32 レオピン親衛隊誕生
32 レオピン親衛隊誕生
『リークエイト王立開拓学園』の居住区、大通りに建ち並んだ豪華な建物たちに隠れるようにしてある裏通り。
普段はそれほど人の行き来もない場所なのだが、いまは通行が困難なほどに人が押し寄せている。
裏通りには現在、約4名を除き、この学園のすべての人間たちが集まっていた。
それも、無理からぬ話である。
開拓系の学園において、『拠点』の次の節目と言われている、『開拓者の朝食』が出現したのだから。
黒山の人だかりの中心にいたのは、ひとりの女生徒。
前髪をすだれのように垂らした目隠れ少女は、朝食セットの乗ったトレイを手に、もらわれてきたばかりのチワワのように震えていた。
記者たちになにを尋ねられてもプルプルするばかりだったので、事情を察したモナカとコトネが取材に応じる。
「レオくんは小麦畑を作ったあとに、体育の授業でお馬さんとお友達になりました。その繋がりで牧場を作ったのだと思います」
「こちらにあります朝餉は、お師匠様の牧場でとれた材料で、お師匠様の教えの通りに作られたものだそうです」
「「ということは、こちらはまさに『レオピン定食』というわけですっ!」」
モナカとコトネは示しあわせてもいないのに、まったく同じポーズで、まったく同じ台詞を放つ。
「「これでもまだ、レオピン様の偉業が、ウソだとおっしゃいますかっ……!?」」
……シャキィィィィィィーーーーーーーーーーーーンッ!!
そう喧伝し、見得を切るふたりの聖女。
その様はまるで風神と雷神、いや風の女神と雷の女神のようであった。
記者たちは感激に打ち震えている。
「わ……私たちが間違っていました! レオピン……いや、レオピン様は、偉大なる生徒です!」
「まさか開校して半年も経っていないというのに、『開拓者の朝食』を作るだなんて!」
「勇者様や賢者様など、ものの数にもならない大活躍です! 未来の偉大なる指導者様です!」
もはや聖女たちの言葉を狂言扱い、そしてレオピンのことを想像上の動物扱いする者は、もはやひとりもいなかった。
人混みに押され、路地裏に追いやられたカケルクンと教頭。
ふたりとも、愕然とした表情で膝をついていた。
「そ……そんな……! まさかレオピンが、『開拓者の朝食』まで、作り上げていただなんて……!」
脱力しきったカケルクンの身体から、大量の札束のエフェクトがあふれ出す。
カケルクン 60億9500万 ⇒ 40億9500万
「ああっ!? 僕の金がっ!?」と手を伸ばして捕まえようとするが、実体のないそれはするりと抜ける。
札束たちは魚の群れのように空を泳ぎ回ったあと、モナカとコトネの身体に吸い込まれていった。
それは、大いなるビッグゲームの決着の瞬間。
そして、大いなる資産移動の合図でもあった。
この学園に設置された『資産ランキング』の魔導ボードが書き換わっていく。
1位 1年02組 1,000,000,000¥
1位 1年19組 1,000,000,000¥
2位 特別養成学級 902,950,000¥
聖女とミコのクラスが、無職の少年を一気に抜き去り、ダブル1位に躍り出る。
レオピンがついに、インチキなしのまっとうな手段で敗北した、歴史的な瞬間だった。
しかし、ランキングの変動は終わっていない。
魔導ボードの文字はガシャガシャとせわしなく動き、さらなる伝説を刻む。
……ジャキィィィィィィーーーーーーーーーーーーンッ!!
1位 レオピン親衛隊 2,000,000,000¥
2位 特別養成学級 902,950,000¥
なんと、聖女とミコのクラスがひとつになって、『レオピン親衛隊』に……!
これを見て、誰があの少年が敗北したと思うであろうか……!?
無職の少年は、やはり最強であった……!
そして記者たちは、必死であった。
「お……教えてください! レオピン様は、どちらにいらっしゃるのですか!?」
「これほどの特ダネの連続に、ご本人に取材できないだなんてあんまりです!」
「お願いします、どうか、どうかレオピン様に、会わせてくださいっ……!」
放心状態のカケルクンは、問い詰められて白状してしまう。
記者たちは、帰る前にレオピンの姿をひと目だけでもと、学園の人工湖に殺到。
しかしそこには誰もおらず、湖はドラゴンでも来て大暴れしたかのように、めちゃくちゃになっていた。
そのまま時間切れとなってしまい、記者たちはレオピンを拝むことはかなわず、学園から退去させられる。
レオピンはとうとう、ユニコーンばりの伝説の存在に……!
その存在は全くなかったというのに、学園に嵐のように吹き荒れていった『レオピン旋風』。
普段は多くの生徒で賑わう大通りの一等地にも、ひゅうと冷たい風が吹き抜けていた。
そこにはただひとり、バケツに顔を突っ込んだままのヴァイスの姿が。
彼は誰からも気づかわれることなく、打ち捨てられた死体のように、すっかり置き去りの状態であった。
しばらくして救助隊に発見され、救助される。
彼の所属する1年20組は、保健室送りのペナルティでランクダウン。
1年20組 D- ⇒ E+
人知れずひっそりと、下位グループへと転落した。
そしてペナルティを受けたのは、彼のクラスだけではない。
彼女のクラス……。
そう、ゴミパンを作ってしまった、宮廷菓子職人のトワネット。
彼女のクラスも、国じゅうの恥さらしとなってしまった責を問われ、2ランクダウンという重い処分を下された。
1年12組 C+ ⇒ C-
「とっ……とわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
悲劇の連鎖は終わらない。
レオピンの功績を隠蔽し、横取りしょうとした罪として、カケルクンは教育委員会から2ランクダウンの沙汰を下される。
ただそれは、あくまで表向きの名目でしかない。
レオピンの優秀さを外部に漏らしてしまったことで、支援者たちが激怒したというのが本当の理由。
いずれにせよカケルクンにとっては、泣きっ面に蜂、いや全裸にハチの巣を投げつけられたようなものである。
「はっ……はっさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!?!?」
カケルクンはまたしても身銭を切り、ランクダウンを阻止した。
カケルクン 40億9500万 ⇒ 30億9500万
そしてカケルクンは今回、取り返しのつかないほどのオウンゴールを果たす。
なにせ今まで及び腰だったモナカとコトネの尻に、火を付けてしまったのだから。
その結果が、『レオピン親衛隊』。
レオピンの所属する『特別養成学級』というのは本来、未熟な生徒が送られ、各クラスの手伝いをして技量を身に付けていくというクラスである。
そのため『特別養成学級』がいくら活躍しても、評価をされるのは支援を受けた他のクラスということになる。
『特別養成学級』にはランクが存在しないのもそのためであった。
しかし『連盟』の関係であれば、主従関係は逆転する。
そう……! 聖女たちはついに、大手を振ってレオピンに尽くせる立場となったのだ……!














