51 ヴァイスとレオピン12
51 ヴァイスとレオピン12
できたての『足こぎ車』にまたがるふたり。
「よーし、それじゃ、カノコを助けにいくぞーっ! しゅっぱーつ!」
さっそうとこぎだそうとしたが、そばにあった茂みを破ってちいさな人影が飛び出してきた。
「まってぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーっ!!」
足こぎ車の前に立ちはだかるように通せんぼしたのは、幼き聖女見習い。
レオピンはあわててレバーを引いて制動する。
「コロネ!? 急に飛び出してきたりしちゃ、危ないじゃないか!」
コロネはトテトテは走ってくると、子猫のようにピョンと飛んで、レオピンの膝の上に乗った。
「コロネもいく!」
「えっ、ダメだよ! これから俺たち、危ないところに行くんだから……!」
「コロネもいく! いく! いくーっ! もう置いてけぼりはいやなの! おるすばんはいやなのーっ!」
コロネはレオピンにひしっとしがみつき、離すもんかといわんばかりにレオピンの胸に顔を埋め、いやいやをしている。
「まいったな……」
困り果てて、頭をボリボリ掻くレオピン。
ヴァイスはコロネの頭にそっと、手を置いていた。
「コロネさん、僕たちはこれから『母忘れの山』というところに行くんだ」
顔をあげたコロネは、ヴァイスを見て「ひぐっ!」と身を引く。
「おいヴァイス、また怖がらせて……」
レオピンの注意も気にせず、ヴァイスはなおもコロネに語りかけた。
「コロネさんを連れて行ってもいいが、『母忘れの山』までは遠くて、今日じゅうに帰ってこられるかわからない。夜遅くに帰ったりしたら、聖母様から叱られるんじゃないか?」
こく、と頷き返すコロネ。
「お尻ぺんぺんされちゃう……! でもコロネも、カノコおねちゃんを助けたい……!」
「ああ。だから、カノコさんにも手伝ってほしいんだ。聖堂で留守番をして、明日の朝までに僕たちが帰らなかったら、衛兵に知らせてほしいんだ」
「衛兵さんに……?」
「ああ。賢者のヴァイスがさらわれたと言えば、すぐにわかるはずだ。そしてこれはとっても大切な役目で、頼めるのはコロネさんしかいないんだ。……どうか、やってくれないか?」
それまでコロネは、ヴァイスの目を怖がっていた。
しかし子供扱いではなく、同い年のような扱いをされたのが嬉しかったのか、その顔がパァァ……! と明るくなる。
「う……うん! コロネ、やるっ!」
コロネは鼻息荒く足こぎ車から飛び降りると、ふたりに向かってぶんぶん両手を振った。
「コロネ、ちゃんとおるすばんしてるからね! なにかあったら衛兵さんに知らせるから! だからぜったい、カノコおねちゃんを助けて! やくそくだよ!」
レオピンとヴァイスは、揃って親指を立てた。
「うん、約束だ」「ああ、もちろんだ」
「「じゃあ……いってくる!」」
再び動き出す足こぎ車は、もはや迷いなど無い。
公園から飛び出し、目的の『母忘れの山』まで、一直線……!
のはずだったのだが、
「ああっ、遅刻ざますぅぅぅぅーーーーーーーーーっ!!」
公園のトイレから飛び出してきた紳士を、
……どすぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーんっ!!
思い切り、弾き飛ばしてしまった。
「ふぎゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
紳士は吹っ飛び、空き缶のように地面に叩きつけられて転がった。
高そうなタキシードも、顔にグルグル巻きにされた包帯もホコリまみれになる。
「なっ……なにするざますか!? って……キミたちは、ヴァイスくんにレオピンくん!?」
そのへんな語尾に、ふたりの少年は顔を見合わせる。
「ど、どうしよう……。この人、あの人だ……」
「ここは、僕に任せてくれ」
ヴァイスが探るように尋ね返した。
「あの、僕たちはあなたのことを知らないのですが……なぜ、僕たちの名前を?」
「なにもかも知ってるざます! キミたちは、わたくしめが受け持つクラスの要注意生徒ざます! ふたりともとんでもない不良生徒だって、マザーズ教頭が言っていたざます!」
新任教師は、スクールウォーズの予感を抱いたかのように震えあがっていた。
「朝からへんな乗り物で暴走して、教師を轢くだなんて……! 噂以上の極悪コンビざます……!」
不意にガタン! と大きな音がする。
見やるとそこには、車輪が外れた馬車が横転していた。
馬車の装飾は大破し、居眠りしていた御者は、何事かと飛び起きている。
その大惨事に、新任教師は頬に両手を当て、押し潰れんばかりの変顔で絶叫していた。
「ぎええっ!? わたくしめの馬車が、倒れているざます! なんで、車輪がふたつだけになってるざますか!?」
ハッ!? と振り返る新任教師。
足こぎ車の車輪を見るなり、アウトレイジを目の当たりにしたかのように、ガクブルと震撼する。
「ま、まさか、キミたちが、わたくしめの馬車の車輪を……!? ぬ……盗んだ車輪で、走り出すだなんて……!」
ヴァイスとレオピンは、息の合ったコンビネーションで矢継ぎ早に告げる。
「盗んでません!」
「ちょっと、お借りしただけです!」
「帰ったら返します!」
「僕らは急いでるんで、失礼します!」
「ああっ!? ま、待つざます!? 今日はわたくしめの初めての授業があるざますっ! そこでたっぷりキミたちを……! ぎえぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーっ!!」
「がんばれ、おにいちゃんたちーっ! フレー、フレー、レオピンおにいちゃん! フレー、フレー、ヴァイスおにいちゃーんっ!!」
まとわりつく絶叫を振り払い、声援には手を振り返し……ふたりの少年は、さっそうと街を飛び出していった。
次回は掲載を1週お休みさせていただきます。
再開は 5月3日(火) の予定です。














