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58 ヴァイスとレオピン19

コミカライズ版の連載が開始いたしました!

このお話のあとがきの下にリンクがありますので、ぜひ見てみてください!

58 ヴァイスとレオピン19


 謎の声は、周囲の森から聞こえてきた。

 野盗たちは手にしていたランタンを掲げ、「だれだっ!?」とあたりを見回す。


 その声の正体を知っていたのは、ただひとり……蹲るヴァイスだけ。


「ば……ばか……な……なん……で……」


 息も絶え絶えに、その声の主を責めていた。

 次の瞬間、闇を裂くような風切り音とともに、野盗になにかが命中。


 ……べちょっ!


 鼻先に当たって破裂したそれは、緑色の液体を顔全体にぶちまけていた。


「うわっぷ!? なんだこれ!? 顔になんか当たりやがった!」


「木の実みたいだ! 大丈夫か!?」


「ああ、柔らかかったからなんともねぇよ! ちょっとくせーけどな!」


「くそ、誰だよっ!? 暗くてぜんぜん見えねぇぞ!」


 ……べちゃっ!


「ぐわっ!? まただっ!?」


「ゴブリンが木の実を投げて遊んでやがるのか!?


「チクショウ、舐めやがってぇ!」


 ……ぐちゃっ!


「ぎゃっ!? 俺もやられた!」


「でも、飛んでくる方角がわかったぞ! あっちだ!」


「見つけ出してブチ殺せ! 2グループに分れて、交代で戦いの準備をするんだ!」


 リーダーは激昂して指示を飛ばす。

 手下たちはいったん納屋まで戻ると、壁に掛けてある革製の兜や鎧、そして剣や斧で武装する。


 準備が完了したグループから、ランタンをかざしつつ、木の実が飛んできた方角へと突撃していく。

 リーダーは缶蹴りの空き缶のように、ヴァイスの頭を踏みつけていた。


「こんなことをするのはゴブリンだと思うが、いちおう用心しとかねぇとなぁ。お前から俺たちを引き離して、そのスキに助けようったって、そうはさせ……」


 言葉の途中で、リーダーの顔面に木の実が命中する。


 ……ぬちょっ!


「うがっ! くそがっ! 別の方角から飛んで来やがったぞ!? おい、テメェら! あっちを探せ!」


 それから野盗たちは、森の中を右往左往。

 リーダーの指示の元、あちことを駆けずり回った。


「今度はそっちだ! 敵は木の実を投げてきるから、それほど遠くからの攻撃じゃねぇ! 近くを探せ!」


 近くの茂みから、手下の声が返ってくる。


「こ……こっちにもいませんっ! ぎゃっ!? やられたぁ! 今度はあっちからです!」


「敵は複数か!? ならなおさら、1匹くらいは見つかってもいいはずなのに……!? ならあの岩に登って、高いところから探すんだ!」


 リーダーの指示は的確であった。

 並の敵ならば、もうとっくに補足されていてもおかしくはないのだが……。


 敵の攻撃は一方的に受けているのに、その姿だけはいくら探しても見つからなかった。

 その間にも手下たちは被弾、全身が緑の液体まみれになっていく。


 走り回ってヘトヘトになった彼らは、見えない敵におおきな苛立ちを、そしてちいさな不安を抱くようになった。


「はぁ、はぁ、はぁ……! い、いくら探しても、どこにもいやがらねぇ……!」


「確かにいるはずなのに……!? なんでなんだ、なんでなんだよ……!?」


「や……やべぇ……! やべぇよ……! まるでオバケを相手にしてるみてぇだ……!」


「ああ……! 姿がまったく見えないなんて、オバケしか考えられねぇ……!」


「しかも当たってもぜんぜん痛くねぇ、柔らかい木の実しか投げてこないなんて……!」


「もしかして、遊んでやがるのか……!? 俺たちなんて、いつでも殺せるって思ってるのか……!?」


 まるで異星からやってきた捕食者(プレデター)を相手にしているかのように、未知なる敵におびえる手下たち。

 そのなかで唯一、リーダーだけは冷静だった。


「……おかしい、近場から攻撃してきてるはずなのに、姿が見えないだなんてありえねぇ……透明にでもなってるのか……?」


 そうひとりごちたあと、ハッとなる。


「おい! テメェら、戻ってこい! こっちに、敵を見つけるヒントが転がってるぜ!」


 四方八方に散っていた手下たちが、ふたたび集まってくる。

 スライムを浴びたような有様の野盗たち。


 ボススライムのようなリーダーはしゃがみこみ、ヴァイスの髪を再び掴んでいた。


「おい、ヴァイス……! 俺たちが納屋で坊ちゃんを袋叩きにしたときに、テメーはいつの間にかいなくなってたよなぁ?」


 周囲の手下たちは「あっ!?」と思いだす。


「そうだ! あの時、ヴァイスは消えたみたいにいなくなってた!」


「ああ! 納屋の真ん中あたりで縛って転がされてたはずなのに、いつの間にか納屋の奥にいたんだ!」


「ってことは……!」


 リーダーは「そうだ」と言葉を引き取る。


「いま、森にまぎれこんでるヤツは、きっとそれと同じ方法を使ってるに違いねぇ。さぁヴァイス、どんなタネなのか白状してもらおうか」


「し……知らない……!」


 パアンと頬を叩かれるヴァイス。


「しらばっくれんじゃねぇ!」


 しかしヴァイスの供述は本当であった。

 ヴァイスが姿を消すために使った邪骸布は、いまヴァイスのポケットにある。

 それに、2回の使用制限を使い切り、いまはただの布となってしまった。


 謎の敵がどうやって姿を消しているか、ヴァイスは本当に知らなかったのだ。

 しかし野盗たちは信じるはずもない。


 リーダーは少し思案したあと、「立て!」とヴァイスの首根っこを掴んで引きずり起こした。

 ヴァイスの首筋に再び刃物を当てると、周囲の森に聞こえるように叫ぶ。


「おい! ヒーロー! テメェの狙いはこのヴァイスなんだろう!? ここはひとつ、取引といこうじゃねぇか! 俺たちの前に姿を現してタネ明かしをしてくれたら、ヴァイスを返してやるよ!」


 ヴァイスは身体をよじりながら叫ぶ。


「う……うそだ! 出てくるなっ! 出てきたら殺され……ぐはっ!?」


「さぁ! どうするヒーロー! そろそろかくれんぼは終わりにしようじゃねぇか! 10数えるうちに出てくるんだ! でなきゃ、コイツがどうなってもしらねぇぞ!?」


 リーダーは威圧的な口調でカウントダウンを始めた。


「……いーち! ……にーい! ……さーん! ……しーい! ……ごーお! どうしたヒーロー! 迷ってんのか!? それとも恥ずかしがり屋なのか!? それとも……!」


 リーダーはヴァイスの首筋にひときわ強く刃物を押し当てる。


「コイツの首からシャンパンみてぇに吹き出る血が見てぇのか!? それならそうと早く言えよ! だとしたら、気が合うじゃねぇか! がはははははははは!」


 遠吠えのような哄笑が、夜の森に響き渡った。


「なら、一気にいくぜぇ! ……ろーく! なーな! はーち! きゅーう! じゅ……!」


 ……シュバッ……!


 不意に前方から、何かが飛んでくる。

 いままでの木の実と違って目視できるほど大きく、夜の闇に包まれたそれは岩のようにも見えた。


 それはひとつだけでなく、次々と飛んでくる。


 ……シュバッ……! シュバッ……! シュバッ……!


 それらが岩なら脅威にもなりえるのだが、野盗たちは逃げようとしない。

 なぜならば緩やかな放物線を描くそれは、途中で失速するのは明らかで、しかもどれもあさっての方角に飛んでいっていたから。


 一団のから離れたところに着弾したそれは、着地の衝撃で、次々にパカッと割れていく。

 中から飛び出してきたもので、ようやくその招待がわかった。


「なんだありゃ、なんかいっぱい飛び出てきてるぜ」


「ありゃ、ハチじゃねぇか?」


「ってことは、まわりに転がってるのはハチの巣か」


「ああ、わかったぞ。巣を俺たちにぶつけて、ハチに襲わせるつもりだったんだろ」


「でも、へったくそだなぁ、ぜんぜんハズレてるじゃねぇか」


「あんな遠くのハチの巣なんて、怖くもなんともねぇよ」


 しかし次の瞬間、異変に気づく。

 なんとハチたちがイナゴの群れのようになって、まっしぐらに迫ってきたのだ……!


「えっ……えぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーっ!?!?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 昔はいいヤツだった。 [気になる点] この作品は、短話読み切り奇声オチのユーモア小説ですよ? やるならせめて番外編でどぞ。 短話読み切りでさっさと記憶消去薬とかで友情を消し去るべきなので…
[一言] ここまで長々と引っ張るんだ。さぞかし盛大なざまぁ要素を20話くらい使ってやってくれるんだろう。今はその為の仕込みってわけだ。
[一言] ざまぁ要素どこいった? ヴァイス回長すぎて疲れました・・・
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