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28 小麦畑、横から見るか、上から見るか

28 小麦畑、横から見るか、上から見るか


 レオピンが最高の朝食を味わい、最高の気分を味わっていたころ……。

 学園の校長室では、最高とはいかないまでも、最悪の雰囲気からは脱しつつあった。


 カケルクンが、秘密のルートを使って手配していたカツラが今日届いたのだ。

 彼はここ数日ずっと泣き暮らしていたのだが、ひさびさのいいニュースに笑顔が戻っていた。


「う……うん! これなら、バレないよね! ねっ!?」


 カツラを被って同意を求めると、教頭も嬉しそうに頷く。


「当然ですら。なにせ校長の地毛(アレ)を送って髪質(アレ)完全再現(アレ)させた特注品(アレ)ですら」


 教頭がやたらと『アレ』という代名詞を連発して説明していたのは、情報漏洩防止の一環である。

 カケルくんがハゲ散らかしているという事実は、ふたりだけの秘密であった。


「よかったぁ! これでやっと人前に出られるよ! ……あ、そういえば今日はもうひとつニュースがあるんだよね?」


「でもこのニュースは、悪いニュースですら。もうちょっと後からお知らせしたほうが……」


 せっかくカケルクンに戻った笑顔を台無しにしたくなくて、教頭は言い渋る。

 しかしカケルクンから急かされ、やむなく白状した。


「この学園に、記者の取材が入ることになったのですら」


 教頭が告げた『悪いニュース』の内容はこうだ。


 先日、王都の記者会見において、カケルクンは記者たちの質問に対し、居住区に小麦粉が流通したことを認めた。

 これがリークエイトの国王の耳に入り、ぜひこの偉業を国民たちにも知らしめよと命じたのだ。


 現在この、『リークエイト王国開拓学園』において、生徒たちの開拓生活を見ることができるのは、学園に多額の投資をした『支援者』と呼ばれる者たちだけである。

 これは、投資をしてくれた者に対しての先行特典のような措置なのだが、ある程度の期間が過ぎたところで、開拓生活は一般公開される予定になっていた。


 しかし今回は国王の鶴の一声で、特別に一般公開される運びになったという。

 教頭は苦々しい顔で続ける。


「しかも今回は、真写(しんしゃ)装置を使った静止画ではなく、伝映(でんえい)装置を使った中継での公開になるそうですら。小麦畑の映像を、全国民に公開するそうですら」


「な……なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 これはどういうことかというと、伝映(でんえい)装置で撮られた動画は、リアルタイムで国民のところに届けられる。

 そのため、マズいものが映ってしまった場合、揉み消すことが不可能だということだ。


「ど……どうしようどうしようどうしよっ!?

 この学園にある小麦畑といえば、レオピンが作ったものしかないよ!?

 それを取材されてしまったら、レオピンの功績が広まっちゃうよ!?

 そんなのダメだよ! そんなのダメだよぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」


 いきなりの大ピンチに、カケルクンはカツラがズレるのもかまわず頭を抱える。

 ふと校長室の扉が、トントンとノックされた。


 カケルクンは慌ててカツラを直し、「誰っ!?」と返事をする。

 校長室の扉を開けて入ってきたのは、この学園の生徒会長であるヴァイスであった。


「失礼します、校長先生、教頭先生。廊下の前を通りかかりましたら、なにやら楽しげなお話が聞こえてまいりましたので……。

 お悩みなのであれば、この僕にお任せください。

 この賢者の知恵を用いれば、あのゴミの姿形ひとつ世に出ることはないでしょう」


「ええっ、それ本当!? なにか、いい考えでもあるの!?」


「ええ。まず小麦畑ですが、レオピンの小麦畑を撮影させます。

 ただし、記者たちを近くには行かせません。なぜならあの家には狂暴なクマがいますからね。

 でもそのことを記者たちに言うわけにはいきませんから、コムギソウはデリケートな植物だからと適当な理由をつけて、居住区のあたりから撮影させるのです」


「でもそのとき、畑にレオピンくんが来たりしたらどうするの?」


「ええ、あのゴミが見切れでもしたら大変なことになります。ですので当日は取材が終わるまで、補習授業をレオピンに言いつけてください。新任のサー・バイブ先生と競わせるなんてどうでしょう」


 カケルクンは「なるほどぉ!」と納得していたが、教頭が異論を唱える。


「でも小麦畑を取材した以上、それを使って作った食べ物を取材させないわけにはいかないですら。

 いま購買で扱っている小麦粉を使って作るとしても、アレは超低品質なものだからこそ、輸入の許可が下りてるんですら。

 あんな犬も食わないような小麦粉で作った食べ物なんて出したら、逆にいい笑い者になってしまうですら」


「ならば、超高品質なものを輸入してしまえばいいではないですか」


 ヴァイスはスクウェアのメガネを人さし指でクイと治しながら、ニヤリと含み笑いを浮かべる。


「トップシークレットの輸入ルートを使って、ね……!」


 その一言が出た途端、カケルクンはガタン! と椅子から立ち上がった。


「まっ、まさかヴァイスくんは、僕がカ……!」


 咄嗟に、隣にいた教頭がカケルクンの口を塞ぐ。

 教頭は、カケルクンの耳元で鋭く囁いた。


「校長、落ち着くのですら。私たちは暗号を使って会話していたのですら。

 ヴァイスくんはああやってカマをかけて、校長の秘密を手に入れようとしているのですら」


 校長と教頭が探るような目つきをヴァイスに向けたが、彼はポーカーフェイスを崩さなかった。


「僕がなにを聞いて、なにを知っているかは、この際おいておきましょう。

 先生方には最高級の小麦粉を秘密裏に手配していただいて、それをパンにするのです。

 作っていただくのはそうですね、トワネットさんにお願いするというのはどうでしょうか?」


「トワネットさん? 誰それ?」


 キョトンとした様子のカケルクンを、教頭がすかさずフォローした。


「校長、トワネットさんは1年12組の生徒で、宮廷菓子職人(パティシエ)の名家の令嬢ですら」


「そうです。トワネットさんは入学式の『能力開花の儀式』において、宮廷菓子職人(パティシエ)の職業を与えられました。

 ということは、彼女もゆくゆくは宮廷入りするのは間違いないでしょう。

 そんなサラブレッドが作ったパンを取材させれば、話題性もバツグン……。

 この学園の評判は、確固たるものになるでしょうね」


 かくしてヴァイスの主導のもと、新たなる作戦が動き出す。

 この作戦を名づけるとするのなら、『レオピンの功績横取り大作戦』といったところだろうか。


 そしてこの横取り作戦の準備はちゃくちゃくと進んでいく。


 1年12組の菓子職人(パティシエ)、トワネットは本来はケーキ職人。

 「パンがあってもケーキを食べればいいんですわ」が口癖なほどに、パンを見下していた。


 パンを作るなど、本来なら死んでもお断りなのだが、賢者のヴァイスが依頼すると、パン作りをあっさりと引き受ける。

 彼女はパンを一度も作ったことがなかったので、かなりの苦戦を強いられた。


 しかしさすがは名門の菓子職人(パティシエ)の娘、取材の当日に、徹夜してパンを完成させる。


「で、できましたわ……!」


 それはイエローサファイアと見紛うほどに、光輝くパンであった。

 トワネットはその唯一のパンを、宝石を飾るガラスケースに入れ、ヴァイスに見せた。


 その美しさに、ヴァイスは目を見張る。


「おお、なんと美しいパンだ……! ふっくらとして、ツヤツヤで……!


 しかし同時に、あることに気付く。


「でも、1個しかないようだが……?」


「ヴァイス様、それは当然ですわ。このトワの作るものは食べ物ではなく、芸術品なのですから。

 芸術品というのは、ひとつだけ存在するからこそ、価値があるのです。

 ですのでこれは決して口になさらず、眺めるだけにするのですわ」


「ううむ……そういうことか。だが逆にそのほうが、話題になっていいかもしれないな……」


 その日の朝早くから、転移の魔法陣によって多くの記者たちが学園を訪れていた。

 外部の人間が学園に入るのは、オネスコが聖騎士の試練を乗り越えた記念式典以来である。


 ちなみにではあるが、今回やって来た記者たちは、前回とは違う記者たちが選別されていた。

 さらに余談となるが、このときレオピンは学園の北東にある湖のほうに追いやられていて、体育教師のサー・バイブと補習授業の真っ最中。


 そして記者たちの案内役は、校長であるカケルクンがつとめていた。

 彼は当初の作戦どおり、居住区から小麦畑を撮影させる。


 大粒の麦穂を揺らす小麦畑に、記者たちは大興奮。


「ごらんください! 一面に小麦畑が広がっています! まるで黄金の海原みたいですね!

 開拓系の学園では小麦畑を作るのに、最低1年を要するといいます!」


「いやぁ、これだけ見事な畑ですと、2年はかかると思いますよ!」


「おお、専門家の方もこうおっしゃっています! 

 それを半年もかからずにやってのけるだなんて、さすがはカケルクン校長ですね!」


「いやぁ、本当に見事としか言いようがありません! カケルクン校長、畑の全貌を見てみたいのですが、よろしいですかな!?」


 記者と、同行した専門家たちにさんざんもてはやされ、カケルクンはご満悦。


「へへーっ! それじゃあねぇ、校舎の展望台に行こっか! あそこからなら、僕の畑を一望できるしね! ねっねっ!」


 一行は、校舎である城の展望台へとあがる。

 カケルクンは知らなかった、まさか小麦畑に、あんな仕掛けがあろうとは。


「うわぁ、ごらんください! 素晴らしい眺めです!

 ……あれ? 横から見たときは気付きませんでしたけど、上からだと一部のコムギソウが刈り取られていて、文字が見えますね?

 えーっと、レ・オ・ピ……」


「はっ……はっさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!?!?」

書籍化情報の続報となります!

イラストレーター様が、なかむら様に決定いたしました!

さっそく、なかむら様のキャラクターデザインの一部をお見せしたいと思います!

さわやかなレオピン、かわいいモナカ、淑やかなコトネを大公開!

このあとがきの下をご覧ください!

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― 新着の感想 ―
[一言] まさかの小麦畑アートw …キャルルも絵に、なってほしいなったらいいな
[一言] 生中継、ヅラバレの最高のチャンス!w
[一言] これはモナカとコトネが激おこするんじゃね?それと校長のヅラがバレるのを期待してます!w
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