25 毟られた校長
25 毟られた校長
『魚の干物』はかなりの数があったので、みんなでたっぷりと分け合うことができた。
暮れなずむ湖畔で、両手いっぱいに干物を抱えた俺のチームメンバーは、まるでおとぎの国にいるような表情をしている。
「なんだか、まだ、信じられないよ……」
「いままで授業で、いろんなクラスとチームになってきたけど……」
「上級職のクラスと組んでも、こき使われるばっかりで、いいことなんてひとつもなかったのに……」
「落ちこぼれと言われてたレオピンくんと組んだら、こんなに楽しくて、嬉しくて、おいしい思いができるだなんて……」
みんなは瞳をうるうるさせ、感極まった様子で俺に言う。
「あ……ありがとう! レオピンくーんっ!!」
「みんなにはいつも農作業を手伝ってもらってるからな。このくらいは当然だよ」
そして、終業のチャイムが鳴り渡る。
「今日は湖で遊んで楽しかったな。じゃあ、そろそろ帰るとするか」
「はーい、レオピンくーんっ!」
残っていたサー先生チームのメンバーたちは、空きっ腹を抱えて暴れていた。
中には殴り合いのケンカをする者、竿をへし折る者、ヤケになって湖に飛び込む者までいる。
「うがあああっ! なんで1匹も釣れねぇんだよっ!?」
「ぜんぶこの道具が悪いんだ! こんなゴミじゃなけりゃ、俺にも釣れたのに!」
「っていうかゴミ野郎のチームの竿はもっとゴミだったじゃねぇか!」
「それなのに、ヤツらは腹いっぱい魚を食べて、しかもお土産まであるだなんて!」
「なんでアイツらより上の俺たちが、ひもじい思いをしてるんだよっ!」
「ちくしょうちくしょうちくしょう! ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」
ホクホク顔で、和気あいあいと湖をあとにする俺たち。
その背後では、負け犬の遠吠えのような絶叫が、いつまでもいつまでも轟いていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
サー・バイブの就任初日の授業は、もはや言うまでもないほどの大失敗に終わる。
本来の目論見であれば、『レオピン真ヘルマラソンゲーム』で、レオピンは半殺しに。
しかも賞金はカケルクンにすべて没収されているはずであった。
身も心もズタボロになったレオピンが、「この学園を辞めますぅ!」と号泣するまでがワンセットのはずであったのに……。
泣き叫んでいたのは、仕掛け人たちのほうであった。
サー・バイブは、湖で溺れて保健室送りになっただけではない。
湖で用いた軍用船は、彼が所属している陸軍から借り受けたものであった。
それを転覆させてしまったせいで、リークエイト王国軍部を激怒させてしまう。
彼に言い渡された沙汰は、就任早々にして、最大級のペナルテイ。
なんと、3ランクダウンっ……!
サー・バイブ教諭 A ⇒ B
彼は軍にいたときの功績を認められ、体育教師としては異例のAランク評価であった。
1年ほどつつがなく職務をこなせば、そのまま教頭になるはずだったのだが……。
その夢も、散ってしまった……!
レオピンに手を出した、ばっかりに……!
「ぶ……ぶひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!?!?」
保健室のベッドでその知らせを聞いたサー・バイブは、壊れたマッサージ器のように暴れた。
そしてベッドをぺちゃんこにしてしまい、さらに給与から弁償させらハメになってしまう。
しかし彼の被害など、まだまだかわいいものであった。
今回もっとも甚大なる被害を被ったのは、もはや言うまでもないだろう。
カケルクンは校長室で、身体だけが大きい赤ん坊が、ベビーベッドから転げ落ちたようにのたうち回っていた。
「はぁんはぁんはぁん! はぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!
校長になって1週間後には、僕の所持金は倍以上になってたはずなんだよ!?
それなのになんでなんでなんで!? なんでなんだよぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」
サー・バイブが就任した日のカケルクンの収支は、それこそさんたんたる有様であった。
順を追って見てみよう。
まず、『レオピン真ヘルマラソンゲーム』において、湖までの道中、崖から突き落とされた。
そして落下の衝撃で5000万ダメージを受け、それを所持金によって支払う。
カケルクン 74億 ⇒ 73億5千万
続けざまに振ってきた教頭のクッションになり、さらに5000万ダメージ。
カケルクン 73億5千万 ⇒ 73億
トドメの一撃となったサー・バイブのヒッププレスで首をへし折られ、1億ダメージ。
カケルクン 73億 ⇒ 72億
次に、湖での『レオピン釣り合戦ゲーム』で、転覆した軍用船から投げ出され、溺れる。
助けが来るまでに、累積で500万ダメージを受けた。
カケルクン 72億 ⇒ 71億9500万
そしてもっとも大きなダメージとなったのは、『レオピン真ヘルマラソンゲーム』と『レオピン釣り合戦ゲーム』の敗北。
合計で、6億っ……!
カケルクン 71億9500万 ⇒ 65億9500万
さらにこの金はゲームの賭け金だったので、レオピンに渡ってしまった……!
特別養成学級 902,950,000¥
これで損失計上は、すべて終わり……。
かと思いきや、最後の最後で追い銭があった。
それは、『レオピン釣り合戦ゲーム』において、溺れて保健室送りとなったせいで、1ランクダウン。
もちろんランクダウンなど受け入れるわけにはいかないカケルクンは、教育委員会5億を払ってもみ消す。
カケルクン 71億9500万 ⇒ 60億9500万
なんとカケルクン、たったの1日で19億以上も失うという、大・損・失っ……!
まともなギャンブラーであれば、首を吊ってもおかしくないレベルの大敗北である。
カケルクンはこのショックと、暴れすぎたあまりに呼吸困難になっていた。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァっ……! くやしい……! くやしぃよぉぉぉぉ~~~っ!」
僕の金は増えるどころか、減る一方だなんて……!
ぐぎぎぎぎっ……! 絶対に、絶対に許さないぞぉぉぉ……!
レオピン、こうなったらお前を……! めちゃめちゃのぐちゃぐちゃのぎったぎたの、すってんてんのつるんつるんにしてやるからぁなぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
頭を掻きむしりながら叫ぶカケルクン。
……ずりんっ!
ぬかるみに生えた草を、すっぽりと引っこ抜いたような感触を、両手に覚える。
そこにはなんと、ごっそり抜けた、髪の毛が……!
「はっ……はっさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!?!?」
カケルクン、とうとうハゲルクンに……!
彼はレオピンにチョッカイを出した者の末路を、順調に辿りつつあった。
そう……レオピンに仇なす者はすべて、ケツの毛までむしり取られる……!
たとえ、100億の男と呼ばれた伝説のギャンブラーであっても、例外ではないのだ……!
恐るべし、レオピンっ……!














