39 思い出のスープ
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39 思い出のスープ
『レオピン村』が完成した次の日から、『レオピン親衛隊』のメンバーが引っ越してくる予定となっていた。
しかし次の日は朝から大雨となってしまったので、引っ越しは延期となる。
それでも授業はあったので、俺は灰色のヴェールのように重く立ちこめる雨の中、フキの葉っぱを傘がわりにして登校した。
授業はすべて校舎の中で行なわれ、新しくこの学園に来た1年11組の勇者たちの素晴らしさが説かれた。
その授業の場には、1年11組は誰ひとりとして参加していない。
彼らは全員が生徒会役員で指導者の立場なので、授業は自由参加なのだそうだ。
そして学園の廊下に張り出されていた告知で知ったのだが、ヴァイスが『学園裁判』で追放され、俺と同じ『特別養成学級』送りとなったらしい。
ヴァイスはこの学園で活躍をして、賢者の一族としての誇りとなることを夢見ていた。
きっと落ち込んでいるだろうと思い、俺はヴァイスを探してみたのだが、校舎内にも居住区にも、どこにも見当たらなかった。
雨はその次の日も、そのまた次の日も止まなかった。
まるでヴァイス自身の悲しみのように、いつまでもいつまでも降り続いた。
こう雨が降ると引っ越しどころか、農作業もできない。
家に帰ってもヒマでしょうがなかったので、俺はなんとなく『魔贋作師』のスキルで、家の中にあるものを複製して遊んでいた。
そしてふと、あるものが目に入る。
それは、壁に掛けてある、俺の一張羅のコートだった。
「……そうだ! あのコートが増やせれば、相当な戦力になるんじゃないか……!?」
しかし『竜と聖女のコート』はマジックアイテムだけあって、複製はかなりの難易度だった。
なんとか見た目だけはソックリに複製はできたものの、肝心の能力はからっきしのまま。
「これじゃ、使い物にならないな……」
あきらめて複製したコートをしまっていると、豪雨の音に交じって、外からマークの鳴き声が聞こえた。
何かあったのかと思って部屋の扉を開けてみたら、玄関口に、ずぶ濡れになった人間の襟を咥え、引きずっているマークが。
俺は慌ててその人間をマークから引き取り、部屋のベッドで寝かせてやった。
よく見るとそれは、俺のかつてのクラスメイトだった。
「ヴァイスじゃないか……!? 今まで、どこに行ってたんだ!?」
しかしヴァイスは意識を失っており、全身が燃えるように熱かった。
全身アザと切り傷まみれで、メガネと服はボロボロ。
スマートで理知的な彼の面影はどこにもなく、すっかり弱りきっている。
ヴァイスの服を脱がしてやり、いざという時に水車小屋で量産しておいた『センタタキの塗り薬』を塗ってやった。
「たしかセンタタキは、根っこを煮出すと熱さましにもなるんだよな」
俺は雨の中を庭へと飛び出し、傘を差しながら調理場で煎じ湯を作る。
しかしセンタタキは塗り薬にするのも苦労したが、飲み薬にするのはもっと大変だった。
およそ16時間ほど煮込まねばならず、そのあいだ付きっきりで見ていなくてはならなかった。
俺はヴァイスの看病を続けながら、大雨の調理場をなんども行き来して、なんとか薬をこしらえる。
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センタタキの飲み薬
個数1
品質レベル32|(素材レベル7+器用ボーナス2+職業ボーナス23)
センタタキの根を、千分煮出した飲み薬。
解熱、整腸、強壮、鎮痛、咳止め、安眠・食欲増進の効果がある。
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うなされているヴァイスに飲ませてやると、薬が効いてきたのか熱は下がり、安らかな寝息をたてるようになった。
「いざとなったらこの雨のなかで、モナカを引っ張ってこなきゃと思ってたんだが……その必要はなくなったようだな」
それから俺はヴァイスが目を覚ましたときのために、パン粥を作った。
これは、肉と野草をじっくりコトコト煮込み、仕上げにパンを入れるというもの。
具は煮崩れるまで煮込んでいるので消化によく、栄養もたっぷり。
病気のときはもってこいの一品なんだ。
「まさかこの俺が、病人食まで作れるようになるとはね……」
そうこうしているうちにヴァイスが意識を取り戻す。
うっすら目を開けた彼の瞳はぼんやりとしていて、虚空をさまよっている。
「大丈夫か、ヴァイス? ハラが減ってるだろう? これを食べろ」
「う……」と唸るヴァイスの口元に、木のスプーンですくったスープをもっていく。
ちょっと熱かったようなので、フーフーしてから食べさせてやると、彼はこくん、こくんと飲み下していた。
「うまいか? たくさん作ったからおかわりもあるぞ」
食べていくうちにヴァイスは目に見えて回復していき、最後は俺の手からスープ皿を奪い、一気に飲み干していた。
「ぷはあっ……う……うま……い……!」
天を仰ぎ、おおきな溜息をつくヴァイス。
その瞳には、すっかり光が戻っていた。
しかし俺がそばにいることに気付くと、スープ皿を床に放り捨て、まるで拒絶するように、俺に背を向けて横になった。
「まるで逆だな」と、俺はつぶやく。
「俺がガキの頃は、庶民の出だからって、よくいじめられてたけど……。ヴァイス、お前が助けてくれたよな。
泣き顔を見られたくない俺に、お前は屋敷の調理場で人払いをして、見よう見まねでスープを作ってくれたよな……」
『ふっ、レオピン。スープは万物の力の源といわれている。この僕の作ったスープなら、勇気百倍だ』
そのスープは、すごくマズかったけど……。
「俺にとってはそのスープこそが、最高のスープだったんだ」
俺はベッドサイドに座ると、背中を向けたヴァイスの肩に、そっと手を置く。
「お前が俺を追放したことは、もう気にしちゃいない」
すると肩が、ピクリと震えた。
「この、僕を……許してくれる、というのか……? あんなにも酷いことをした、この、僕を……!」
「ああ。追放されたおかげで、俺はいろいろ貴重な経験ができたんだ。
それに今度は俺が、お前を守ってやる。
『特別養成学級』だからってバカにしてくるヤツらを、いっしょに見返そうぜ」
肩の震えは止まらなくなっていた。
ヴァイスは振り向くと、俺の手にすがりつき、声をあげて泣いていた。
「ううっ……! おおっ……! ぼ、僕が、僕が悪かった……!
今までのことを、許してくれっ! 許してくれっ……! レオピンッ……!
うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!」
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