるんだ。

 初心者だったら西弓のほうが使い勝手がいいが、東弓に慣れているなら使い辛かったはずだ」


 ウンチクを語っている間に、本体である弓柄ができた。

 あとはワイヤーがわりに持ってきていた、『ダイジャヅルの糸』を結び付けて、弦にすれば……。


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 シナリギの木弓

  個数1

  品質レベル46(素材レベル33+器用ボーナス3+職業ボーナス10)


  シナリギとダイジャヅルで作られた東弓。

  各種ボーナスにより、軽くて丈夫、威力と命中精度にすぐれる。


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 少女は惚れ惚れとした表情で言った。


「お、お見事です……あまりにも、お見事……!

 こんな上質な弓は、わたくしの国でも滅多にありませんでした!」


「そうか。矢は消耗品だが、弓は長く使うものだから、材料選びにもこだわったんだ。ほら、やるよ」


 俺は弓の出来をチェックしたあと、少女に渡す。

 少女はキツネとタヌキに両側からほっぺたをつねられているような表情をしていた。


「えっ!? こんな立派な弓、初めてお会いした方から、頂くわけにはまいりません!」


「いいんだ、俺が好きで作ったんだから。

 構えを見ていてわかった。お前には、この弓こそがふさわしい。

 射ってみてくれれば、それがわかるはずだ」


「は、はい……」


 少女は夢見心地のまま、弓を受け取る。

 先に渡しておいた矢をつがえ、引き絞った。


 ……ピタリッ!


 と決まる美しいポーズ。

 でも、解き放たれようとしていた白い指先が震えているのを、俺は見逃さなかった。


「待て、気持ちが(うわ)ついてるんじゃないか?

 深呼吸して、心を落ち着かせるんだ」


 すると彼女は正気に戻ったかのようにハッとなる。

 瞼を閉じ、スーハーと胸を上下させたあと、カッと開眼した。


 ……シュパァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!


 目の醒めるような一閃が、森の梢を散らしていく。

 光線のような矢は、枝に止まっていたミーンバードに飛び立つ間も与えずに貫いていた。


 「ピギャー!」と悲鳴が届き、俺は「おお」と唸る。


「一撃必殺とはさすがだな。やっぱりお前は……」


 気付くと少女はなぜか、俺の足元に伏していた。


 ハカマの袖も、長い黒髪も地面に垂らして。

 それどころか両手を付いて、白いツムジが見えるくらいに、深々と頭を下げていた。


 「どうした?」と声を掛けると、少女は額を地面につけたまま言った。


「わたくしは、1年19組のコトネと申します!

 どうか、わたくしのことを弟子にしてくださいませっ!」


 1年19組、上級職である『ミコ』の少女をリーダーとしたクラスだ。

 モナカの1年2組と同じで、女生徒だけで構成されているらしい。


 コトネの口調は決然としていた。


「あなた様は、わたくしの構えをご覧になっただけで、わたくしの身体の一部のような弓を作ってくださり……。

 それどころかわたくしの心の乱れまでを見抜いてしまいました!」


 彼女はパッと顔をあげると、鬼気迫る表情で俺を見据える。


「お願いいたします、お師匠様! お師匠様がわたくしを弟子にしてくださるまで、わたくしはテコでもここを動かないのでございます!」


 『お師匠様』なんて言われたのは、生まれて初めてだ。

 俺は弟子なんて取るつもりはないのだが、なんと言えば納得してくれるか言葉を選んだ。


「うーん、弟子はちょっと……。たまに会ったときに、アドバイスをするくらいならいいけど」


「『あどばいす』、ですか……?」


「そうだ。助言みたいなものかな」


「承知いたしました。それでお師匠様に認めていただければ、弟子にしていただけるのですね!

 お師匠様のお眼鏡にかなうよう、一生懸命がんばる所存でございます!」


「いや、違うんだけど……」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 超実用的なワクワクさんみたいなノリで楽しくなって来ました。
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