表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

147/156

51 ヴァイスとレオピン12

51 ヴァイスとレオピン12


 できたての『足こぎ車』にまたがるふたり。


「よーし、それじゃ、カノコを助けにいくぞーっ! しゅっぱーつ!」


 さっそうとこぎだそうとしたが、そばにあった茂みを破ってちいさな人影が飛び出してきた。


「まってぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーっ!!」


 足こぎ車の前に立ちはだかるように通せんぼしたのは、幼き聖女見習い。

 レオピンはあわててレバーを引いて制動する。


「コロネ!? 急に飛び出してきたりしちゃ、危ないじゃないか!」


 コロネはトテトテは走ってくると、子猫のようにピョンと飛んで、レオピンの膝の上に乗った。


「コロネもいく!」


「えっ、ダメだよ! これから俺たち、危ないところに行くんだから……!」


「コロネもいく! いく! いくーっ! もう置いてけぼりはいやなの! おるすばんはいやなのーっ!」


 コロネはレオピンにひしっとしがみつき、離すもんかといわんばかりにレオピンの胸に顔を埋め、いやいやをしている。


「まいったな……」


 困り果てて、頭をボリボリ掻くレオピン。

 ヴァイスはコロネの頭にそっと、手を置いていた。


「コロネさん、僕たちはこれから『母忘れの山』というところに行くんだ」


 顔をあげたコロネは、ヴァイスを見て「ひぐっ!」と身を引く。


「おいヴァイス、また怖がらせて……」


 レオピンの注意も気にせず、ヴァイスはなおもコロネに語りかけた。


「コロネさんを連れて行ってもいいが、『母忘れの山』までは遠くて、今日じゅうに帰ってこられるかわからない。夜遅くに帰ったりしたら、聖母様から叱られるんじゃないか?」


 こく、と頷き返すコロネ。


「お尻ぺんぺんされちゃう……! でもコロネも、カノコおねちゃんを助けたい……!」


「ああ。だから、カノコさんにも手伝ってほしいんだ。聖堂で留守番をして、明日の朝までに僕たちが帰らなかったら、衛兵に知らせてほしいんだ」


「衛兵さんに……?」


「ああ。賢者のヴァイスがさらわれたと言えば、すぐにわかるはずだ。そしてこれはとっても大切な役目で、頼めるのはコロネさんしかいないんだ。……どうか、やってくれないか?」


 それまでコロネは、ヴァイスの目を怖がっていた。

 しかし子供扱いではなく、同い年のような扱いをされたのが嬉しかったのか、その顔がパァァ……! と明るくなる。


「う……うん! コロネ、やるっ!」


 コロネは鼻息荒く足こぎ車から飛び降りると、ふたりに向かってぶんぶん両手を振った。


「コロネ、ちゃんとおるすばんしてるからね! なにかあったら衛兵さんに知らせるから! だからぜったい、カノコおねちゃんを助けて! やくそくだよ!」


 レオピンとヴァイスは、揃って親指を立てた。


「うん、約束だ」「ああ、もちろんだ」


「「じゃあ……いってくる!」」


 再び動き出す足こぎ車は、もはや迷いなど無い。

 公園から飛び出し、目的の『母忘れの山』まで、一直線……!


 のはずだったのだが、


「ああっ、遅刻ざますぅぅぅぅーーーーーーーーーっ!!」


 公園のトイレから飛び出してきた紳士を、


 ……どすぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーんっ!!


 思い切り、弾き飛ばしてしまった。


「ふぎゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 紳士は吹っ飛び、空き缶のように地面に叩きつけられて転がった。

 高そうなタキシードも、顔にグルグル巻きにされた包帯もホコリまみれになる。


「なっ……なにするざますか!? って……キミたちは、ヴァイスくんにレオピンくん!?」


 そのへんな語尾に、ふたりの少年は顔を見合わせる。


「ど、どうしよう……。この人、あの人だ……」


「ここは、僕に任せてくれ」


 ヴァイスが探るように尋ね返した。


「あの、僕たちはあなたのことを知らないのですが……なぜ、僕たちの名前を?」


「なにもかも知ってるざます! キミたちは、わたくしめが受け持つクラスの要注意生徒ざます! ふたりともとんでもない不良生徒だって、マザーズ教頭が言っていたざます!」


 新任教師は、スクールウォーズの予感を抱いたかのように震えあがっていた。


「朝からへんな乗り物で暴走して、教師を轢くだなんて……! 噂以上の極悪コンビざます……!」


 不意にガタン! と大きな音がする。

 見やるとそこには、車輪が外れた馬車が横転していた。


 馬車の装飾は大破し、居眠りしていた御者は、何事かと飛び起きている。

 その大惨事に、新任教師は頬に両手を当て、押し潰れんばかりの変顔で絶叫していた。


「ぎええっ!? わたくしめの馬車が、倒れているざます! なんで、車輪がふたつだけになってるざますか!?」


 ハッ!? と振り返る新任教師。

 足こぎ車の車輪を見るなり、アウトレイジを目の当たりにしたかのように、ガクブルと震撼する。


「ま、まさか、キミたちが、わたくしめの馬車の車輪を……!? ぬ……盗んだ車輪で、走り出すだなんて……!」


 ヴァイスとレオピンは、息の合ったコンビネーションで矢継ぎ早に告げる。


「盗んでません!」


「ちょっと、お借りしただけです!」


「帰ったら返します!」


「僕らは急いでるんで、失礼します!」


「ああっ!? ま、待つざます!? 今日はわたくしめの初めての授業があるざますっ! そこでたっぷりキミたちを……! ぎえぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーっ!!」


「がんばれ、おにいちゃんたちーっ! フレー、フレー、レオピンおにいちゃん! フレー、フレー、ヴァイスおにいちゃーんっ!!」


 まとわりつく絶叫を振り払い、声援には手を振り返し……ふたりの少年は、さっそうと街を飛び出していった。

次回は掲載を1週お休みさせていただきます。

再開は 5月3日(火) の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みくださりありがとうございます!
↑の評価欄の☆☆☆☆☆をタッチして
★★★★★応援していただけると嬉しいです★★★★★

▼コミックス6巻、発売中です!
3yhrcih7iujm5f0tgo07cdn3aazu_49d_ak_f0_6ns3.jpg

▼コミカライズ連載中! コミックス6巻、発売中です!
jkau24427jboga2je5e8jf5hkbq_u0w_74_53_1y74.jpg r5o1iq58blpmbsj98lex9jb4g2_1727_3k_53_15fz.jpg 4ja22z6e9j8n5c6o2443laqx8b4v_136f_3j_53_14uc.jpg dm2ulscc6gwrdzc9cpyvkq7chn5k_wtf_3l_54_12fl.jpg l8ug24f47yvuk96t5a2n10cqlfd9_1e33_3l_54_104j.jpg jg166tlicmxb9n2r5rpfflel0ox_uif_3l_54_13bg.jpg cmau2113lvxuanohrju8z3y8wfp_8h9_3l_54_11ld.jpg
▼小説2巻、発売中です!
kwora9w85pvjhq0im3lriaqw3pv4_1al6_3l_53_11yj.jpg 2ql3dh0cbhd08b8y92kn9fasgs5d_7pj_3l_53_1329.jpg
script?guid=on
― 新着の感想 ―
[一言] おお、なんとなく車椅子タイプだと思ってたけど、二人用自転車だったのか。 このラスト、久しぶりに見ると懐かしい気がする(笑)
[一言] ざますも頑張って二輪で走ろう!w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ